華は一つになる
「華は歌い続ける」最終話の後の可能性。もしもヒヨと一つになれたら。
本編ではフィオーレに、花の事を聞きますが、こちらでは見知らぬ男から聞いたことになっています。
五年の月日が経ち、シランは旅をしながらもあの日の懐かしい街に帰っきていた。あの日、ヒヨが居なくなったあの街。
街をさまよいながら、気付けば街外れの丘にシランは足を運んでいた。
丘には一輪紅い花が咲いている。あれが街でシランが会った男が言っていた「歌う花」であろう。月明かりに照らされると歌いだすという花。シランが探し続けていた、ヒヨへの手掛かりかもしれない花。
「夜になるまで待つか」
シランは花の傍らに座り、夜を待つ。花はヒヨの着物のような紅い花弁をしていて、中央に向かって花弁が淡く青みがかっているのがまるで、シランにはヒヨの瞳のように見えた。
何かがシランの頭に触れ、ゆっくりと目を覚ます。シランは夜を待ちながら花の傍らで眠ってしまっていたのだ。
「おはよう、シラン」
淡い栗色の髪が夜風に揺れる。瞳は空のように青いが以前のようなあどけないものではなく、どこかしっかりした強い眼差しで見据えられ、シランは思わず目を逸らしてしまいそうになる。シランを呼ぶ声は低く。肩幅もがっちりしていて全てが男らしく成長していた、きっと今ではシランより身長も高くなって居るだろう。
「ヒヨ……」
「ただいま」
思わずシランの視界が歪み、シランは起きあがると同時にヒヨを強く抱き締める。だが、きっと他の者から見たらシランがヒヨに抱きついてしがみついているようにしか見えないだろう。ヒヨはぽんぽんと優しくシランの背を撫でた。
「シラン、痛いよ」
「ヒヨ、本当にヒヨなんだな」
「当たり前じゃないか」
消えてしまわないように強く強くシランが抱き締めると、小さな笑い声が降ってきた。
「待たせちゃってごめんね、シランずっと会いたかったよ」
そう言うとヒヨの顔が近付いてきてシランは今度こそ思わず顔を背けた。その頬は、辺りが暗くてもはっきり分かるほど赤い。
「怖い?」
「怖くはないが、こんな場所では……」
「大丈夫、誰も見てないから。それに、我慢できないよ、今すぐシランと一つになりたい」
再会したヒヨは大人びていたが、この時はどこか切羽詰まった余裕のない顔でシランを見ている。シランも、もう我慢が出来ないのは自分でわかっていた。
シランの衣服を捲り上げ、脱がしていく。露わになった体を、ヒヨの細い指が触れなで上げ擽れば、シランの体がびくりと跳ねた。
「んっ……」
それを見たヒヨは満足げに舌をちらつかせ、顔を素肌に寄せると舌を這わし始める。脇腹を通り、胸元まで舌を這わせば、刺激を与え膨れた突起に吸い付く。
「ひ、ヒヨ……」
戸惑ったようなシランの声、嫌がるように身を捩るもヒヨに弄ばれたシランの体はほのかに赤く色付いていた。
「段々気持ち良くなっていくからね」
指先が下に下がっていきズボンの中に入ると、核心に触れる。それを取り出すとヒヨの細い指先がシランに絡みつき、刺激を与えていく。刺激を与えられたシランの核心はすでに熱く、高ぶっていた。その間、ヒヨは絶え間なくシランにキスを繰り返す。
すっかりトロトロに溶かされたシランはヒヨにしがみつき、貪るように口付けを強請っていた。
ヒヨの指はシランを追い詰めていく、シランはビクビクと体を震わせ堪えきれないと言うようにしがみつき爪を立てた。
「あっ、っ……ヒヨ……」
ヒヨは指先についたシランの白く濁る蜜を見て小さく笑い、そのまま尻の奥へと指を潜ませていき強張るそこに塗り込んでいく。
「ま、待てそっちは」
「ダメ、ちゃんと慣らさないと」
「ひっ、っ……ぅ、なんだか……変だ」
「変? 気持ち良いの間違いでしょう」
意地悪く笑うヒヨには適わないとシランは諦めヒヨに身を委ねた。
ヒヨの熱がゆっくりとシランと混ざり合い、二人は一つになる。指先を絡め合い、見つめ合えばシランもヒヨも幸せそうに笑い合った。
「お兄ちゃん」
艶やかな黒髪の少年が、紅い花の傍で眠る青年に声を掛ける、しかし青年は起きることはない。
「シラン……」
少年は小さく呟いた。だが、返事はない。
花の根は青年に根付きやがて一つになるのだろう。少年は空を仰ぎ見た。いつか見た泣き出しそうな灰色の空に胸が痛む。
紅い華は、勝ち誇ったように揺れた。
果たしてこれが、彼の望んだ結末だったのだろうか、答えは誰にも分からない。