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厄病女神と京島都


 今思えばあれだな。朝っぱらから俺たちは何やってたんだろうな。俺は寝不足と酒で妙なテンションだったのかもしれない。絹坂はいつもこんな感じだ。この二年で目に見える精神的な成長はなかったと思われる。

「……何をしている」

 俺が意識を正常に戻したのはその声を聞いたからだ。

 振り返ると京島が立っていた。

 京島都(きょうじまみやこ)は俺と同じ大学で同じ学部の同期だ。あまり話したことはないが同じ学部ではあるし、例の酒豪の先輩と親しいらしくたまに顔を合わせる。いつも無愛想な無表情顔で、男らしいというかぶっきらぼうな話し方をする。ただ、凄く真面目な印象がある。

 女にしては背が高く170cm半ばはある。くっきりとした目鼻立ちの凛々しい顔つきで、艶やかで長い黒髪を平素は後ろ下方で一つに纏めている。

 彼女はいつもジーンズ姿であるが、今は何故だか紺のジャージ姿だった。ジーンズを履いてない京島を初めて見たな。

「……おはよう」

 とりあえず挨拶してみた。

「あ、ああ、お、おはよう…」

 京島は少しどもりながら挨拶を返し、それから馬鹿みたいに意味もなく密着している俺と絹坂を見て不機嫌そうに顔をしかめた。

「君たちはこんな早朝から何をしているのだ?」

 それからほんの少しだけ顔を赤らめて続ける。

「早朝だから人が見えないとはいえ、こんな外で、こう、何だ。だ、抱き合うなんて破廉恥な」

 眉をしかめて不機嫌そうに言った。

「いや、抱き合っちゃいない」

 そこは断固否定する。

「先輩、誰すか?」

「同じ学部の京島だ」

 絹坂の問い掛けに答えながら俺の背中にしがみ付いてる絹坂を「てい」と払い落とす。京島の登場で油断していた絹坂は呆気なく鉄製廊下に尻から落下した。

「痛ー。先輩、酷いですー」

 絹坂がぷーぷー文句を言っているが無視。

「先輩?」

 今度は京島が首を傾げる。

「ああ、こいつは俺の高校の後輩なんだ」

「そーなのか。……仲が良いんだな…」

「いや、別に」

 ここも否定。

「こいつが勝手に押しかけてきやがって困ってる」

「そうか。そーいうことか。うん、なら、いい」

 京島は一人でしきりとうんうん頷きながら言った。

 視線を落とすと絹坂が尻を摩りながら立ち上がるところだった。何気なくそいつの頭に手を置く。

「? 何すか? 先輩」

 絹坂は首を傾げ膝立ちの状態で停止する。

 なでりなでりと撫でてみると絹坂は猫のように目を瞑って、

「ふにゃー」

 と、鳴いた。

「猫か?」

 京島が呟いた。

 絹坂の頭の上に置いた手に体重をかけ、頭を抑えて立てないようにしてみる。

「うううわわー! 首が痛いー」

 じたばた暴れながら悲鳴を上げる絹坂。うるさいので手をどかしてやる。

 このように絹坂は遊ぶのにとても良い。絹坂と共にいた一年間ではいつもこんなことをしていたような気がする。

 何気に酷いな。俺。

「もー! 何するんですかー」

 暫くの間、絹坂は頭やら首やらを摩りながらぷりぷり怒っていたが、俺は黙っていた。

 絹坂はぷりぷり怒っていても暫く放っておけば勝手に自動的に機嫌を直すのだ。

 思ったとおり、絹坂はすぐに怒りを鎮め、京島と俺を見比べるように見始めた。

「何だ?」

 促すように尋ねると、首を傾げながら言った。

「この人は? 先輩の彼女?」

「…彼女……」

 京島がぼそりと呟いて俯いた。

「彼女?」

 絹坂は不思議そうな顔で京島を指差しながら俺を見た。

「いや、違う」

「え? あ、あー。ごほん。うん。私は彼女ではない」

 俺と京島は揃って否定した。

「大体、何で、そんな言葉が出てくる?」

「え? いや、なーんか、お似合いな感じがしたもんで」

 そう言いながら絹坂はようやく立ち上がった。

「お、お似合い…」

 京島は何かぶつぶつ言ってる。その彼女に尋ねてみる。

「京島はこんな朝っぱらから散歩か? ランニングか?」

「ああ、私は新聞配達のバイトをしているんだ」

 そう言って京島は持っていた新聞を一部俺に差し出す。うちに来る新聞は京島が持ってきていたらしい。

 ちなみに俺は新聞を読むのが毎朝の習慣だ。毎朝、その日の新聞を読まなければ一日が始まった気がしないのだ。

「ごくろうさん」

 新聞を受け取ってから、ふと気付く。

「おい、京島」

「ん? 何だ?」

「お前、新聞配達の途中じゃないのか?」

 京島の顔が一気に変わった。

「そうだった。今、何時だ? 四時半! 大変だ!」

 京島一人大騒ぎ。傍からは無表情のままうろうろばたばたしているように見える。俺と絹坂は黙ってその様子を見ていた。なんか面白い。

「失礼する。また今度」

 そう言うと京島は猛ダッシュ。階段を飛ぶように降りて、自転車に飛び乗り猛然と走り去って行った。速い速い。住宅街を走る自動車より速い。速度規制をすべきだ。

 本人は凄く慌ててたんだろうが、顔だけ見ると凄く落ち着いてる感じだった。面白い。

「面白い人ですねー」

 絹坂の言葉にうっかり頷いてしまう。頑張れ。京島。


何だか「魔女」とかに比べて読者数が多いです。私めの雑草が如き文章を読んで頂きありがたいことです。

ところで、次回、いよいよ厄病女神が寄生します。

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