ねえ、見ていて?
ちょっと盲目の表現がありますが、さらっとお流しください。
「見ていて、くれないか」
男は、じっと目の前を見据えて立ち尽くす少女の肩に手を置いた。
男の両目を隠す色眼鏡は所々傷がつき、随分と長く使用しているものだとわかる。
初老の、しかしがっしりとたくましい体躯を包むのはごく一般的なシャツとジーンズに、頑丈そうなブーツ。肩から提げているのは大きく膨らんだ革鞄だ。
横に立つ少女はまだ10にもならぬだろう。卵形の顔には静かな色の瞳とピンク色の唇、つんととがった愛らしい鼻に貝殻の耳、肩を越す程度の髪。
小さな身体を包むのは上等なワンピースとズボン。花の飾りのついたブーツに帽子。首にはささやかな輝きの指輪を下げた銀色のネックレス。
男と同じつくりの、それなりに大きい青い革鞄を背負った細い肩に乗せられた男の手はごつごつと硬く、歴戦の戦士のような頼もしさを感じさせた。
「あいつの姿を、決して忘れないでくれないか」
応(いら)えのない頷きを、けれど気配で悟ったのか、男は厳つい顔にやわらかい笑みを浮かべて、少女の頭をくしゃくしゃと優しく撫でた。
「俺は、もうあいつを見ることができねえ。あいつの成長した姿も、背の高くなった姿も、髪が短くなったってもう、見えやしねえ」
男の、低い声は少女の耳によく馴染む。声は、独白めいた響きで少女の耳を震わせていく。
「この目が見えなくなったことは後悔してねえ。でもよ…あいつの、最後の晴れ舞台を見ることができないのが、心残りだったんだ」
その声はまるで懺悔のように、
「だからよ、頼む。……俺の変わりに、お前がこれから生きていく為に……いや、あいつのために、あいつを、あの姿を、覚えていてくれ」
「うん」
愛らしい少女は愛らしい声で、震える男の手を、強く握り締めた。
『さあさあさあさあ、本日最後の大安売りだ!!これを逃せばあとは何も無いよぉ!!ワゴンの中のお好きな洋服にバックに下着に水着、靴下から帽子まで、全部つめ放題でひと袋300G!!300Gの捨て値覚悟の大安売りだぁ!!さあよってらっしゃいいらっしゃい!!』
獲物を狙いが如しまなざしを決した、おそらく20年前はうつくしい女性だっただろう(・・・)ご婦人たちが、雄叫びを上げながらワゴンに殺到し、押し合いへし合いしながら望みの品を手にしようとしている。
その中には当然、少女の母であり、男の娘も入っているのだが、すさまじい殺気混じりの怒声と混乱により、どこにいるのかさっぱりわからない状態だ。
ちなみに男の昔使っていた大きな冒険用鞄も、少女のお出かけ用のバックにも、パンパンに物が詰まり、正直破裂してもおかしくないほどである。
「………あいつも、お前くらいの年にはお父さんって言いながら布団にもぐりこんできてたもんだけどなぁ……」
「お母さん、お買い物するときいつもあんな感じよ?おじーちゃん」
しみじみと遠くを見ながら黄昏る男の腰に、少女の愛らしい手が、いたわるように置かれたのだった。
☆END☆
なんかシリアスの雰囲気のあとにいきなりギャグっていうのが書きたくなった。
反省はしている、後悔はしていない(キリッ
ふざけてすみませんでしたm(_)m