厄病女神と合コン参加の誘い
そして、冒頭に戻る。
おはよう。諸君。
朝っぱらにあった不愉快な出来事を理解して頂けただろうか? 同情してくれ。金はいらんから同情してくれ。
今の時刻は朝のワイドショーがテレビ画面から撤退し始めた頃。俺が寝入ったのが六時くらいだから、とりあえず四時間は寝れたことになる。若者には十分な睡眠時間だ。
しかし、俺は寝足りない感満々だ。まだ寝不足な気がする。というのも二日酔いなのか何なのか知らんが胸はムカムカ頭は痛く、体調絶不調。その上、寝起きが最悪だ。
俺の部屋の電話は居間にある。よって、ベッドで寝ている時に電話が鳴った場合、ベッドから出て電話を取るか。布団をかぶって無視するかしか方法がない。
さっき、電話が鳴り響いた時、俺は迷わず後者を選択した。電話の発する耳障りな騒音によって強制的に覚醒されたものの、まだ眠りに戻ることは可能と思われた。
しかし、電話は鳴り続ける。一旦、切れたと思ったら数分してまた鳴る。
俺は男らしく諦めて、電話を取るべく、ベッドからずるずると体を引き摺り出して、その際、俺の上にいた絹坂が転がり落ちたが関係ない。四畳間を這って行き、腕を限界まで伸ばして受話器を取った。
「…もしもし…」
「かめよーかめさんよー」
俺は電話を切った。
すぐ鳴った。
渋々と受話器を取る。
「おいおい、ひでーよ。ちょっとふざけてみただけじゃん」
受話器からは無駄にでかく明るい声が聞こえてくる。これがうら若き乙女の鈴のような声ならば俺の気分は快晴の如く晴れ渡ったことだろう。しかし、そうではない。そうではない為、俺の気分は曇天の如く落ち込んだ。
「何だ。草田」
声の主は草田だった。草田心平。同じ大学の奴で、同じ高校の出身であり、かつ俺が属していた組織にこいつもいた。一応、友人とでも言うべきであろうか?
「いや。実は困ったことになってよ」
「それは喜ばしい」
「酷いこと言うなよ」
それから草田は話し始めた。要するに今夜、同じ高校だった友人と合コンをすることになり、我が大学の男女を二人ずつ。向こうの大学の男女を二人ずつ出して合コンをすることになっていたらしい。
「それで?」
話の流れから大体の想像はついた。男が足りなくなったから俺に出席しろとでも言うのだろう。
しかし、俺は朝まで酒を強制的に浴びるように飲まされた身だ。これからまた酒なぞ飲めるはずもない。
「実はよー。こっちから出る奴が一人足りなくなってよー」
ほら来た。
「俺は行かんぞ。酒はこりごりだ。あと二日は飲まん」
「いや、酒飲まなくてもいいから。そういうこでいけばいいじゃん」
草田は軽い調子で言った。ん? さっき、少し気になる表現があったな。
「そういうこってどういうこだ?」
「いやさ。実は行けなくなったのが山本さんで」
「……女が一人足りないところに男が一人増えてどーする?」
俺は嫌な予感をひしひしと感じながら尋ねた。
「お前、女装して来てくれね?」
「断固として断る!」
何故、俺が女装して合コンに参加し、酒臭い野郎どもから、
「君可愛いねー? 名前は? 趣味は? 好きな男のタイプは?」
などと聞かれねばならんのか?
「ほらさ。前さ。木村を美人局で騙まし討ちにした時のお前の女装は滅茶苦茶綺麗だったじゃねえか。あれなら男だってバレねえよ」
俺は褒められているのか? いや、違うだろ。例え、褒められていたとしても嬉しくも何ともない。
ちなみに、木村というのは俺が高校二年生だった時の生徒会長で。俺の属していた組織への弾圧を強めた結果、俺扮する女子による美人局に遭って失脚した男だ。俺たちのいる大学の先輩でもある。非常に接し辛い。
「貴様が何と言おうとも俺は女装して男にベタベタされるするつもりはない! 当たり前だろ! この糞ボケめ!」
俺は思いっきり受話器を怒鳴りつけて電話を叩き切った。この渾身の音撃で草田の鼓膜に少なからぬダメージを与えただろう。それで少し俺は気分が回復した。他人の不幸は蜜の味だ。
そのまま、俺はだらりと四畳間に伸びきったまま二度寝に入ることにした。
しかし、そのまま寝ることはできなかった。
「先輩ー。痛いですー」
そのまま寝てればいいものを、絹坂が起き上がってやって来た。
「何やってるんですか?」
絹坂は床に寝そべっている俺を見て不審そうに言った。
「草田の奴が電話を掛けてきやがった」
俺は不機嫌に言った。
「草田先輩ですかー? 懐かしいなー。何て電話してきたんですかー?」
絹坂はのんびりと言い、俺の横に転がった。こいつはたまに俺の真似をすることがあった。ガキみたいだから止めろと言うておるのに、まだ改善されていないらしい。困ったことだ。
「合コンに来いとぬかしおった」
「えー? 行くの断ったんですかー?」
絹坂は少し意外そうに目を見開いて言った。
「……俺がそこまで女に貪欲そうに見えるか?」
「いいえ、全然」
絹坂はふるふると首を振った。しかし、少し考えるような顔で言った。
「でも、彼女くらい作りたいんじゃないですか?」
こいつの言うことはあながち的外れでもない。確かに、彼女が欲しいという生物の原始的欲求が全く無いとは言い切れない。
「しかし、貴様を部屋に残してぷらぷら遊びに行けるものか」
放っておいたら何をするか分からん。そういう妙な危険性がこいつにはある。
「……そーすか…」
絹坂は神妙な顔で頷いた。
何となくほっぺをぷにぷに突付いてやる。
何故か絹坂は嬉しそうにニヤニヤと笑った。
「何をニヤニヤ笑っている? 気持ち悪い奴め」
「いいえー。別にー」
俺は目を閉じた。二度寝するつもりだ。頭が痛い。
今のところ登場人物4人ですね。やたら少ないです。
そして、相変わらず場面は変わりませんね。