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危険です厄病女神

「先輩のお馬鹿ぁーっ! お馬鹿ぁーっ!」

「貴様なんぞは大馬鹿だっ! 大馬鹿っ!」

 私と先輩は本当にお馬鹿で大馬鹿な口喧嘩を続けていました。始めてからもう1時間は過ぎたはずです。

 この言い合いが無意味で無価値でお互いの体力と気力を磨耗するだけのマイナスしか生み出さない本当に不毛な行為だということは私も先輩も理解していることです。

 しかし、私たちはお互いに引かないのです。

 そもそも、先輩は負けず嫌いで頑固で偏屈な人ですから、途中で身を引くなんて大人なことができる人ではありません。大概は相手が言い負かされるか大人しく身を引くかで決着がつくのです。

 そして、私はこーいう細かいことにはさしてこだわらない大らかな思考を持った人間だと自負しています。また、そのように行動してきました。

 しかし、今回は別なのです。もんのすごーくムカついてしょうがないのです。こんなに腹が立つのは私が生まれて以来初めてなような気もします。ていうか、確実にそうです。そもそも、私は先輩に会うまでは無表情キャラだったんですよ? いや、マジで。

 とにかく! 今回、私は大人しく引く気はないのです! てか、怒って当然ですよねっ!? 私が告白したら誰とも付き合う気ないとか吹かしてたくせに、あっさり他の女とちゅーするって何ですかっ!? 第一次世界大戦時におけるイギリスの中東外交並みの嘘つきですよっ! よくわかんない人は世界史の先生に聞いてくださいっ!

「あー! もう! 先輩なんて大嫌いだーっ! こんな我侭な人知りません!」

「俺だって貴様なんぞ大嫌いだっ! こんなにも面倒臭い奴の面倒は見れん!」

「ほら! すぐそうやって怒鳴り返すっ! そーいうとこが我侭なんです! 女の子にモテませんよ! 一生独身で市営住宅の一室で孤独死しちゃいますよっ!?」

「モテなくていいんだって言ってるだろ! 貴様の脳味噌にはそれくらいの情報も書き込めんのか!? ファミコンの方がまだ記憶容量大きいんじゃないかっ!?」

 酷い人です。ええ、もう、本当に、先輩は酷い人です。こんな先輩に付き合える人は私くらいのもんです。大らかで心優しく拘りのない私くらいしかこんな先輩に付いていくことはできません。

 でも、そんな私でも限界ってもんがあります。今までは限界じゃなかったのかっていう愚問は封殺します。

 私が激怒している理由はただ一つ。

「大体! せ、先輩って人は! 私を振っておいて、一生恋愛しねとか言ったくせに、さっき、あなたは何をしてたんですかっ!?」

「あー! もう、そんなぎゃーぎゃー騒ぐな! 馬鹿野郎!」

「野郎じゃありません! 女の子だもん!」

「揚げ足を取るなぁっ!」

「とにかく! さっき、先輩は何をやってました!?」

 私は完璧なる物的証拠を手にした検事のように先輩を追及する。この叱責にはさすがの先輩も言い返す言葉が咄嗟には出ないようで黙りこみます。

 そう。私が激怒しているのは、先輩が行った裏切り的行為です。

「先輩! あなた、京島さんとちゅーしてたじゃないですかっ!」

「「「えーっ!?」」」

「「何ーっ!?」」

「あらあら、まあまあ」

「やりますね」

 私の決定的な言葉に、いつの間にか集まっていた人々が思い思いの言葉を口にします。

 しかし、今の私にとってそれらの人々の存在に意味などありません。いいのです。いようがいまいが。

 いえ、それは嘘です。そう、実際、私は殆ど先輩以外の人は多かれ少なかれどーでもよいのです。私にとって先輩と先輩以外の人々との間には埋めようのない大きな差があるのです。ずばり、その差は「好きな人」と「それ以外の人」です。この二者の間に大きな差ができるのは当然であり、必然です。

 私が見たいのは先輩の姿であり、私が聞きたいのは先輩の声であり、私が触れたいのは先輩の体であり、私が感じたいのは先輩の雰囲気であり、私が共に居て生きたいのは先輩その人なのです。

 その先輩が犯した裏切りめいた行為を私は許すことができません。ええ、できまへんとも! できるわけねー!

「くっ! そんな恥ずかしいことをこんなに人がいるところで言うな!」

「そんな恥ずかしいことしやがったのは何処の誰ですか!?」

 ああぁっ! もう大変全くおもっくそ腹が立ちます! 先輩の裏切り行為にもムカつくのですが、今まで何もできず先輩との距離を縮められなかった不甲斐ない私自身にも腹が立つんです。腹立ち過ぎてもう何言ってるか分かんなくなってきました。

「うぎゃー! もう先輩なんて死ねー! 死んじゃえっ! てか先輩殺して私も死にます!」

「貴様! 言うに事欠いて死ねだとっ!? 貴様が死ね! 死ぬなら一人で死ねっ!」

「死んじゃえー! 死ねー!」

「貴様が死ね!」

 私と先輩は死ね死ね団(昔の特撮ものの悪の組織にあるんです。聞いただけなので字が合っているか自信はありません)みたいに死ね死ね言い合っていました。

「お前らさ。さっきから馬鹿なことしてると思ってたが、今のお前らそれに輪をかけたくらい馬鹿で低レベルだぞ?」

 草田さんが呆れ果てたといった感じで言います。他の人たちもうんうんと頷きますが、そんなこと知ったこっちゃない!


 私は大きく息を吸って吐くーという、つまり、深呼吸をしました。その間、先輩は疲れたのか頭や喉が痛むのか額と喉を押さえながらぜーぜーしています。

 私はかなりヤケッパチな気分に陥っていました。ええ、そうです。どーせ、明日、私は帰らなければいけないのです。夏休みの最後の日までいたら学校に間に合いませんからね。当然です。もう明日に帰るってことは前から決まっていたのです。そして、次、会う時、先輩には彼女がいるかもしれないのです。いや、もしかしたら、もう会えないかもしれないのです。

 そう考えると、私は大変絶望的な気分になったのです。かなり自暴自棄な気分です。

 これは危ない。

 私は先輩のこととなると色々と見境がなくなってしまうことを自覚しています。時にとんでもない言動をしてしまうのです。それは全て先輩への一途な愛ゆえなのですがね。

 自らの危険な言動を戒め、気分を鎮めるべく一旦深呼吸をすることにしたのです。

 このまま、私が大人しく退けば良かったのかもしれません。そーすれば、この先輩とのいがみ合いは終わったでしょう。私は翌日故郷に帰り、先輩はこのまま一人でいるか、京島さんと付き合うかするでしょう。いや、良くないじゃん!

 そう考えたとき、台所が目に入りました。

 大変良くない。凄まじく宜しくない考えが思いつきました。

 しかし、思いついちゃったことはしてしまうのです。そう。その時の私の思考回路は大変良くない異常な状況であったのです。

 台所では何故だか何々堂さんがのんびりお茶を楽しんでいます。

「……何々堂さん……それ取ってくれませんか?」

「ん? ほいきた」

 何々堂さんが手渡してくれたものを握ります。何故だか自然と頬が緩みます。ニヤッと笑ってみました。

「…………ちょ! ちょっとーっ!!」

 私と何々堂さん以外のほぼ全員が一瞬の沈黙の後、声を合わせて叫びました。

 しかし、そんな反応は無視です。今、私は最強なのです。これさえあれば大丈夫な気がします。

 誰かが邪魔に入る前に素早く先輩に近付き、それを先輩の間近に当てます。

「先輩ー」

「……貴様、本気で狂ったか?」

 先輩は驚きながらも落ち着いた雰囲気で私を見下ろします。

「いいえ、普通ですよー? 結構落ち着いてますよ。さっきよりも随分と気分は静まりました」

 何だかとっても気分も晴れやかなのです。何で、最初からこうしなかったのでしょう? これで万事スッキリ解決できるのです。

「先輩? 私の言うこと聞いてくださいね?」

「聞かんでも分かるが、一応、聞いておく。断ったら?」

 先輩の言葉に、私はにっこり笑って答えます。

「包丁刺しちゃうぞ?」


何かとんでもないことになっちゃいましたねー(他人事)。

でも、大丈夫です! 次回最終回でまとめます!

たぶん、大丈夫……。

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