三章:死闘
それぞれの持つ銃器が高熱を帯び始めた頃に、隊長の号令と共に連射撃が止まった。
いくら漆黒の稲妻といえども、コレでは蜂巣状態であろう。
そう判断し、砂埃が納まるのを待つ。
しかし、砂埃が晴れた時には既に、零の姿はそこにはなかった。
音もなく、あの鉛玉の雨の中から脱出したことも驚きであるが、大樹に銃痕が残ってないところを見ると、なんらかの方法で無数の弾道をねじ曲げたようである。
その光景を目の当たりにし、混乱状態が広がっている部隊に一つの影が舞い降りた。
音もなく着地し、間をおかず残像を残しながら影が駆けめぐる。
ほんの一瞬の間に隊長を含め十人が地に平伏した。
十人全員が頸動脈や頸静脈、眉間などを切断され小さく痙攣している。
あまりに見事で精確な刀捌き。まさに神業である。
しかし、零の刀捌きですら捕らえることの出来なかった二人が、零から五メートルほどのところで腰から刃渡り四十センチほどの短剣を抜いた。
短剣からは奇妙な音がし、刃が揺らいでいるように見える。
その短剣を見、小さく零が舌打ちをした。
「……何で超振動ブレードなどを持ってんだ、貴様ら……」
「……我らは『ハイエナ』。うぬも聴いたことがあろう……?」
静かに答えた『ハイエナ』の二人組をにらむ。
「あぁ、しつこくて邪魔くさい暗殺部隊の名前だろ?」
「……流石だ……だがその博識も、うぬの身の助けにはならぬ……」
そう言うや否や、超振動ブレードを構え、一気に零に斬りかかる。
流石は『ハイエナ』。
絶妙なコンビネーションと凄まじい速度で回避不能な攻撃を仕掛けてきた。
しかし、掌底で左側から来たブレードの柄を叩き、右側から来たブレードに刀をあわせ、手首をひねり捌く。
しかし『ハイエナ』も負けてはおらず、左側の奴は掌底の力を利用して蹴りを放ち、右側の奴は、間をおかず刃をひるがえし、再び斬りかかってくる。
刀を返す暇がないので蹴ってきた足を踏み台にして、咄嗟に零は回避した。
差し違えてでもしとめるか……。
どうせ俺の命は無価値な命だ。それで未来のあるあの子が救えるならば……。
そう、決断し、地に着地するなり敵へと突っ込み鋭い突きを与えた。
零の刀が『ハイエナ』の一人の心臓部に深々と突き刺さる。
しかし、刺された敵も流石に訓練されているらしく、血を吐きながらも零の左目にブレードを突き刺した。
反射的に目蓋を閉じるが、超振動ブレードの前では存在しないのと等しく、呆気なく刃が侵入してきた。
耳障りな音と共に左目に激痛が走った。
しかし、それに構っている暇はなく、既に事切れた敵の躰を力一杯蹴り飛ばし、血降りをする。
そして残った右目でもう一人の姿を捕らえると、驚異的な速度で間合いをつめ、下方より斬り上げる。
しかし『漆黒の稲妻』といえども、左目を失ったため、敵のカウンターに反応しきれなかった。
今度は左腕に激痛が走るが、傷の具合を確かめている暇はない。
片手だけで刀を振り抜く。
致命傷とまではいかないが、十分な傷を敵に与えることが出来た。
左手の感覚がないことから、相当な深手をこちらも負ったようだ。
しかし、片手だけでもコイツならどうにか倒せるはずだ。
そう読み、零が再び攻撃に移った。
今度は『ハイエナ』も負けてはおらず、零の刀を捌いてくる。
しかし、戦闘経験が豊富な上に刃渡りのある刀を使う零の方に、少々分があるようだ。
浅い傷が『ハイエナ』の躰中に刻み込まれていった。