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序章:霞む存在
夕方のためか、日中に比べ人通りの少ない大街道。
その通りを危なげな足取りで一人の青年が歩いていた。
漆黒の髪を風になびかせながら歩いている。
いや、彷徨っていると言った方が良いだろうか。
散歩とは言えないような足取りで目的地もなく彷徨っている。
髪の色と同様に黒い鞘の日本刀を腰に差しているので一見、古流剣士のようではある。
しかし、古流剣士のような鋭さはその瞳にはなく、それどころか光すら宿っているようにも思えない。
青年からは無気力感も感じられるが、死に対する願望のようなものも感じられる気がした。