先輩を探せ!厄病女神
先輩を探そうと言っても、この界隈は全国的にも随一の大都市に近く、結構な人がいる街です。
夏休みも終盤に入り、人々は待ち受ける険しい学業や仕事から全力で目を逸らし、残り少ない余暇を楽しもうと躍起になって外出しているようで、街中には人が溢れていました。これでは、人嫌いな先輩はすぐに人酔いしてしまいます。
しかし、この何万という人がいる街の中から先輩一人を探し出すことは、いくら愛が味方していようとも至極難解なことです。先輩が赤白横縞の目立つ服を着ていて、行く先々で杖とか帽子とか眼鏡とかを落として行ってくれれば良かったのに。
普段で歩かない人は行く所がないので探し易いと言います。
先輩も外出嫌いな人で、用件もなく家を出ることは稀です。
しかし、あまりにも外出しない人なので、一体全体、何処に行っているのか全く見当がつきません。
せいぜい大学かバイト先の本屋さんくらいです。あと強いて挙げるとすれば、近所のスーパーとかショッピングモールですが。先輩がそんな所に長い時間いるとは思えません。
大学には他にも食堂や図書館など入り浸る所はあるので、有力な候補であるといえます。
しかし、狡猾な先輩が、私にも容易に想像されるような場所に逃げているとは思えません。裏の裏という可能性もありますが、基本的に先輩は私のことを素直で単純な奴だと思っているので、そこまで綿密に計算をしていないと思います。
じゃあ、何処?
私は当て所もなく家の近所や大学の近くをウロウロと探し回りました。
大学の敷地内にも入りましたし、近所の商店街や公園にも行ってみました。
しかし、何処にも先輩はいません。影も形も見えないのです。見ず知らずの人に聞いてもみましたが、私の日本語能力の不足のせいか先輩は私が行ってみたいずれの場所にも来ていないのか有力な情報は得られませんでした。
「むー。困った……」
私は大学食堂で美味しくも不味くもない平凡なカレーを食べながら呟きます。ちょっと、これ、ジャガイモとかニンジンが大きすぎますよ。中のほうちょっと固い。豚肉は小さいし少ないくせに。グリーンピースもいただけませんね。不味い美味しいよりカレーに合いません。彩りなんかいらないのにー。
私がカレーライスのグリンピースをスプーンで突付いていると、前の席に人が座りました。
私の前に座った人は鋭い目つきをした黒いショートカットの女の人です。見覚えがあります。私にしては、すぐに思い出しました。確か、先輩の友人で、うすむらさき(漢字が分からないのです)っていう変な名前の人です。
「どーも、こんにちは」
うすむらさんが無表情で言いました。持ってきたトレイには牛丼が載っています。何だか線の細い彼女が牛丼って違和感が……。
「今日は一人ですか。珍しいですね」
うすむらさきさんは細い目を更に細めながら言います。
「委員長……あなたの愛しの先輩はどーしました?」
委員長というのは先輩が高校でやっていた組織での職名です。正式には執行部委員長らしいですけど。まあ、どーでもいい話です。
「実は、いなくなってしまったんですー」
「そーですか」
私がそう言うと彼女は軽く応じて牛丼をもぐもぐと食べています。もうちょっと反応してくれもいいのに。何だか寂しいです。
「それで。どーして、彼はいなくなったのですか?」
私が不満で頬を膨らませていると、うすむらさきさんが言いました。
「うーん。私があんまりしつこく質問するから嫌になって部屋を出て行ってしまったんだと思いますー」
「何をそんなに質問したのですか?」
「先輩が昔付き合っていたという彼女のことを聞いたんですー」
そう言ってから、私は気付きました。そーいえば、このうすむらさきさんも先輩とは高校時代からの付き合いです。先輩の元彼女のことを何か知っているかもしれません。
「ところで、うすむらさんはその元彼女のことを知ってませんかー?」
試しに聞いてみました。たぶん、苗字はうすむらで合っているとは思うんですけどー。
「知ってはいます。知ってはいますが……」
うすむらさきさんは顔を歪めて言い淀みます。
「本人の意向無視で勝手に話すのは大いに憚られます」
そして、真剣そうな顔で言いました。
「あなたも、あまりその辺のことは聞かないと思いま……」
そこまで言って彼女は目を閉じて眉間に指を当ててぐりぐりさせました。頭痛がするのでしょうか?
「しかし、いつまでも放っておくのもあれですね。好ましくないことです。時が全てを解決することもあればしないこともあります。例えば、日中・日韓関係とか」
うすむらさきさんは何だかぶつぶつと呟き、それからガツガツと牛丼を豪快に男らしくかきこみました。線の細い女性ですけど。
「何でそんなに一気に食べるんですか?」
一気食いは体によくないと聞いたことがあります。
「脳に栄養をいかせる為です」
そんなに一気食いしなくても脳に栄養いくと思いますけど。
丼を空っぽにして、
「げふぅっ」
と、普通にゲップしてから私と向き直りました。
「委員長は、ぶつぶつと文句を言いながらも意外と外出したり、知り合いがいたりする人なのです。偏屈なヒキコモリに見えて、実は外向的な人なんです。よって、あなたが知らない場所や人は結構いるのです」
うすむらさきさんは真面目な顔で言います。
「その中で、二箇所ほど、彼が行きそうな場所に心当たりがあります。何々堂と九本壮です。そちらに行ってみると良いでしょう」
そう言って彼女はメモに簡単に地図を書いて渡してくれました。
それから、私をじっと見て言いました。
「何だか私はRPGのヒントキャラとかみたいですね。何かの都合で言わされてる感満々です」
そんな身も蓋もないことを言わないで欲しいです。作者が困ります。
久し振りの更新です。
遅れてしまって申し訳ないです。
そして、読者数が25000をあと少しで超えそうです(今現在)。読んできてくれてありがとーございます。
これからも頑張りまする。