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厄病女神、「木暮二十日恋文騒動」の話を聞く

 あれは去年の冬、じゃなくて、今年の冬というか、まあ、二月のことだ。

 俺はすっかり大学生活にも慣れ、初々しさを失って久しかった。

 うちの大学と我が故郷を含むうちの県は、殆ど雪の降らない地域であるから、冬真っ盛りの二月とはいえ、一面の雪景色となることもなく、ただ木が丸裸になり、どことなく空寂しく、やたら風が冷たく、普通に寒いということ以外は、さして他季節と変わり映えはない。

「しかし、寒いことは嫌なことだ」

 俺はぶちぶちと文句を呟きながら、寒空の下、不機嫌な顔で大学構内を歩いていた。

 しかし、寒い以外にはさして何の不満もなく、不機嫌な面ではあるが、実際はあまり不機嫌でもなかった。どころか気分は良い方であった。この日の講義は少なく楽だったし、少しばかり楽しみにしていた小説の入荷日でもあったからだ。

 私は若干気分悪く若干気分良く、大学の正門に向けて歩いている途中、不審なものを見つけた。いや、不審な奴だ。

 そいつは大学正門から真っ直ぐ大学構内を貫く中央通路の街路樹の陰に隠れていた。いや、何かからは隠れているつもりなのかもしれないが、俺の位置からは丸見えであった。

「……二十日先輩?」

「のおぅわぁっ!?」

 何気なく話し掛けた俺は酷く二十日先輩の反応に狼狽した。その奇妙な鳴き声は何だ?

「な、ななな、何だよ! 脅かすなよ!」

 二十日先輩はそんなことを言いながらぺしぺしと俺を叩いた。あまり痛くはなかったが、叩かれることに変わりはなく、無意味に暴力を振るわれることは不愉快である。

「止めてください」

 よって、俺は不機嫌な顔で彼女の暴力の届かない位置に離れた。

 すると、何故だか彼女は余計に慌て始めた。

「あ、ばばばばば馬鹿!」

 言っておくが、俺はそんなに馬鹿にされるほど、馬鹿ではない。ていうか、馬鹿といわれる筋合いは欠片ほどもない。


「私にはよく馬鹿って言うじゃないですかー」

「それは、お前が馬鹿な言動を取るからだ。お前が賢い言動を取っていれば、馬鹿とは言わんだろう」

「賢い言動って何ですかー?」

「それが分からん奴が馬鹿なのだ」

「……………」


 話を続ける。

「一体、何なんですか? 二十日先輩」

「喋るな! こっち来い!」

 二十日先輩は何故だか真っ赤な顔で俺の口を塞いで街路樹の陰に引っ張り込んだ。人気のない所で俺を抹殺する気か?

「ちょ、ちょっと、お前に相談したいことがあるんだ」

 二十日先輩は珍しく真面目な顔で俺を見て言った。彼女がこれほど真面目な顔をしているのを見るのはこの時が初めてで、俺は酷く驚いた。

「じ、実はな? ここだけの話だぞ? 誰にも言うなよ? 言うんじゃないぞ? 絶対だぞ? あのな? 秘密なんだぞ?」

 そんなに隠したいならば俺に話さなければ良い。そして、街路樹の陰とはいえ、こんな人通りの多い所で抱き合わんばかりに接近している男女二人こと、つまり、俺と二十日先輩はかなり目立っていて、行く人来る人からちらちらと視線を浴びせられていた。

「実はな……………」

 散々秘密だ何だと言っておきながら、今度はもったいぶり始めた。いい加減、面倒臭いと思い始めた頃、二十日先輩はぼそりと呟いた。

「……好きなんだよ」


「二十日さんが先輩のこと好きーっ!?」

「おい」

「まさか! 先輩! そんな!」

「こら」

「仲が良いとは思ってましたけど、実は!」

「ちょっと」

「もしや、二人はまだ付き合ってー!?」

「話を聞けこの糞馬鹿野郎!」

「うぎゃー!」


「何言ってるんですか?」

「あいつ」

 俺が尋ねると二十日先輩は正門の方を指差した。正門を見る。人がうじゃうじゃいる。

「何が好きなのか分かりません」

「あいつ。一番でかいの」

 そこまで言われて俺はようやく理解した。

 二十日先輩は恋をしているらしい。あの正門近くに突っ立っているでかい人に。この時は遠くて容姿は分からんかったが。


「それなら、そーと言って下さいよー。勘違いしちゃったじゃないですかー」

「貴様が勝手に勘違いしたんだろーが」


「絶対絶対絶対絶対に秘密だからな! 軽々しく言ったりしたら部屋追い出すからな!」

 そんなに秘密にしたかったら俺に言わなければ良かったのに、というか、俺の居住空間を脅しに使うとは鬼の所業だ。

 色々と抗議したかったが、本当に部屋を追い出されては堪らないので、とりあえず、その辺の文句は腹の中に押し込んでおく。

「それで? 俺にそれを言ってどーする気なんですか?」

 俺は不機嫌な顔で尋ねた。何だか面倒なことになりそうな予感がした。

「あのさー。実はさー。明日って何の日か知ってる?」

 嫌な予感的中。

 へいへい、分かっているとも。聖バレンティヌスがローマ兵のカップルを匿って、火炙りにされた日じゃろう? 意味が分からない奴は調べろ!

 ちなみに、今日は二月十三日。明日は誰もが知っている恋人たちの日こと聖バレンタインデー。しかし、気に食わん日だ。なーにが、恋人たちの日だ。阿呆らしい。糞忌々しい。


「先輩、そんなにバレンタインデーが気に食わないんですかー?」

「ん? ああ、気に食わん」

「何でですかー? 先輩、モテないわけじゃあないでしょー? 性格は悪いけど、格好良いしー」

「……お前…。いや、まあ、良い。とにかく、嫌いなのだ」


 話を続ける。

「バレンタインデーですが、それが何か?」

「あたしさ。その日にさ……」

「告白すんですか?」

 俺が言うと、二十日先輩は顔を赤くさせて、また、俺をぽかぽか叩いてきた。地味にちょっとばかし痛い。

「何ですか?」

「何で、先に言っちゃうんだよー!?」

 だって、まごまご長いんだもの。

「それで? 告白するんですよね? すればいいじゃないですか。ご自由に。ご勝手に。帰って良いですか?」

 そろそろ寒くなってきた。

「あー、うーん、えーと……」

 しかし、二十日先輩が俺の腕を掴んで離さない。痛いし。

「何なんですか? ハッキリ言ってください」

 二十日先輩は何事においてもハッキリキッパリした言動の人で、このまごまご具合は珍しいというか初めて目にするものだった。

 ここで俺はある考えを思いついた。

「まさか、先輩。告白したことないんですか?」

 俺の問いに二十日先輩はこっくり頷いた。そして、恥ずかしげに驚くべきことを口にした。

「実は、初恋なんだ……」

 遅っ!


「へー。そーだったんですかー。二十歳超えて初恋……」

「普通。ありえんだろ?」

「うるひゃーい! 人の恋愛事情に文句言うなー!」

「あー! 先輩! 暴れないでください! 酒が床にこぼれる!」

「うわー! 二十日さん、落ち着いてー!」

「てなことで、二十日先輩が落ち着くまで、話は待て!」

「先輩、何ですか。それー。予想外に長くなりそうだから、話を分断する気ですかー?」

「文句と作者側の意向を言うな!」


すいません。ごめんなさい。

予想外に長引いているんです。

キャラに作者の都合を喋らせるなんて卑怯臭いですね。

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