湧出点
世界中に不思議な場所がある。
湧出点と呼ばれるそこでは、突如として魔物が現れた。
人の立ち入りが厳重に管理されている危険区域。
アルキバ砂漠。
獣帯。
レグルスの庭。
鬼宿。
南十字陵。
数え上げればきりがない。
そこに現れるのは多種多様な人に仇なすものたち。
人に似た姿を持ちながら、決して意志を通わす事のできない怪力の魔人。
人間をひとくちで丸呑みにしてしまう魔獣。
半人半獣の亜人。
突如として現れ、人を襲う魔物と人との戦いは長く、はるか昔から続いている。
虚空から突如として現れる魔物。
そんな不可思議への解釈はこんなものだった。
世界の悪意が歪みとして具現化する。
地中から吹き出した魔力が純粋な力の衝動として形になる。
魔術師の中には魔物を虚空から生じさせる魔術の研究を行う者すら存在した。
ある時、ひとりの魔術師がこんな事を考えた。
魔物は虚空から生じるのではなく、どこかから転移してくるのではないか、と。
つまり別のどこかで生まれた魔物はそこで成長し、力を蓄え、十分な力を得て、こちらへと空間を飛んでくるのではないかと。
その魔術師を中心に、多くの魔術師がそんな魔術の可能性を探るべく研究を始めた。
転移魔術。
ある地点から別の遠く離れた地点へと、瞬時に物を送り届ける魔術。
そんな魔術は存在しないと馬鹿にする者もいた。
しかしその研究は、中心となった魔術師の死後も続いた。
ずっと。ずっと。
そして数多の年月が流れ、ついに転移魔術の理論が完成する。
完成した転移魔術はどんな物でも一瞬で、はるかかなたにまで転移させた。
転移魔術はまず、魔物との戦いよりも人の生活に大きな影響をもたらす。
転移魔術によって、世界は驚異的に縮まった。
魔物によって分断されていた都市国家が、そして世界が繋がる。
最初は物がありとあらゆる場所から、ありとあらゆる場所へと送られるようになった。
やがて理論は更なる完成へと到達し、人が、それにともない知識と知恵が世界中を行き来した。
未踏の地が既知の場所となり、辺境からは新たな未知の資源が発見され、人の世界はこれまでにない繁栄を迎える。
あらゆる地域に光が当たり、人々は期待する。
魔物の巣もこれで発見されるだろう、と。
魔物がどこから転移してきているのか、それはまだこの時点では謎のままだった。
世界の広さは時間的に縮まる。
圧倒的に。
もはや大陸の端から端ですら隣街と同義である。
しかし結局、魔物がどこから転移してきているのかは、長らく不明なままだった。