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厄病女神の先輩と二十日先輩のアレコレ

 うわばみ、または酒豪先輩、或いは、木暮壮の大家兼管理人である木暮二十日先輩は、一週間に2回3回という高頻度で我が部屋を訪れていた。

 二十日先輩は三度の飯よりも酒が好きという困った人物である。更に迷惑なことに酒を飲む時は一人じゃ飲めねえという大変迷惑な御仁だ。

 その彼女が我が部屋にばかり訪れるのは必然とも言える。

 木暮壮には十人近くもの住人がいるのだが、その中で酒を飲めるのは二十日先輩と俺と、もう一人しかおらず。しかも、そのもう一人の奴は帰省中ときたもんだ。

 二十日先輩が度々訪れられるのも分からなくはない。ないが、極めて迷惑だ。

 そして、今夜もその迷惑な先輩はやって来ていた。

「ほらー! 後輩ー! 飲め飲めー!」

 二十日先輩は俺の頬にカンカンに冷えたチューハイの缶を押し付ける。痛いくらいに冷たい。

「止めてください」

「お前のノリが悪いからだー!」

 先輩はもう酔っているようだ。彼女は酔い出した頃からが本領発揮で、そこからの飲みっぷりと他者への飲ませっぷりは素面のときを軽く凌駕する。

 つまり、かなり扱いに困る迷惑な酔っ払いと化すのだ。

 しかも、二十日先輩は日が沈んだ頃に飲みだすと、その日が再び昇ってくるまで間断なく飲み続ける酒豪なのだ。そして、その間、付き合う人間を眠らせも飲酒を中止させもしない。

 まったくもって迷惑の権化といっても過言ではない迷惑さだ。

「先輩と二十日さんって仲良いですねー」

 大人しくというか甲斐甲斐しく、酒の肴を用意したり、空き缶を処理したりという給仕に徹していた絹坂がふと呟いた。

「お前には俺とあの人が仲良く見えるんか?」

「はい。見えますよー。だって、いっつも一緒にお酒飲んでるじゃないですかー。ちょっと妬けちゃいます」

 そう言って絹坂は缶ジュースをちびちび飲む。何だ。いきなり可愛らしいこと言いやがって。何となくほっぺをぷにぷに触ってみる。相変わらず気持ち良い触感だ。

「何、ラブラブしとるんじゃー!?」

 いきなり、二十日先輩が真っ赤な顔で怒鳴りだす。俺は不機嫌な顔で言い返す。

「ラブラブなんぞしてません!」

「してたしてたしてたしてたー! あたしを無視すんなー!」

 二十日先輩の喚き声が響く。

 糞迷惑な奴だ。もし、こいつが野郎だったら、とっくの昔に窓から外に蹴り落としていることであろう。同じ女だとしても、玄関から外に放り出すくらいはしているはずだ。

 それが、何故、二十日先輩には適用されず、俺は実力行使的に彼女を追い出せないかといえば、彼女が我が大学の先輩であることもさることながら、彼女が我が住居の大家であることが強い意味を持っている。


 俺は去年の春。ここで一人暮らしをすることになった。

 それまでは同県内のもう少し規模の小さい市で生まれ育ってきて、他の町で暮らしたことなど全く無かった。

 当然、今、俺が暮らしているこの都市にはあまり深い縁は無い。しかし、何とか何とか探すと薄ーい縁を一つ見つけることに成功した。

 それが木暮二十日先輩であった。

 彼女の母の弟の妻が俺の母の姉にあたるらしい。まあ、要するに遠い親戚ってわけだ。その薄ーい縁によって、俺は木暮壮に入居することと相成った。

 初めて顔を合わせた日、彼女は俺を見て大笑いした。

「何で腕ギブス付けてんのーっ!? 大学入学直前に腕折るって何さーっ!?」

 俺は大笑いする彼女を前に不機嫌な面で沈黙するより他になかった。

「何で折ったんさ?」

 笑いすぎて涙まで出している二十日先輩に聞かれ、俺は正直に絹坂突撃事件の顛末を話した。

 すると、再び彼女は笑い出した。

「後輩に殺されかけたのかっ!? ギャグ漫画かよーっ!?」

 俺は笑っている彼女をただ呆然と眺めていた。そーするしかなかった。俺は腕を骨折していたので一人で荷物を持っていけず、彼女が笑い終わるのを待つより他になかったのだ。

 俺たちの初対面はそんな感じだった。思えば、この時、既に二人の力関係は決していたのだ。


「ありー? 酒、あとこんだけー? ちょっと、後輩ー。コンビニ行って酒買ってきてー?」

「自分で買いに行って下さいよ」

「何だとー? 先輩をパシリに使う気かー?」

 だから、こんなふうに俺がパシリに使われるのも仕方ないというものだ。そう考えないと、この理不尽な状況には打ち勝てないぞ。

 俺は深夜0時を遥かに過ぎ去った時刻に、近所のコンビニに出向いて呆れるくらいに酒をしこたま買占めるという俺にとっては無価値で無意味かつ酷く面倒臭い作業に従事した。

 俺は何をやっているんだろうな? 従順な後輩気取りか?

 一体、俺は、どうして、こんなことをやるに至ったのか? いや、どうして、俺がこんなことをやってやるような関係に至ったか?

 それは、たぶん、未だもって大学で語られる「木暮二十日恋文騒動」と呼ばれる一連の騒ぎが遠因にあたるだろう。今、思えば、あれに加担さえしなければ、これだけ面倒臭い地位を負わされないで済んでいたかもしれない。

 まあ、過去のことをぶちぶち考えてもしょうがないことなんだが、それでも考えてしまうのは、やはり性格というものだな。


「おう! 後輩おかえりー!」

「あう! 先輩おかえりー!」

 部屋に帰ると二人の酔っ払い乙女に出迎えられた。

 て、何で、未成年が酔っ払っているのだ!?

「貴様! 酒を飲んだな!?」

 絹坂を怒鳴りつけると彼女は微かに赤い顔でふにゃーっと笑って言った。

「飲んでないれふよー? ジュース飲んでるだけでるー?」

 完璧酔ってるだろ。

 馬鹿になった絹坂の持っている缶を見て成る程理解した。チューハイの缶ってのは何でジュースの缶とそっくりなんだろうな? わざとやっとるとしか思えん。

「おうおうー、後輩ー。酒買ってきたかー!?」

 酔っ払い二十日先輩が俺の首に腕を絡ませながら言った。苦しいから止めて欲しい。

「はいはい。買って来ましたよ」

「はい、は一回ーっ!」

 テンション高い。付いていけんよ。

「何ですかー! 何、二人で仲良くしてるんですかー!?」

 そこへ酔っ払い絹坂乱入。止めろよ。ややこしくなるからー。

「何言ってるんでい!? あたしと後輩は仲良しなんだぞ! 共にラブレターを作り合った仲だぜー!」

 余計なことを言うなよ! 面倒臭いことを!

「どーいうことすかーっ!?」

 ほら、絹坂が食い付いてきた。何か知らんが怒ってるし。

「ラブレターですってー!? 先輩の裏切り者ー! うあー!」

「おい! 泣くな! 訳分からんことで泣き出すな! 馬鹿!」

 泣きやませようとして思わず馬鹿と怒鳴ってしまう俺は普通に酷いな。

 一方、俺の首に腕を巻きつかせたままの二十日先輩は早速俺の買ってきた酒を飲み干し始めている。肝臓ガンで死ぬぞ?

「ラブレターってどーいうことなんですかー!?」

 絹坂は俺にすがりつき、ぽろぽろ涙を零しながら聞いてきた。そんな大層な話じゃあないんだが、話さないと、この混乱を鎮めることはできまい。

「仕方ない。話してやるから、よーく聞け?」

 俺はあの酷く面倒臭く、俺にとっては無意味かつ無価値だった「木暮二十日恋文騒動」の一連を話して聞かせることにした。


次回は「木暮二十日恋文騒動」について先輩が語ります。

昨日、各所を修正したしましたが、殆ど誤字の修正であり、ストーリーに変化はございません。一応、御報告申し上げます。

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