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エピローグ

世界的な戦争が始まった。

争いは各地へと広がり、ひどい混乱が世界中を支配していた。


そんな世界の中でスバルも戦った。

どこの陣営に属する事も無く、ただひとつの国として。


そして戦争は終わった。


世界は変わる。


ポラリスによってでもなく、ヒドレとスコルピオの連合によってでもなく、レオニスによってでもなく、スバルによってでもなく。


それは人の手で。



「やあ、デッドアイ。私とデートをしない?」


レグルスの庭、今では湧出する魔物の姿も無くなったその場所にある俺の私邸、その東屋で茶を飲んでいると、いつの間にか席に座る影があった。


「あんたはいつも唐突だな」

「まあ、それだけが取り柄みたいなものだから」


金色の髪が風に揺れていた。

真っ白なワンピース姿を見て、似合っていると感じているのに、一方でまるで似合っていないと思った。

戦争の間も、終わってからも見かけなかった女だった。

せがまれるままに茶を出してやると、それをいかにも上品ぶって口へと運んだ。

それがまた似合っているのに、似合っていなかった。


「結局、あんたは一体なんだったんだ?ポラリス?ポラリスの敵?ヒドレ?スコルピオ?成瀬レイナの姉?」


この女はどこにでも現れ、どこにでもいた。

その目的も今は知っている。

しかし、その力はどこから来たのか?

レイナだけでなく、大勢の仲間もいたのだろう。

それでありながら、完全なる影の存在だった。

名前もなく、誰にも知られずに繋がっている者たち。


あんた、という言葉が気に触ったのか、メアリって呼んでって言ってるでしょう、と前置いてから俺の問いかけをすべて否定した。


「いいえ。前にも言ったでしょ。私は私。国とかそういうのは関係ないの」


唇をとがらせ、茶を卓へと下ろす。

そして遠くの景色を眺めながら、ぽつりとこぼすように呟いた。


「もしも、私がポラリスの最初の魔術師だって言ったら、デッドアイは信じる?」

「……それにしては若過ぎるんじゃないか?」


あまりにも唐突な話だった。

突拍子も無いほら話にしか思えない。


「これでも若作りには苦労してるのよ」


振り向き、笑う。

どこか寂しげに。


「そういう問題じゃない。既に死んでいるはずだ」


どんなに健康を維持出来たとしても、人には寿命がある。

絶対に有り得ない話だった。


「普通の人間だったらそうね。もしも、私が世界で最初の強化人間、その成功例だって言ったら、どう?」


眉根を寄せた。

俺自身、随分と時が経っているのに、それにしてはいまだ肉体的な衰えを感じていない。

見た目的にもほとんど老けていなかった。

言われた言葉はそのまま俺自身に考えが及んで、色々な可能性を考えさせた。


「言ったでしょ。私は悪い女だって。こんなにも世界を歪めてしまった張本人なんだから。私以上に悪い女はいないはずよ」


結局は否定しない事にした。

確かにそういう事もあるかもしれない。

それを確かめる必要というのもあまり感じなかった。


「そうだな。でも確かに世界の役には立った」


魔物の多くが掃討された。

人は今、世界に向かって進み出している。

多くの国が、門によってではなく、直接の地続きの世界として繋がろうとしている。


それによってまた争いが起こるかもしれない。

ひどい事も起こるだろう。

それでも、魔物に怯え、狭い世界に閉じこもる時代は終わりを告げた。


今、多くの人に希望が溢れている。

その希望を正しく光りに変えられるかどうかは、結局は人次第だ。


誰に導かれる事無く、自分自身で光へと変えていかなくてはならない。

かつての自分がそうしたように。


「かくして、デッドアイは自らの片目から光を失い、そして世界へと光をもたらしたのです」

「なんだそりゃ」


メアリは笑う。

この女はいつも笑っている。

そして、それが似合っていた。


「あなたが望まなくとも、あなたはこれから仰ぎ見る銅像としてじゃなくて、現実に生きる英雄として進んで行かなくてはならない。人々に希望をもたらす義理がある」


結局、それは目の前の女が操っていたコード、その先にいたのがたまたま俺だったからに過ぎないだろう。

しかし、今はそれをそう悪い事ではないと受け止めていた。


「デッドアイ。私は、いや、違うか」


メアリは笑う。

晴れやかに。

かつてポラリスをつくり出した最初の魔術師、その女が笑う。

自らが人類だと。

その代表として。


「私たちは、あなたに期待している」


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