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厄病女神、一目惚れされる

「おい、ちょっと、いいか」

 喫茶店で寛いでいた俺たちに話しかけてきたのは若い男だった。

 背丈は俺よりも幾分か低いから170cm弱ほどだろう。茶色いツンツン髪で耳には銀色のピアス、人のことは言えんが、目つきが悪い。上は派手なTシャツ、下は腰ほどまでずり下がり下着が見えそうなジーンズという格好。

 最近のちゃらちゃらした素行の悪い高校生といった感じの男だ。俺が最も忌み嫌うタイプだ。別に、彼が何か悪いことをしたわけでもないのに、殴り飛ばしたくなるくらいにムカつく。

「何用だ?」

 用がないなら失せろ! 黙って社会の底辺這い回ってろ! と付け足しそうになったが自粛。

「あ、あーと、えっと……」

 チンピラは何やらもごもごしている。少し顔が赤らんでいる。これじゃあ、まるで告白する直前の少年のようではないか。

「少年。用があるなら早々に言うがいい。時間は無限ではない」

 何よりも俺は短気だ。俺が怒り出す前に言いたまえ。

「そーですよー。言いたいことはハッキリキッパリ言わないと女の子にモテませんよー」

 絹坂がのん気に言った。それはお前の好みか?

「す、すす、す、す、好きですっ!!」

 男は叫ぶように言った。まさか、本当に告白するとは!

 てか、こんな人がたくさんいる喫茶店でやらんで欲しいね。告白は屋上とか体育館裏とかでやれ。

 さて、しかし、どーしよーか。

「あー、君が好きなのは分かった。つまり、アイスコーヒーが?」

「ちげーよ! アイスコーヒーにコクるわけねーだろ!」

 俺の問いに男が怒鳴った。顔が真っ赤だ。

 まあ、そりゃそうか。喫茶店でアイスコーヒー好きだなんて叫んで言う奴がいたら、そいつは完璧変人だ。突然のことで、俺も動揺していたのだろう。

「それで? さっきのは本気かね?」

「あ、ああ、本気だ。当たり前だろ。こんなこと本気じゃなきゃできねーよ…」

 チンピラはもごもごと気恥ずかしそうに言った。

 見た目はちゃらちゃらしているが意外と純真なのかもしれない。

「わー。生告白ですよー。生告白。初めて見ましたー」

 絹坂が少し嬉しそうに言った。しかし、言ってることは、まるで他人事のようだ。

「初めて見たと言うことは、お前は告白されたことないのか?」

 少し意外だ。絹坂はこう言うのも何だが、外見の悪い部類ではない。むしろ可愛い方だと思う。確かに、性格にはやや難ありだが、けっこー、こういう性格が良いっていう奴もいるだろう。

「告白されたことなんてないですよー」

 絹坂はぴらぴら手を振りながら言った。

「だって、呼び出されても行ったことないですもん」

「…? どーしてだ?」

「付き合う気なんかないからですよー」

 当たり前でしょ。みたいな顔でそいつは言うのだ。

 何故だね? 青春とは恋すべき季節ではないのか? いや、青春とは恋と言っても過言ではあるまい。恋して恥かいて恥まみれになり、後から回想して悶えるのが青春だろうよ。

「何で付き合わなかったんだ? 告白してきたのが糞みたいな男ばかりだったか?」

「いえいえー。格好いい人もいましたよー」

「じゃあ、何故?」

「えー? 分かりませんかー?」

 そう言って絹坂は意味ありげに俺を見つめるのだ。はてさて、何のことやら?

「おいおい、俺を無視するな」

 チンピラが俺と絹坂の間で手を振った。いやいや、覚えているよ。チンピラA君。

「そーでしたね。告白でしたねー。先輩はいいですねー?」

「「???」」

 何言ってんだこいつ? 俺とチンピラは顔を見合わせる。お互いの顔に?が見える。

「お前、何言ってんだ?」

「えー? 先輩がモテモテでいいですねーって……」

 絹坂はさらりと自然にそんなことを言った。冗談の類じゃないらしい。冗談だったら殴ってる。

「お前、馬鹿言うな!」

「普通、男が男に告白するかよ!?」

 俺とチンピラは一緒になって怒鳴った。俺がこんなチンピラと同じ言動を取るとは夢にも思わなかった。

「えー、だってー、知り合いの女の子が見せてくれた漫画で男同士の恋愛とか描いてるのがありましたから、普通なのかなーって」

 それは世に聞く腐女子というもんではないのかね? 友人は選べ。

「普通、そんなことはありえんだろ。いや、全くないわけではないが、普通ではない」

「俺が告白したのは、えーっと、その…お前に、だよ……」

 最後の方、ごにょごにょと声が小さくなるチンピラ。

「えー、私にですかー?」

 絹坂は少し驚いたような顔で言った。

「何でですかー? しかも、初対面ていうか、私、あなたのこと見たことも聞いたこともありませんしー」

 確かに、そうだな。絹坂は一昨日の昼、ここに来たばかりで、ここに知り合いはいないはずだ。

「それは、そのー、えーっと、ひ、一目惚れっていうか…何というか……」

 何というかもかんというかもなくて、一目惚れなんだろーよ。

 しかし、そうか。一目惚れか。実在したのか。しかし、こんなんに一目惚れしていいのか? 更に言うならこいつの何処に一目惚れしたのか疑問だ。

 気が付くと、絹坂がじと目で俺を見ていた。

「先輩、何か、失礼なこと考えてませんー?」

 何故、分かる? 俺はポーカーフェイスには自信があるんだがな。

「いや、別に」

 とりあえず、そう言っておく。面倒臭いからな。

「それで? どーするんだ?」

「何がですかー?」

 何が? じゃないだろ。

「こいつの告白をだ」

「ああー。そんなことですかー」

 そんなことって、ちょっと酷くないか? お前にとっちゃあ喫茶店で休んでたら、いきなり起きた突発イベントみたいなもんかもしれんが、このチンピラ君にとっては顔をトマト並みに真っ赤にさせるほど緊張と恥ずかしさに包まれた一世一代の大勝負なのだぞ。それほど、重大な事かどうかは知らんがね。

「勿論、お断りしますよー」

 それはチンピラ君の顔を見て真面目な顔と口調で言ってやれ。

「てことなんで、結構ですー」

 絹坂はチンピラ君を見てのんびりとしたいつも通りの口調で言った。まるで路上で訪問販売を断るが如き調子だ。ある意味、この断り方って凄い傷付かないか?

 答え。傷付く。

 チンピラ君は大層傷付いた顔をした。少し可哀そうだな。同じ男として同情する。するだけだが。

 しかし、彼は諦めなかった。

「な、何で俺と付き合ってくれないんだ?」

「付き合う気がないからですよ」

「何で、そーいう気がないんだ? 俺の何が悪い? 悪いところがあれば直すから、頼む! もう一回考えてくれ!」

 男は手を合わせて拝み始めた。そこまでするか? というか、絹坂のどこがそこまで彼を狂わせるのか理解できない。

「あなたが悪い良いじゃなくてー、そーいう気は全然ないんです」

 相変わらず絹坂はにこにこと笑いながら平然と断っている。少し困ったような笑いだが。

「せめて、何で断られてんのかくらい教えてくれよ!」

「うーん…」

 そう言われて絹坂は考え込む。ように見せかけて、俺をちらっと見た。

「……秘密です。ここでは言えません」

 俺を見ずに彼を見て言え。そして、何だ。その言外に何か含んだような台詞は? そんなん俺は理解してやらんぞ。はっきり言われたら言われたらで困るんだがな。

 俺は不機嫌な顔で睨み返してやった。すると、絹坂は何故か微笑む。何か意思だけで会話している気分だ。

 こんなふうに二人で見合っているのがチンピラ君には不満だったようだ。そりゃそうか。告白する現場に他の男がいて、しかも、そいつが愛しの相手と見合っているなんて現状は告白する男にとっては不満だらけだろう。

 テレビなどでよく言われることであるが、最近の青少年はキレやすいそうだ。最近の青少年代表みたいな彼も当然、その特徴を兼ね備えていたようだ。

「俺がマジでコクってるのに、何、見つめ合ってんだよ!?」

 キレた。しかも、俺に対して。俺は絹坂と見つめ合ってるつもりはない。睨んでいるんだ。

「ていうか、お前、何なんだよ! お前らの関係って何?」

「先輩後輩だ」

「それで、同居人ですよー」

 俺の言葉の後に絹坂が余計な言葉を付け加えた。そんな台詞は彼の怒りに油を注ぎ込むようなものではないか。

「な! な、な、何だとー!」

 ほら、怒ったよ。

「てめえら、付き合ってるのか!?」

「いや、それはないな」

 断固否定。

「付き合ってもいねえのに同棲かよ! おい! それ、どうなんだ!?」

「怒鳴るな。唾がかかる。それと目立つ」

 チンピラ君はひどく怒っているようだ。こりゃ何だ? どーいうイベントだ? また、あれか? 厄病女神の持つ厄介事自動召喚能力が原因か?

 こーいう男は得てして単純である。すぐに短絡的行動を取る傾向がある。しかも、彼は純真であった。よって彼はこのような行動を取った。

「てめえ! 俺と勝負しろ!」

 俺は呆れて暫く声が出なかった。それ、何てドラマ? いつの時代の青春ドラマだよ?

「もし、俺が勝ったら彼女を解放しろ!」

 開放も何も俺は絹坂を拘束しているつもりは微塵もない。どちらかといえば俺の方が脅されているのではないか?

 しかし、彼にとっては俺こそが諸悪の根源。悪の権化と映っているようだ。恋は全てを狂わせる。

 俺は即座に拒否しようと思った。当たり前だ。こんなガキの恋愛ごっこに付き合わされて愉快なわけがない。それに、俺は4時からバイトがある。遊びに付き合っている暇はない。

 俺が口を開く前に、

「あー、それいいですねー。先輩」

 絹坂が言った。

 はあー? 何がいいんだー? 俺にはお前の考えが理解できんよ。まあ、そんなん会った時からだがね。

「おぉ! 恋を賭けた男の勝負か!?」

「しかも、あの冷徹男だぞ!」

「今時、珍しいことじゃ!」

「近頃の若者にもそーいう骨のある奴がおったか!」

「きゃー! 素敵ー!」

「戦いの果てに生まれる友情…そして、その友情はいつしか愛に……」

 更に喫茶店のギャラリーが俺たちを囃し立て始めた。しかも、よくよく見渡せば同じ大学の学生や教授なんかが大量にいる。まあ、ここは大学の近くで、学生も教授もよく利用しているのだが、今は夏休み中だ。こいつらは夏休みなのに何処も行かんと近所のショッピングモールでぶらぶらしているのか?

 どいつもこいつも面白がって煽り立ておって。

 ところで俺には困った習性がある。前々から何とかしたいと思っているのだが、どーにも悪い性格というのは変え辛いものだ。

「先輩ー。やってみて下さいよー」

「逃げるわけねーよな?」

 そう言われると「嫌だ」と言えないのだ。逃げるってのが我慢ならんのだ。この負けず嫌いと無駄にでかい自尊心は何とかならんかね。困ったこともんだ。


こうして物語は愛の決闘に至ります。

ところで、少しネタが尽きてきました。何か疫病女神たちに、やらせたいことがあったら感想なりメッセージなりで教えて下さい。よろしくお願いします。

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