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厄病女神は本心を語る

「へー、この子、委員長の部屋に居候してるんだー」

「あはははは! 委員長。やるじゃーん!」

「あの委員長がですか。意外ですね」

「まあ、何となく知ってました」

 我が友人たちは、ひたすらドリンクバーを飲み続けながら、不躾に絹坂をじろじろ観察している。彼らは絹坂を見ているくせに口にしていることは俺のことばかりではないか。俺のことを喋るならば俺を見て言え。

 絹坂はおしとやか風を装って、ヘラヘラ笑ってやがる。

 反対に俺はイライラだ。

「貴様、頭、コーヒー臭いぞ! どんなシャンプー使ってんだ!?」

「お前が、俺にそれを言うかよ……」

 草田はぶつぶつと文句を言っているが無視。こいつは昔から文句が多いからな。

 絹坂はすっかり我々の席の一員と化し、我が友人たちと仲良くドリンクバーを飲み交わしながら、お喋りなんぞをやっている。

「絹ちゃんは、あの組織の今の書記長かー」

「うち、書記長やってたぞー!」

「僕たちの後輩ですね」

「体制側を攻撃していますか?」

 俺の友人たちは盛んに絹坂に話し掛けている。それを俺は不機嫌に睨みつけていた。


 当然、俺は草田の馬鹿野郎が絹坂を連れて参った時、毅然と抗議したというか怒鳴った。

「貴様! 何故、ここに来やがった!?」

「えー? 来ちゃダメなんですかー?」

 絹坂は平然としている。俺に怒鳴られ慣れているからだろう。あんまり怒鳴りすぎるのも考えものだな。

「ダメに決まってるだろ! 俺が嫌がるの分かるだろ!? 分かるだろっ!?」

 そう叫んでも絹坂は、

「はて?」

 とか何とか呟いて惚けるばかり。

「何で、俺に付いて来たっ!?」

「別に、私は先輩に付いて来たわけじゃありません」

 絹坂はわざとらしいくらいに素っ気無く言った。

「じゃあ、何でここにいる?」

「外を散歩していたら、偶然、近くで草田先輩に会って、付いて来いって言うから付いて来ただけですー」

 彼女はそう主張するのだ。

 どれだけ出来た偶然だ。と追及することも可能ではあるが、おそらく、絹坂はしらばっくれるだろう。こんな所で堂々巡りになることが決まりきっている論戦を展開しても意味はない。かといって、じゃあ、しょうがないなー。と言うほど俺は優しくない。

「この糞野郎め! 何故にこいつを連れてきやがった!?」

 仕方がないので攻撃の矛先を能無しの草田に向ける。

「おい、俺にコーヒーぶっかけておいてそれかよ…」

 草田はファミレス店員と一緒に床を這い蹲りながら言った。

「貴様、何やってんだ?」

「お前がぶちまけたアイスコーヒー拭いてんだよ…。あ、すいません。あいつ、短気なもんで……」

 草田は店員にへいこら頭を下げながら床を拭いている。

 草田を攻撃できなかった俺が怒りのぶつけどころなくイライラしている隙に、絹坂はちゃっかり席に居座っているし、周りの人間もそれを認めているというか積極的に推奨していて、絹坂はこの席に居続ける結果となってしまった。

 皆満足。不満なのは俺だけだ。社会とは理不尽なものだよな?


いつの間にか、席上での会話は絹坂に対する質問になっていた。

 その前にも色々な質問が絹坂になされた。

「誕生日は?」

「今、高校はどう?」

「好きな食べ物は?」

「委員長は自宅でどんな感じ?」

 それらの質問に絹坂は楽しげに余裕綽々で答えていく。これだけの人数の大学生に囲まれても堂々としていられるとは大した奴だ。

「誕生日は8月19日ですー」

「高校は先輩たちがいた時と、変わんないですよー。校長先生が代わりましたけどー」

「好きな食べ物はお寿司ですー」

「先輩は部屋でも変わんないですー。偉そうで不機嫌そうでしかめっ面ですー」

 お前、地味に俺を貶していないか?

 いや、まあ、確かに、俺は部屋の中でも偉そうで不機嫌そうでしかめっ面だがね。

「絹ちゃんは何であいつんちに居候してるの?」

 暫し質問タイムが続いて、こんな質問がなされた。

 そーいえば、何で絹坂は我が部屋に寄生しているのだったけか?

 最近では、何故、こいつがこの部屋にいるのだろうかと考えることも少なくなり、ましてや、絹坂を追い出そうと考えることは全くなくなったと言って間違いではない。

 部屋に絹坂が来てから生活は以前よりも規則正しく楽チンで、その上、さして支障もないから、絹坂が我が部屋にいることが当たり前と化してしまっているのだ。

 先程の言葉で改めて己の絹坂に対する認識を目の当たりにし、俺は愕然とも言える心境に陥った。何てことだ!

 俺が一人ショックしている間に、絹坂は質問に答える。

「先輩に会いたかったんです」

 全員。大はしゃぎ。

「会いたかったんだってさー」

「会いたかったから来ちゃったってか!?」

「愛する先輩に会おうとやってきた少女!」

「まるで純愛小説のようではないですか」

「愛は最強なんですよ」

 やんややんやと囃し立てる我が友人たち。そんなにも俺の不幸の蜜は甘いか?

 この俺に会いたかったという理由は寄生初期に聞いた。何で会いたいのか未だもって意味不明であるが。

「それで? 何であいつに会いたかったん?」

 絹坂の対面にある蓮延がギリギリまで身を乗り出し、目を爛々と輝かせて、尋ねる。手には仮想のマイクを握って、絹坂の口元に突きつけている。お前は公務員じゃなくて報道記者の方が合っているんでないか。

「どーして、あいつの部屋に居候してるのさ?」

「しかも、身の回りの世話までしてやってるってどーいうこと!?」

「そーいえば、君、高校の時から委員長の周りをうろちょろしてたよね!?」

 蓮延は質問を連続して間髪無く投げかける。絹坂が答える間が無いじゃないか。まあ、答えないでいいのだが。

 連続質問された絹坂は混乱することもなくヘラヘラ笑っている。俺は不機嫌に腕組みしてその光景を睨みつけ、他の連中は苦笑している。

「さあ! 答えは!?」

 蓮延が一際瞳を輝かせ、手に握った仮想マイクを更に押し付ける。本当にマイクがあったら、口に入ってるくらい近すぎるだろ。

 絹坂は口元にある蓮延の手を見て、俺を見て、少し笑った。何だ。その笑みは?


「私、先輩が好きなんです」


 は?


続きのくせに、間が空きました。

2日空けたくせに、短いです。

申し訳ございません。

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