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レイン、偵察

 レイン・シュドーの体を抉り取って浄化し、彼女の命をも奪いかねない『光のオーラ』を、逆に自らの力にして利用してしまう――魔王からの提案を実現させるための鍛錬は、彼女たちにとって非常に過酷なものであった。世界で最も美しく麗しいと感じあい、どうしても一線を超えられなかったレイン・シュドー同士の鍛錬とは異なり、直接彼女を鍛える事にした魔王には自らの手駒を消す事に対しての躊躇が一切無かったのである。

 勿論、ただ光のオーラを延々とぶつけてレインを浄化させ、存在をこの世界から消し去るだけが鍛錬ではない。オーラを受け止めたり耐えたり避けたり出来ないまま消滅したと見るや、すぐさま彼女たちを純白のビキニ衣装が眩しい元の状態へと蘇らせ、再び同じ鍛錬を続けるのである。


 レインたち全員で共有している日々の記憶に、「浄化」と「復活」、そして「疲労」が幾度と無く刻まれ続けていた。


「「はぁ……」」

「「「なかなか上手くいかないわね……」」」


 魔王と手を組まなければ経験できなかったであろう常識を超えた事態だが、流石に同じ事を幾度と無く続ければ体も精神も慣れてくるもので、少しづつ疲労感は薄れ、鍛錬を行う事ができる時間も増えていった。だが、それとは別の疲れや不安が、レインたちを包んでいた。確かに光のオーラに耐え続ける時間は長くなってはいたが、それでも最終的には浄化され、一時的にこの世界から存在が消されてしまう事が続いていた。いつまで経っても、レインたちはこの力を自らの物にする事が出来ない状態だったのである。

 

 そして今日も、計43回も浄化と復活を続けさせられる中で光のオーラを利用する方法を見出す事ができないままであった。


「「「何が原因なんだろう……」」」

「「「「分からないわ……私の力が足りないから?」」」」

「「「「「でも魔王は精神力も重要だって言ってたし……」」」」」


 心の中で思っていることを確認しあうように、地下空間の各地でレインたちの声が響き続けていた。

 その時であった。鍛錬を追えた後、一時的に席を外していた魔王が彼女たちの目の前に突然現れたのは。


 早速レインたちは一斉に魔王を取り囲み、純白のビキニ衣装に包まれた胸を揺らしながら問いただした。今の自分に足りないものは一体何なのか、どうすれば光のオーラを自分の物にする事が出来るのか、と。何度生死を繰り返しても成果が見出せない今の状況に、彼女たちは少し焦っていたのだ。

 そしてその心は、魔王には完全に見透かされていた。


「そんなに手軽に力を手に入れたいなら今すぐ授けてやろう」

「「「「「え……!?」」」」」

「ただし、相手はすぐ対処法を見つけるだろうがな。後は知らん」


 簡単に手に入り便利に使える力など、すぐ相手にその手の内が分かるほど脆くて弱いもの。長い時間をかけてしっかりと身につけた力こそが、戦いにおいて絶対的な勝利の鍵となるだろう――皮肉を込めた魔王の言葉の真意を察したレインたちは、つい相手に対しての僅かな勝利だけを見出そうとしていた自分自身に反省した。自らの最終的な目的である完全喝永遠なる世界平和を目指すためには、目先の目標をかなえるだけでは到底無理である事を、改めて認識したのであった。


 しばしの沈黙が流れた後、魔王は再び無表情の仮面から声を発した。今回改めてこの場に戻ってきたのはレインを説教するためではなく、彼女たちに指示を出すためであった。地上に広がる人間たちの世界に、面白い動きが生じ始めていたのである。その言葉を聞いたレインたちもまた、その兆候を少しづつ感じ始めていた。


「ふん、気づいていたか」

「「ええ、何度も偵察に行ってるからね」」

「「「ダミーレインを快く思わない人たちの事よねー」」」


 世界を再び蹂躙しようとする魔物――その大半は本物のレインだが――を日々蹴散らし、人々の平和を守り続けているダミーレインたちに対して人々の信頼はますます高まっていた。純白のビキニ衣装のみで身を包み、健康的な肌やたわわな胸を露にする彼女たちの数は毎日のように増え続け、続々と各地の町へ配備されていった。最近は警備以外にも様々な用途でダミーレインが活躍するようになっている様子を、町へ密かに潜入していたレインたちはその目でじっくりと見たのである。勿論、自分と同じ姿形をした存在が人間に媚びへつらう様子をみて腹ただしく思ったのは言うまでも無いが、それを露にしてしまうと変装がばれてしまう可能性があるため、彼女たちはずっと我慢し続けていた。


 ただ、そんな中でレインは、あまりダミーレインが配備されていない町や村がいくつも存在していることに気づき始めていた。魔物に対する唯一無比の絶対的な力と言う事もあり、ほぼ世界中でその姿を見るようになったダミーたちだが、それらの町や村では完全に人々の生活とは隔離されており、町の警備のみに従事する『道具』のような扱いを受けていたのである。

 変装して潜入し、世界の情勢を偵察するという目的ゆえに深くは追求せず、ちらりと倉庫を埋め尽くすダミーレインの姿を見たのみであったが、レインの心に憤りや虚しさは無く、むしろ自分を苦しめてきた相手が道具扱いされる事に対する爽快感すらあった。しかしそれよりも重要なのは、この世界の中で増え続けるダミーレインに反抗する動きが確かにある、と言う事だった。


「「あくまであちこちの町や村の個性みたいだけどね」」

「「そうそう。私を信仰してなかった場所が多かった感じ?」」

「「「だよねー……それで魔王、『面白い動き』って?」」」


 大量のレインたちによる話が終わったのを察した魔王は、楽しんでいるような口調で話し始めた。ダミーレインと言う存在に反抗しようとする者たちの中に、自力で魔物を倒そうとする者が現れ始めている事を。


「「え、それって……」」


 身の程をあまりに知らないのではないか、とレインが驚いたのも無理は無い。今まで何度やっても魔物を倒す事すら出来ず、勇者たちに守られてばかりだった人間がどうやってダミーレインの代わりをしようというのか、と。その疑問に対して魔王は、彼らは新たな勇者になろうと動き出している可能性が高い、と語った。レインに比べれは未熟にも程があるほどの魔術や剣術、そして体力しかないが、それでも彼らは非常にやる気が満ちており、どんな相手でも決して恐れず立ち向かう意志があるのだろう、と少しだけ苦々しい口調に変えながら。


「「そうか、キリカたちだけじゃないもんね」」

「「「うん、魔術を使う人間、少ないけど何人かはいたわよねー」」」

「「「「「確かに、面白い動きじゃないの♪」」」」」」


 ぜひその様子を見に行きたい、と野次馬根性を見せ始めたレインだが、魔王は止めはしなかった。要はこれまで通りに町や村の偵察を行い、人間たちの動きをつぶさに観察すればそういった情報はいやでも目に留まるからである。ただ、今回はより正確な情報を手に入れるため、魔王はレインに2つの指示を与えた。


 1つは、今回の偵察は変装ではなく、レイン自身の姿を完全に隠し、誰にも存在が見られないようにする事。本物のレインと互角以上の力を持つダミーレインへの対策のためであり、特別に魔王自身がその魔術をレインたちにかけることにした。そしてもう1つは――。


「「なるほど……相手に自信をつける……」」

「奴らを祭り上げるのだ」


 ――この情報が真実であると確認した後、わざと人間たちで倒せるレベルの魔物を繰り出し、勇者を目指す人間たちに倒させる事であった。


 勿論、レインたちがその提案を断る訳は無かった。

 自分自身を散々に弄び続ける人間やダミーレインたちに起きた変化を、自分の目で確かめたかったからである……。

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