SynchroTrap1st
今回の話は、二部構成になる予定です。どうか、気長に読んで頂けると幸いです。
今回は『SynchroTrap1st』ということで、次話は『SynchroTrap2nd』になる予定です。
イーラの初調査任務。その先での出来事を目撃するのはあなたかもしれません。ほら、気をつけて下さい…。目撃したあなたを消そうと、『影』が狙っていますよ…?では、深い闇の底へ、私、繭墨あざかが、ご案内いたします…。
[クローク]
-No.007- SynchroTrap1st
〔ハルベハイコス〕
それは大きな町だった。
科学技術の大きな発展と経済の活発化により、国内有数のビックシティへと成長した町に。訪問者が訪れた。
『可能性』を探すため、新たな道を選んだ、
〔イーラ・アイリス〕
笑顔の裏に過去を隠す少年。〔イアン〕
明るくもどこか淋しげな少女。〔セオ・リャン〕
3人の訪問者は、世界の歪みによって造られた『罠』へと、その足を進めていた。
−《cー23地区Real》−
「着きました。ここみたいですね。」
今までとは一風かわった雰囲気の地区に、歩くこと約30分。イアン達は到着していた。
そこは、今までのように
HORNは走っておらず、ごく一般的な地区だった。
周りにはアナログ的な建物が立ち並び、あれだけあった高層ビルも、今や離れた所に見える。
「これなら、図書館があるのにも納得ね。」
セオが腰に手を当て頷いた。
「調査表によると、小さなヒズミが多発しているのは、この地区です。」
イアン達は、最近この地区で多発する、エネルギー反応の小さいヒズミを調査するため、派遣された。
そこでは、人々の記憶が変換されるというヒズミが発生していた。
「発生エネルギー自体は、ごくわずかな反応なので、大きな事件には至っていないようですが、ヒズミが多発するため大きなヒズミが起こる事が予想されます。そのため、万が一に備えコンバートさせて調査にあたりましょう。」
「わかったわ。」
「わかった。」
二人は頷き、そして式神をコンバートさせる。
セオの胸元が淡く青い光が包んだ。そして現れたのは一人の少女。
しかし、人間離れした容姿をしている。手の平には水掻きがついており、耳は魚のヒレのようになっている。
「出番よ、マーメイド。」
マーメイドと呼ばれた少女が、静かに頷く。
名前のわりには、しっかり二本足で立っているが。
そしてセオに続き、イーラも再びコンバートする。
胸元が赤い光に包まれた。そしてお馴染みのあいつが。
「ふぁ〜…っせっかく寝てたのによ。」
少年は燃えるような赤い髪をしていた。そして欠伸の際に見えた犬歯も特徴的だ。
「にんむだよ。」
そしてイアンの胸元も碧色の光が包む。そして少女が現れた。
ボブヘアーの白い髪に活発的な性格が彼女の特徴だ。
「やっほぉ〜ぃ!!久々に暴れまくるぞぉー!!」
「それは、ちょっと困るかな…。」
イアンが苦笑する。
「さて、コンバートも済んだことだし、早速聞き込み調査よ。」
「いくら、cー23地区といえ広い町です。二手に別れましょう。」
「ええ。」
セオは単独で調査に当たる事になり、イアンとイーラはペアで行動することになった。
調査任務は初めてのためだ。
「では、2時間後にここで合流しましょ。」
「うん。そのかわり、図書館で時間、潰さないでくれよ。」
「うっ……。わかった…。」
セオは渋々了解する。
「それじゃあ、あとで。」
「気をつけてね。イアン君イーラ。」
「セオも。」
3人は手を振って別れた。だんだんとセオとマーメイドの姿が遠ざかって行く。
「さて、僕等も行きましょう。」
「うん。」
そして二人も歩きだした。
−−−−−−−−−−−
「さてと。聞き込み調査…と。」
セオが独り言のように呟く。そして隣を歩いているマーメイドがある方向に指を指した。
「…………。」
そこはちょっとした広場になっており、公園のようでもあった。そして人が沢山集まっている。何やら舞台のような物が始まるらしい。
しかし、聞き込み調査をするのには、いいチャンスである。早速、セオとマーメイドは広場へと向かう。
「何か楽しそうねっ。」
楽しげな音楽が流れ始め、舞台袖からはハット帽を被り、えんび服をきた一人の男性が現れた。そして手にしている杖を振りながら語り始める。
「さぁさぁ!みなさんお集まり下さい!劇の始まりだよ〜!!」
何やらショーが始まるらしい。
「時間もあるし、ちょっとみていこうよ!」
セオがマーメイドの手を引き、観客席へと消えていった。
−−−−−−−−−−−
「イーラさんは、この町にくるのは初めてでしたね。」
「うん。はじめてだから、おどろいてる。」
小さな田舎町で生活していたイーラにとっては、全く新しい世界だ。
少々困惑するイーラを、イアンは気遣ってくれた。
「何か心配事や、わからない事があったら何でも言ってくださいね。」
イアンはイーラに微笑みかける。
と、その時。すれ違った女性の肩がライとぶつかった。
「いてっ!」
「あっ!! すみません!」
手に沢山の荷物を提げた若い女性だった。
華奢な腕に細い腰。足はスラリと長く、とてもスタイルのいい女性であったが、この時代には珍しい、みすぼらしい格好をしている。
ガラスの靴を落としてしまったお伽話のお姫様のようだ。
「だっ大丈夫ですか??」
「俺は良いけど…、荷物が。」
「あ……。」
紙袋に入れられていたであろう食材が、道端に転がり出てしまっていた。
どうやら、彼女の家ではシチューを作るようだ。
人参やジャガ芋、ブロッコリーがそう語っている。
「今日は、シチューを作るんですか?」
「はい。主人が好きなもので。」
今にも掠れそうな、か弱い声で、女性は言った。
そしてライがジャガ芋を差し出しながら。彼女に問う。
「最近、この辺りでおかしな現象が起きてるみてぇだけど、何かしらねぇか?」
「そうですね……。」
女性はしばらく考えた後、思い出したように手をポンっと叩きこう言った。
「そういえば、お隣りに住んでいる、エンデという男の子が、おかしな事を言っていたわ。」
「どんなことですか?」
「どんなことだったかしら…?ちょっと覚えてないわ。本人に直接聞いた方がいいと思うわ。案内します。」
「いいんですか?お願いします。」
エンデという男の子の話しを聞くため、イーラ達は、女性について行くことにした。
−−−−−−−−−−−
拍手が巻き起こった。
いよいよショーの開幕である。
えんび服姿の男性がステージから去り、次に少女と少年とが出てきた。
「いよいよだね!」
「…………。」
相変わらずの無口であるマーメイドだが、彼女なりに楽しんでいるのだ。
『ねぇ?ここはどこなの?』
『僕達は迷ってしまった。』
『あぁ!どうすれば…。』
物語は少女と少年が、深い森に迷うシーンから始まった。
少女が困り果て、頭を抱える。すると、ステージ脇が煙に包まれ、一人の女性が現れた。
『迷える少女よ、私が助けて差し上げましょう。さぁ、ついていらっしゃい?』
『まぁ! ありがとう!』
『ありがとう!お姉さん。』
深い森の中、一人の女性に助けられた二人は、女性について行く事にした。
「…………。」
「…ん?…よくある話しだって?そうかもしれないけど、これから面白くなるかもよ?」
物語は進んで行き、やがて二人は、女性の家で食事をすることになった。
『まぁ! なんて美味しそうなスープなの?』
『こんなに素敵な料理を作ってくれる貴女の旦那さんは幸せですね!』
机におかれた一皿の白いスープに二人は感激の声を上げた。具は、緑や赤い物が入っている。
とても美味しそうだ。
会場からは、次々とため息がもれる。
『残念ながら、私に旦那はおりません…。この小屋で一人で暮らしております。』
『そうだったのですね…。すみません。』
『いえ。でも今日からは大丈夫ですから。』
含みを持った笑顔を見せる女性に、二人は少し違和感を覚えた。
そして、その日の夜の事。
『さぁ、眠ろう。今夜はぐっすり眠れそうだ。』
『そうね、おやすみ。』
『おやすみ。』
会場の照明が落とされ、辺りは暗くなった。そして、ステージの一部分にスポットが当てられる。
そこには、恐ろしい獣と化した女性の姿があった。
『久しぶりの客人だわ…。貴方を夫にしてあげる…。』
ぐっすりと眠っている少年に、歪んだ存在が近づいてゆく。そして。
『まぁ!なんて事!』
少女が気が付いた時には、既に遅く、少年は捕われの身になっていた。
『貴方をたすけなきゃ!村から誰かを呼んでくるわ!』
『僕は信じてる!君が戻ってきてくれる事を!』
そこで、ステージの巻くが閉じ前半が終了した。
「この後、どうなっちゃうんだろ〜!!」
「………。」
セオは興奮した様子で言った。
歪んだ物語だと言うことも知らずに。
−−−−−−−−−−−
「さぁ、こちらです。」
女性がうやうやしく家へと案内する。
詳しい話しをエンデという少年から聞くため、女性の家でお茶をすることになったのだ。
「おじゃまします。」
イアンが室内へと足を踏み入れる。
そこは、女性の身なりの割にはしっかりとした、部屋の造りだった。こう言っては失礼にあたるかも知れないが、この女性には、とても似合った物とは、言い難かった。
玄関を入った先には、広いリビングがあり、革のソファー、しっかりとした木製のテーブル、壁側には古いデジタルテレビ。そして、リビングの左側にはダイニングがあり、4人掛けのテーブルがあった。さらに奥には、システムキッチンときた。今の時代にしては、けして最新とは言えないが、年季が入り、これもこれでまたいいものがあった。
「今、お茶を煎れますね。適当に座ってください。」
「ありがとうございます。」
イアンとイーラ、そしてウェンディとライは、女性のお言葉に甘えて、ソファーへと座った。
座ってみると、改めてこのソファーの良質さが伺える。イーラ達が4人座っても、あと2、3人は座れるだろう。もちろん、体格のいい人間が座れば、話しは別になるのだが。とにかく、とても良いソファーだということには間違いなかった。
そうイアンが思っていると、女性がお茶を差し出してきた。
「どうぞ。」
「ありがとうございます。いい香りですね。」
澄み切った茶色い液体に、なにやら紫色の果物がスライスされた物が浮いている。そして、ほのかに甘酸っぱいニオイがした。
「パープルベリーの紅茶です。うちの主人が好きなもので。」
「……ん、すっげー旨い!」
ライはその美味しさに、声をあげた。
そして一気に飲み干す。
「ぎょうぎわるい……。」
イーラが静かにライを注意した。
「良いんですよ。そう言って頂けるとうれしいです。では、私は、ついでに夕ご飯の準備をしますので、エンデが帰って来るまで、お待ち下さい。何かあったらキッチンまで。」
「はい。」
そして、女性は奥のキッチンへと、消えて言った。
−−−−−−−−−−−
会場のブザーがなった。
後半の始まりを告げたそのブザーは、電子音ではなく叫び声だった。
「キャァぁァァぁァァァァーーーーーーーーーーーーぁっ!!!!!!!!!!!!!!!」
人々の鼓膜を打ったその悲鳴は、勿論セオの耳にも届いた。
「なっ何っ!?」
「あっぁっ…!!」
舞台袖に出てきた少女役の出演者が絶句した。
そして、その現場を見たセオも、息を飲んだ。
「こ…これは…っ!!」
そこには、赤が広がっていた。鮮やかな赤。
濃厚なその色に、漆黒の『影』が混ざった。
その『影』は、飛び散った肉片を貪り、魂を啜っていた。まるで飢えた獣のように。何事にも形容しがたかったが、もはや獣と例えるほかなかった。
「うっ……!!」
思わぬ光景に、セオは吐き気を覚え、口に手を当てる。そこは、血生臭い臭いが充満し、人々の悲鳴が行き交った。あれだけいた人々が、蜘蛛の子を散らすように一斉に散っていった。その場を動けずにいたセオは、マーメイドによりその場を離れ、楽屋裏から外へ出た。そして。
−《cー23地区Anreal》−
そこは暗黒に包まれた場所だった。
To be contenew...
ここまで読んで下さり、誠にありがとうございました。楽しんで頂けたでしょうか?
では、次回またお会いしましょう。
ありがとうございました。
繭墨 あざか