女勇者、統一
「今日の訓練の成功を祝して!」
「「「「「「「「「「「かんぱーい!」」」」」」」」」」」「「「「「「「「「「「かんぱーい!」」」」」」」」」」」「「「「「「「「「「「かんぱーい!」」」」」」」」」」」「「「「「「「「「「「かんぱーい!」」」」」」」」」」」「「「「「「「「「「「かんぱーい!」」」」」」」」」」」「「「「「「「「「「「かんぱーい!」」」」」」」」」」」「「「「「「「「「「「かんぱーい!」」」」」」」」」」」「「「「「「「「「「「かんぱーい!」」」」」」」」」」」「「「「「「「「「「「かんぱーい!」」」」」」」」」」」「「「「「「「「「「「かんぱーい!」」」」」」」」」」」……
荒地の地下に広がる巨大な空間を、300人の嬉しそうな女性の声が包み込んだ。手に持った飲み物を思いっきり口に入れた後は、目の前にあるたくさんの食べ物に飛びつく番だ。純白のビキニ風の衣装のみを身につけ、むっちりとしている健康的な肌を露出させた女性が一生懸命に食べ物をほおばったり飲み物を口に入れ続けると言う光景は、文字通り『酒池肉林』といった様相かもしれない。
「今日もお疲れ様、レイン♪」
「それはこっちも同じよ、レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」……
自分の周りにいる何十、何百もの自分の名前を呼び合いながら、レインは互いに健闘を称えあいつづけた。今日もまた一歩新たな事を学んだ喜びと、それをたくさんの自分自身と共有できる嬉しさが、彼女の心を包み込んでいたのである。
そんな陽気な彼女とは対照的に、表情の見えない銀色の仮面に顔を覆った『魔王』は、その内側からじっと大量のレインの様子を眺めつづけていた。前で組んだ腕の上からは、大胆に谷間を露出しているレインの胸に負けず劣らずの大きく柔らかい塊が、黒一色の服に輪郭を作り出していた。
そんな魔王に、興奮で顔が赤く染まったレインが絡んできた。
「ご飯を食べないの?」「仮面脱いじゃえばいいのに」
少し馴れ馴れしい態度だった彼女だが、すぐにその興奮は収まった。魔王の掌にリンゴが突然現れ、そして突然姿を消したからである。そして、銀色の仮面の中から、固いものを噛むような音が聞こえてきた。
「私に勝てるようになれば、いつでも中身を見せるがな」
魔王の目から見える全てのものは、『魔王』本人がその凄まじい魔術を用いて創り出したものである。レインを大量に増殖させるのみならず、彼女が一心に飲み食いしている飲食料も、そして地下に広がる巨大な『根城』も、何もかもが魔王が創り出したものである。今、レインはその強大な力を一片でも得ようと必死になって努力を始め、その成果がほんの僅かだけ見え始めた段階である。現在の状態では、とても魔王に勝てるはずはないのだ。
この宴のように魔王が積極的にレインに協力しているのは、もしかしたらそう言う余裕があるからなのかもしれない。レイン自身も、心の中でそのように納得していた。しかし、絶対に魔王に敵わない、と言う訳ではない、と彼女は同時に信じていた。
「分かったわ」「いつか絶対にあなたの仮面を」「剥いでみせる」
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とは言え、いくらこうやって意気込んでいてもまだまだ彼女は魔王の掌の上であることには変わらなかった。
今日の鍛錬でレインは二手に分かれ、得意の剣の腕を鍛え続ける側と新たに魔術を覚える側に分かれて一日を過ごしていた。そのため、彼女たちに刻まれた今日の記憶は同一ではなく、経験の差が生まれていたのである。神羅万象、あらゆるものを操りかねない魔王の力に勝つには、複数の力をバラバラに持つ状態では絶対に勝てない。全ての経験や記憶を、300人のレイン・シュドー全員に分配する必要があるのである。
「「「「「それじゃ、魔王」」」」」
「「「「「お願いね」」」」」
興奮で火照った体を純白のビキニ風の衣装から露出させながら、一斉にレインは魔王に告げた。
食堂から少し離れた空間に、レインは何十列にも渡って整列し、魔王による記憶や経験の配分を待っていた。そして、魔王が黒い手袋に包まれた掌を向けた途端、300人のレインの体を雷のような、しかし痛みは無く、むしろ心地よさすら感じる刺激が走った。その中で、彼女の頭には別の自分が感じ、そして得たであろう様々な記憶や知識、経験がなだれ込んできた。たっぷりと得意の剣の実力を磨き上げた事、苦手としている魔術の完全なる習得に一歩近づいたこと――。
「あぁ……」あぁ……」あぁ……」あぁ……」あぁ……」あぁ……」あぁ……」あぁ……」あぁ……」あぁ……」あぁ……」あぁ……」あぁ……」あぁ……」あぁ……」あぁ……」あぁ……」あぁ……」あぁ……」あぁ……」あぁ……」あぁ……」あぁ……」あぁ……」あぁ……」あぁ……」あぁ……」あぁ……」あぁ……」あぁ……」あぁ……」あぁ……」あぁ……」あぁ……」あぁ……」あぁ……」あぁ……」あぁ……」あぁ……」あぁ……」あぁ……」あぁ……」あぁ……」あぁ……」あぁ……」あぁ……」あぁ……」あぁ……」あぁ……」あぁ……」あぁ……」あぁ……」あぁ……」あぁ……」あぁ……」あぁ……」あぁ……」あぁ……」あぁ……」あぁ……」あぁ……」あぁ……」あぁ……」あぁ……」あぁ……」あぁ……」あぁ……」あぁ……」あぁ……」あぁ……」あぁ……」あぁ……」あぁ……」あぁ……」あぁ……」あぁ……」あぁ……」あぁ……」あぁ……」……
300人全員が全く同じ記憶や知識、経験を有するようになった時、レインの顔は幸福の感情に包まれていた。口から洩れる声は、純白のビキニ風の衣装のみを身に着けている彼女の外見をよりあでやかに見せていた。
ここにいるたくさんの自分自身が、全員自分と何もかも同じ存在になった、それが彼女にとって何よりの幸福だったのである……。