エピローグ
世界的な戦争が始まった。
争いは各地へと広がり、ひどい混乱が世界中を支配していた。
そんな世界の中でスバルも戦った。
どこの陣営に属する事も無く、ただひとつの国として。
そして戦争は終わった。
世界は変わる。
ポラリスによってでもなく、ヒドレとスコルピオの連合によってでもなく、レオニスによってでもなく、スバルによってでもなく。
それは人の手で。
◇
「やあ、デッドアイ。私とデートをしない?」
レグルスの庭、今では湧出する魔物の姿も無くなったその場所にある俺の私邸、その東屋で茶を飲んでいると、いつの間にか席に座る影があった。
「あんたはいつも唐突だな」
「まあ、それだけが取り柄みたいなものだから」
金色の髪が風に揺れていた。
真っ白なワンピース姿を見て、似合っていると感じているのに、一方でまるで似合っていないと思った。
戦争の間も、終わってからも見かけなかった女だった。
せがまれるままに茶を出してやると、それをいかにも上品ぶって口へと運んだ。
それがまた似合っているのに、似合っていなかった。
「結局、あんたは一体なんだったんだ?ポラリス?ポラリスの敵?ヒドレ?スコルピオ?成瀬レイナの姉?」
この女はどこにでも現れ、どこにでもいた。
その目的も今は知っている。
しかし、その力はどこから来たのか?
レイナだけでなく、大勢の仲間もいたのだろう。
それでありながら、完全なる影の存在だった。
名前もなく、誰にも知られずに繋がっている者たち。
あんた、という言葉が気に触ったのか、メアリって呼んでって言ってるでしょう、と前置いてから俺の問いかけをすべて否定した。
「いいえ。前にも言ったでしょ。私は私。国とかそういうのは関係ないの」
唇をとがらせ、茶を卓へと下ろす。
そして遠くの景色を眺めながら、ぽつりとこぼすように呟いた。
「もしも、私がポラリスの最初の魔術師だって言ったら、デッドアイは信じる?」
「……それにしては若過ぎるんじゃないか?」
あまりにも唐突な話だった。
突拍子も無いほら話にしか思えない。
「これでも若作りには苦労してるのよ」
振り向き、笑う。
どこか寂しげに。
「そういう問題じゃない。既に死んでいるはずだ」
どんなに健康を維持出来たとしても、人には寿命がある。
絶対に有り得ない話だった。
「普通の人間だったらそうね。もしも、私が世界で最初の強化人間、その成功例だって言ったら、どう?」
眉根を寄せた。
俺自身、随分と時が経っているのに、それにしてはいまだ肉体的な衰えを感じていない。
見た目的にもほとんど老けていなかった。
言われた言葉はそのまま俺自身に考えが及んで、色々な可能性を考えさせた。
「言ったでしょ。私は悪い女だって。こんなにも世界を歪めてしまった張本人なんだから。私以上に悪い女はいないはずよ」
結局は否定しない事にした。
確かにそういう事もあるかもしれない。
それを確かめる必要というのもあまり感じなかった。
「そうだな。でも確かに世界の役には立った」
魔物の多くが掃討された。
人は今、世界に向かって進み出している。
多くの国が、門によってではなく、直接の地続きの世界として繋がろうとしている。
それによってまた争いが起こるかもしれない。
ひどい事も起こるだろう。
それでも、魔物に怯え、狭い世界に閉じこもる時代は終わりを告げた。
今、多くの人に希望が溢れている。
その希望を正しく光りに変えられるかどうかは、結局は人次第だ。
誰に導かれる事無く、自分自身で光へと変えていかなくてはならない。
かつての自分がそうしたように。
「かくして、デッドアイは自らの片目から光を失い、そして世界へと光をもたらしたのです」
「なんだそりゃ」
メアリは笑う。
この女はいつも笑っている。
そして、それが似合っていた。
「あなたが望まなくとも、あなたはこれから仰ぎ見る銅像としてじゃなくて、現実に生きる英雄として進んで行かなくてはならない。人々に希望をもたらす義理がある」
結局、それは目の前の女が操っていたコード、その先にいたのがたまたま俺だったからに過ぎないだろう。
しかし、今はそれをそう悪い事ではないと受け止めていた。
「デッドアイ。私は、いや、違うか」
メアリは笑う。
晴れやかに。
かつてポラリスをつくり出した最初の魔術師、その女が笑う。
自らが人類だと。
その代表として。
「私たちは、あなたに期待している」




