二章:冷たく表情のない殺気
足音がどんどん近付いてきている。
数は十二人程度、軽装備の大人の足音だな……。
そう判断すると軽く躰を動かした。
流石に躰は、なまっていないようだ。刀の柄に右手を添え、戦闘感覚を呼び覚ましていく。
集中していると、ようやく追いついたのか、迷彩服に身を包んだ成人男女がでてきた。
ハンドガンからサブマシンガンまで腰に装備し、迷彩服のポケットには様々な投擲物、恐らく手榴弾のようなふくらみが確認できた。
ベルトには接近戦専用の短剣が差されているようだ。
素早く敵の装備状態を確認すると、深呼吸をした。
そんな青年に気が付いたようだ。
全く隙が無く、いつでも銃器を取れるように構え、ゆっくりと青年の方へと男が歩いてきた。
青年まで後十メートルほどと言うところで立ち止まり、青年を観察し始めた。
青年の唯一の武器である刀を軽蔑したように見ると、顔を上げた。
「おい貴様。この方角に少女が一人走ってこなかったか?
グリード様の所有物の分際で脱走したのだが……。白いドレスで身を――」
「さぁな、全く知らないな。知ったところで貴様らなどに教えるか、クズどもが……」
言葉を遮られた隊長らしき男が怒りをあらわにし、腰に下げていたショットガンを抜いた。
狙いは当然、青年の胸部である。
「貴様ぁ! なめた口をききおって!」
「うるさいな。貴様らはクズではなくハエだったようだ……」
そう静かに言うと、いつでも抜刀できるよう、居合いの構えをとり、殺気を解放する。
あまりにも冷たく表情のない殺気である。
怒りで興奮していた男の背にも、悪寒が走る。
そして何かに気付いた顔をした。
「まさか……あの黒髪、黒眼、黒服……それに金の細工を施された黒き鞘を持つあの男は……。
そうだ、ここまで鋭い殺気を出せるのはアイツだけだ。
あの伝説の『漆黒の稲妻』……神代 零か!
鬼神の強さを誇る伝説の男がなぜここに……」
驚愕しながらも、十二名全員がその殺気のために、足を動かすことも、ましてや銃器を抜き、引き金を引くなど不可能である。
その場が緊張で満ち、静寂が訪れた。
しかし、何を血迷ったのか男が一人、雄叫びをあげながら走り込み、零に向かってサブマシンガンをフルオートで乱れ撃ちをする。
それがきっかけとなり、残りの十一名全員が各々の銃器で射撃を始めた。
辺りに大量の火薬の匂いと轟音が広がっていった。