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厄病女神と頭の悪い口喧嘩を

「何だって、先輩は京島さんとキスなんてしちゃってるんですか!? 馬鹿じゃないですかっ!?」

 絹坂は相当頭にきているらしく、絶叫した後、づかづか土足のまま部屋に上がりこみながら怒鳴りだした。

 普通の男ならば狼狽するところかもしれないが、俺は違う。俺をそんな腑抜けと一緒にされては困る。

 しかしながら、無用に怒鳴り返して絹坂を刺激したり、暴力的手段に出るようなことも、卑怯にもその場を残して逃げ出すようなこともしない。紳士的に落ち着いて説得に当たるのだ。

「おい、絹坂。土足で部屋に上がるな。窓からつまみ出すぞ」

 俺が極めて友好的に穏やかに言ってやったところ、絹坂は、

「先輩の馬鹿! 馬鹿! アーホー! アーホー!」

 と、聞く耳持たず。低脳にして短絡的な悪言を並べ立て、あっかんべーまでする始末。貴様は小学生か? いや、今時の小学生でもこれだけ馬鹿な言動はないか。ということは、幼稚園児並みか?

 ともかく、絹坂の頭の状態はとっても阿呆な状況であることは確認できた。いや、阿呆なのは元からか?

 こんな馬鹿の言うことに惑わされてはいけない。俺は阿呆な相手の売り言葉を買って無意味な口喧嘩をするような愚か者ではないのだ。

「先輩のばーかばーかばーかばーかーっ!!」

「おい、き」

「アホーアホー!」

「こら、絹」

「単細胞ー! 頓珍漢ー!」

「おい! 絹さ」

「先輩最低ー! さいてーだー!」

 さっきも言ったが、本当にまったくもって低脳で短絡的で頭が悪く、この世に存在すべきでないほどに無意味で無価値な言葉の数々だ。こんな下らない言葉に釣られて俺も怒鳴り返しては不毛な口喧嘩に発展することは目に見えている。

 しかし、しかしだ。自慢じゃあないが、俺の堪忍袋の尾は世界水準から見ても遥かに短いと評判なのだ。いや、何処で誰が評判にしているか分からんが、まあ、とにかく、俺は短気で怒りっぽいのだ。

 よって、絹坂の悪言の数々に我慢などできるわけがない。

「貴様ぁっ! 言わせておけば、がたがたがたがた低脳な糞が如き悪言を垂れ流しおってっ! 馬鹿で阿呆で単細胞は貴様だ! この低脳馬鹿娘め!」

「あー! 先輩! 酷い! 逆切れですか!? 最低ですよ! 最低! 子供じゃないんだから!」

「貴様にガキ言われたくないわ! この糞ガキ!」

「先輩って、よくガキガキって私のことを言いますけど! 2歳くらいしか変わらないじゃないですか! 2歳年上なくらいで偉そうにすんなー!」

「こーいうのは精神年齢で考えるんだ! 貴様と俺の精神年齢の違いが2歳如きなわけあるか!? 少なくとも20か30は離れとるわっ!」

「20も30も離れてたら先輩おっさんかじじいじゃないですかっ!? やーい! このくそじじー!」

「なんだと!? 貴様! 言わせておけば!?」

「全然言わせてないじゃん! 先輩も悪口言いまくりじゃないですかっ!? 自分棚に上げて偉そうに言うなーっ!」

 俺と絹坂はこんなような不毛どころか無毛な言い争いを延々と続けていた。俺も絹坂も随分と血が頭に上っていたのだと思う。でなければ、1時間も言い争う前に、どっちかが呆れて黙るか、面倒臭くなって部屋を出て行くかしたはずだ。

 しかし、黙った方が負けだとでも思っていたのだろうか、俺たちは全く舌を休めることもなく、互いの目を睨み合いながら、喉の調子も考えず言葉で殴るような怒鳴り合いを、時に唾を飛ばしつつもそんなことを露ほども気にせず、延々と続ける。

 さすがに、煩かったか木暮壮の大家である二十日先輩や、その彼氏たる鳴嶋先輩、隣人で漫画家の柚子、柚子の編集者の松永さんやらが玄関先に立っていた。何故か京島弟もいて、更にはどーいうわけか高校時代からの友人である薄村や、馴染みの古本屋兼古道具屋の何々堂、大学の腐れ縁で学友をしている草田、青木、瀬戸野の3人組まで来ていた。

「貴様ら! 何でそこにいる!?」

 暫し、怒鳴り合いを中止してかなり集合している野次馬どもに向かって怒鳴る。

「何か、お前が面白いことしてるって聞いたからなー。しかし、よくそんだけ怒鳴りあえるなー」

「確かにこれは見物みものだな。喧嘩ってのは他人からすれば面白いもんだからな」

「怒ってる絹ちゃんもかわいいよー。萌えー」

 草田、青木、瀬戸野の3人組がいずれもヘラヘラと楽しげに笑いながら言う。そんなに俺が息を切らせているのが嬉しいか?

「他人の不幸は蜜の味。私たちの共通認識のはずです。よって、私が知人たちに連絡し、急遽、あなたの口喧嘩観戦と相成りました」

 薄村。貴様のせいだったか……。いや、確かに、他人の不幸の蜜はちゅーちゅー吸い尽くすが俺たちの共通認識ではあるが……。余計なことしないでくれ。

「フーフフー。随分と面白そうな気がするからね。ここで見物させてもらうわね?」

 何々堂は台所で勝手に珈琲を用意しながら言う。人の口喧嘩の何が楽しいものか。

「いやー。君が煩いから漫画執筆に集中できなくてー。ついでにお腹減ったー。何か食べるものないー?」

「あんたは仕事サボりたいだけでしょっ! さっさと働け! 穀潰ごくつぶしがっ!」

 柚子は玄関のドアにしがみつきながら偉そうにほざき、松永さんがその服やら髪やらを力任せに引っ張る。抜けるぞ?

「あははー! 火事と喧嘩は江戸の華ってかー!? ぐびぐび」

「しかし、よくもそんなに言葉が思いつくものだ」

 二十日先輩は酒を飲みながらげらげら笑い、鳴嶋先輩は落ち着いた低い声で呟く。

「貴様ら! 俺を馬鹿にしてるなっ!? それは、大変、遺憾だ! 馬鹿なのは絹坂だけだ!」

「何で私だけ馬鹿なんですか!? 先輩だって十分馬鹿です! てか私の2倍は馬鹿です!」

「んだとっ!? 俺が貴様なんぞの倍も馬鹿なわけないだろ! 貴様が俺の10倍は馬鹿だ!」

 無毛な口喧嘩はまだ続く。


延々と口喧嘩は続きます。次話でも口喧嘩します。

あと2話で完結です。上手くまとまるのか!?

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