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雨降り憂鬱厄病女神

 あー。あー、うー……。

 あ、どーも、皆さんー、おはよーごじゃいまふ……。

 ああ、でも、皆さんにとってはおはよーじゃないかもしれませんね。でも、私にとってはおはようにゃんデス。今起きたからー。

 もう、何かやる気ないのです。時計を見ると、もう朝の10時です。今日はまだ一度も布団から出ていません。顔を洗ってもいないし、トイレにも行っていないし、着替えてもいませんし、朝ごはんも作っていませんし食べてません。

 台風は急に歩みを速めて昨夜のうちに通り過ぎてしまい、今日は台風一過の晴れってわけではなく、またやってきた次の台風の影響でじとじと雨日和です。ああ、私の気分と同じく憂鬱な天候です。

 先輩は、あぁ……、先輩はどーしたのでしょう? 朝ごはんも食べずにバイトに行ってしまったのでしょうか? それとも大学に? 何々堂? 九本壮? いえ、何処だって関係ありません。とにかく、先輩は出かけているようです。だって、気配がないもの。この部屋にいるのは私一人。

 あぁぅ……。先輩のことを考えると、胸が痛みます。持病のしゃく(漢字が分かりません)じゃあないです。そこは安心して下さい。しかし、もう、いっそのこと何かの病気である方がまだ薬飲んだりとか治療したりとかで対処のしようがあって、マシです。

 でも、心が痛いのってどーすればいいんでしょう? 忘れればよいのですか? 泣けばよいのですか? 怒ればよいのですか? 笑えばよいのですか? 何か他のことをすればよいのですか?

 私には分からないのです。ああ、胸が痛いー。

 しくしくと自然に涙は零れ、枕を湿らせていきます。こんな弱弱しい姿は先輩にはお見せできません。あの人は強い人が好きなんです。ああ、でもフラれた今となっては意味なし関係なしですねー。あはは、うふふ……。

 引き攣った笑みを浮かべながら体を起こします。あぁ、体が重い……。

 ぐったりした気分で、布団を畳み、テキトーにパンを口に押し込み、緩慢な動きで着替えを済ませます。ああ、掃除しないと……。

「あれ?」

 押入れから掃除機を取り出しているときに、ふと思いました。

 何で、私、自分をフッた相手の部屋にまだいて、その上、掃除までしようとしてんの? こんなことに意味あるの? 凄い虚しくない? 何か私馬鹿みたいじゃない?

「え、えへへ、えへ、えぐ、ふえ、えう……」

 私は自分が滑稽に思え、笑いそうになり、しかし、でも、悲しみの方が大きくて、やっぱり涙が出てきてしまうのでした。


 私は一人で寂しく、

「るーるるーるーるー」

 とか、わけの分からない鼻歌を泣き顔でそらんじながら掃除機をかけ、その後、お風呂掃除をしようとして浴室で転倒して腰を手酷く痛め、部屋でぐったりしました。

 時計を見ると、いつの間にか昼ご飯時を大いに過ぎています。もうサングラスの紳士の時間からハゲおじさんの時間。

 お昼ご飯を一人虚しく食べようかと冷蔵庫を開けてみると、中はほぼ空っぽでした。昨日のピクニックのお弁当に食材を使い過ぎたようです。その結果が、憂鬱への引導を渡されるようなことになったなんて……。また、泣きそうでふ……。 私はとりあえず牛乳なしコーンフレークをばりばり食ってから買い物に行くことにしました。


 ああ、蒸し暑い……。雨はしとしと降り。私は先輩の部屋の玄関に転がっていたビニール傘を差してぽてぽて歩きます。あーもーイヤー。イヤーって耳のことじゃないですよー? 漢字にしたら「嫌ー」です。そんくらい分かる? すんません。

「絹坂さん」

 声を掛けられてはっと正気に戻りました。私は何処をどう歩いていたんでしょうか? いつのまにやら何々堂の前にいました。

 声を掛けてきたのはうすむらさきさん(相変わらず漢字が分かりません)でした。あと、何々堂の主人の女性もいます。

 何故だか2人は雨降りの中、外にテーブルと椅子を出して大きなパラソルを立ててお茶をしているようでした。わざわざ雨の日に外でやることですか?

「何やってるんですか?」

「お茶です」「ダージリンよ。あなたもどうかしら?」

 2人は白磁のティーカップを掲げて言います。うすむらさきさんは無表情で。何々堂さんは大人な微笑で。

 私はとりあえずパラソルの下に入りました。椅子はちょうど三脚用意されています。まるで、私が来るのを予期していたかのようです。偶然だと思いますけど……。

 しかし、その椅子が何とも変てこなもんで、うすむらさきさんが座っている椅子は紫色の岩みたいなやつで、何々堂さんが座っているのは達磨でした。空いている残りの一脚はみかん箱でした。いじめですか?

「大丈夫よ。それは巧妙にみかん箱に偽装されているけれど、主たる素材は木だから丈夫よ。座っても濡れても大丈夫」

 椅子をみかん箱に巧妙に偽装させる意味って何ですか?

 とりあえず、私はそのみかん箱椅子に座りました。座った感じは、なるほど、確かに木です。がっしりていて壊れそうな気配はありません。

「何だか憂鬱そうね」

 何々堂さんは白磁のティーカップにだーじりんとかいうお茶を注ぎ入れながら言います。何で憂鬱そうな人にええ感じの微笑で話しかけるんですか?

「あら、気を悪くしたならごめんなさい?」

 むっとした顔をした私に何々堂さんは言います。口では謝っているのに相変わらずの微笑です。これがデフォルトなのでしょうか?

「お絹ちゃんの憂鬱顔が可愛かったから、つい、微笑ましくてね」

 お絹ちゃんって私ですか? まあ、私なんでしょうね。その呼び名は別に良いんですけど、何で私の名前を知っているんでしょう? あ、さっき、うすむらさきさんが言ってたっけ。

「男は、女は笑ってる顔が一番魅力的だって言うけれど、それは女の機嫌を取る為の方便ね。本当に魅力的な乙女はどんな顔をしたって魅力的なものよ。怒ってたって泣いてたって憂鬱だってね。馬鹿な男どもにはそれが分からんのですよ」

 そう言って何々堂さんは「ほほほ」と笑います。

 私はどう反応すれば良いのか分からずうすむらさきさんを見ました。彼女は私の視線を避け、高笑いする何々堂さんも避け、静かにティーカップを傾けます。見ない振りか。

 気分も調子も悪い私もとりあえず曖昧な反応に終始していると、何々堂さんは一人で勝手に笑い終え、反応がなかったことを気にも留めず、

「さ。飲んで? 結構高い茶葉だから、高い分は美味しいわよ?」

 お茶を勧めてくれます。それって、結局、どんくらい美味しいんですか?

「あら、お茶菓子がないわね。ちょっとお煎餅でも持ってくるわね?」

 何々堂さんはそう言ってテーブルの上にあった空の器を持って奥に引っ込みました。紅茶に煎餅って……。

「さっきまでは雷おこしでしたよ」

 うすむらさきさんが呟きます。雷おこしと紅茶もミスマッチですねー。

「ところで、絹坂さんはどーしました? 機嫌が宜しくなさそうですね」

 うすうらさきさんは細く鋭い目で私を見ながら言います。私が答える答える前に、言葉を続けます。

「委員長……彼関連でしょう?」

 さすがに今までの私の言動を知っているうすむらさきさんにはお見通しのようです。私は黙って頷き、そのままつらつらと昨日実質フラれてしまったことを告白しました。こーいう気分の落ち込んだときって誰かに相談したいものですよねー?

「彼が恋をしないと言ったのは本心だと思います」

 うすむらさきさんは妙な自信と確信を持って答えます。どういうことか尋ねると、彼女は少しばかり悩むような顔をしてから、迷うように言葉を口にしました。

「彼は恋人を、ああ、以前、騒いでいた例の元カノです。その恋人が、実は彼とラブラブバカップルだったのですが……」

 先輩がラブラブバカップル……想像できないです。まさか、お弁当のときにアーンとかペアルックとか膝枕とか添い寝とか色々エロエロやっていたのでしょうか? そんな! ある意味、すげーショックです!

「その彼女が恋途中に逝きまして」

「いきまして?」

 何処に?

「ええ、天国に」

 マジかよ。


何だか前話でコメディらしからぬ展開になったにも関わらず、今話でコメディらしくなりました。

やはり、私は何でもかんでも茶化さないと気が済まない人間のようです。

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