戦闘開始
[クローク]
‐No.004‐ 戦闘開始
今、3人の目の前に立っているのは、確かに少女だ。ぶかぶかの白い服に紺色のミニスカート。そりて黒ボーダーのニーソ。しかし、ただの少女ではなかった。
「遅〜い遅〜いディーバ達は、何をしに来たのかな?」
「てめぇ! やっぱりアンリアルか!!」
「今更〜??気づくのも遅いんだね〜!」
アンリアルの少女が口角を吊り上げてニマ〜っとした笑みを浮かべた瞬間、辺りの景色が変わった。
「なっ! なんだ!?」
辺り一面白黒に包まれた世界。
イーラがDIVE後に見た、あの景色と同じだった。
「ヒヒっ!」
少女が不適な笑みを浮かべる。途端セオがいち早く動いた。
「清らかなる水流の流れよ、大地に恵を・・・オーシャンマーメイド!!」
セオの足元から美しい鱗を纏った人魚が現れた。体長は1.7mほどだろう。
魚のヒレのような耳を持ち、空間を流れるように泳いでいる。
「サラ!」
サラと呼ばれた人魚は祈りを捧げるかのように腕組み、少女の足元から水流を出現させた。
少女が水に飲み込まれる。
「ヒヒっ!」
しかし、以前少女は不適な笑みを浮かべている。
すると、両腕を左右に広げ、水流を弾いた。
「くっ!!」
「こんなんじゃ、このアンナ様は殺せないよ? さぁ! 次は誰かな!」
「私だ!!」
アンナと名乗った少女がミランを挑発する。
「天空の使者よ! 今、天災を! ブルーバード!」
ミランの胸元が蒼く燃え上がり、氷結の炎に包まれたフェニックスが現れた。ジェシカだ。
「『零度ノ風』!!」
ジェシカは大きく翼を羽ばたかせ、絶対零度の嵐を生んだ。
氷結の炎が、アンナに襲い掛かる。
しかし、黒い力によって弾かれた。
「弾かれた!?」
「こんなんで、攻撃出来ると思った〜?」
再び、ニマっと口角を吊り上げる。
途端3人の足元が揺らいだ。
自らの『影』がうごめいている。
「なっなんだ?」
「ボクのシャドー! 見せてアゲル!!」
3人が闇に包まれる。
体のまわりを影が暴れた。
「くっ!」
「キャっ!」
「うっ!」
必死に目を閉じ、3人はもがいていた。
その頃、本部では『ヒズミ』の正確な出現場所と時間を特定している真っ最中だった。
「早く解析を急いで!」
「はい!!」
「アヤ博士、なぜそんなに?」
「ミラン達との通信が12分前から途絶えたままよ。もう『ヒズミ』に入った可能性があるわ。」
すると一人のオペレーターが声をあげた。
「博士!」
「何!?」
「正確な出現場所と時間が、特定出来ました!」
「出して!」
オペレーターがキーを打つ。大型モニターに、写し出されたのは。
『PLACE:JAPAN』
『TIME:2005.04.07』
「この日は!?」
アヤには見覚えがあった。
そしてアヤが驚きに翻弄されている頃、ミラン一行は、夢の中にいた。
「ここは・・・どこだ?」
暗闇の中、ミランは一人。
「ここは?・・・先輩?」
暗闇の中、セオは一人。
二人はさ迷っていた。
どこからか、楽しげな歌声が聞こえてくる。
「こコは??」
『ハッピーバースデートューユー♪ハッピーバースデートューユー♪』
「誕生日??」
イーラの目の前に、光が差し込んだ。
何やら、もやもやと映像が飛び込んで来た。
『誕生日おめでとう。』
『おめでとう。』
『わーい! ありがとう!』
そこには、とても平和そうな、家族の姿が写し出された。どうやら女の子の誕生日を、家族皆で祝っているらしい。
両親と兄に囲まれ、女の子は微笑んでいる。
その光景をみたとき、イーラは妙に懐かしさを覚えた。
しかし、油断はしていられない。今は戦闘中なのだ。
イーラは、はっとしてライを呼び出した。
「ライ……。」
イーラの胸元が赤く燃え上がり、やがて炎は一頭のライオンへと姿を変えた。
辺りに意識を集中させる。
今この空間にいるのは自分だけだ。
自分の力で、何とかしなくては。
すると今まで見ていたあの光景が、掻き消され、目の前に『影』が現れた。
「ちぇ〜。堕ちなかったか〜。あんた、ディーバの分際で、精神は強いんだぁ〜。」
「あなタは!?」
「面白そ〜!ボクと遊んでよ!」
そういったやいなや、アンナは、脅威のスピードで、イーラに襲い掛かる。
「速イ!!」
驚愕の声をあげたイーラに、『影』が迫り来る。
その時だった。
右方向から氷の刃が飛んできたのは。
「なんだ?」
アンナは困惑しながら右方向を見る。
そこには美しい青い翼を持ったフェニックスと、それを操る者が。ミランだ。
「イーラ! 大丈夫か!?」「いいとこだったのに! 邪魔するな!!」
すかさずアンナは目標をミランへと変え、猛攻撃を仕掛けた。
今までの『影』とは違うなにかが、ミランに襲い掛かる。
その『影』には、顔のようなものが現れ、腕も現れた。
「ジェシカ!『アイスウォール』!」
ミランの声と共に、ジェシカは地面に向かって氷結の炎を吐く。すると、そこから文字通り氷の壁が現れた。
『影』がアイスウォールに突っ込んでくる。
「シャーーーーー!!」
「くっ…。」
さすがミランだ。壁は破壊されることなく、ミランを守り続けている。
「そう。これじゃあ駄目なんだね?これじゃあ!!」
アンナが声を上げる。
すると『影』はさらにその大きさを増した。
「遊びは終わり。ボクもうそろそろ本気だよ!!」
煙りのようだった『影』は実態を持ち、アイスウォールを貫き、ミランに直撃した。
爆風と共に激しく黒煙が舞う。
勢いで、ミランは後ろへ吹っ飛ばされた。
「ミランっ!!」
「キャハハハハハハハハ!!! 快っっ感!!」
普段は大人しいイーラも、この時は黙っていられなかった。
そして、自分の中に『感情』が産まれるのを感じた。
この熱い気持ちはなに??
胸の中を、この気持ちが支配するみたいな……。
アンナを…。アンリアルを倒したい!!
ミランを傷つけたやつを!
「・・・さない……。」
「何? もっと大きな声で言ってくれないとわかんないよ??」
アンナがイーラを挑発した。その時だった。ライに異変が生じた。
「グゥガァァァァーー!!」
大きく吠えて激しい炎に包まれる。そして現れたのは……。
「許さナイ・・・許さナイ……。」
『それ』をイーラが握りしめる。
『それ』は一振りの剣だった。
炎を纏い、長さは140cm程だ。
持ち手の上の部分には装飾が施されており、蝶のような形をしている。中心部分には、真っ赤な宝玉が埋め込まれていた。
その剣を握り、イーラは
アンナへと攻撃を仕掛ける。
「へぇ〜。度胸あるね〜。」
そんなアンナの挑発は、イーラの耳には届いていなかった。
まるで、操られた人形のように、イーラはライを振るう。
真上から、ライを振り落とした。
「シャドー!」
しかし、横合いからアンナの式神がとびたし、イーラの攻撃を受け止めてしまった。
ギンっという音と共に、ライとシャドーの爪が擦れあう。
「ボクを殺そうとしたって無駄だよ!」
勝ち誇ったように、アンナが叫ぶ。
「…………。」
依然として、イーラは反応しない。
目標はアンナだけだと言っているかのように、シャドーには目も暮れず、一直線にアンナへと向かう。
そしてアンナの目の前で、ライを振るった。
「おっと、危な〜い。」
振るったライの風で、アンナの前髪が揺らいだ。
アンナの額に、黒い宝玉が埋め込まれていたのがちらりと見えた。
イーラはその宝玉へと目標を変え、アンナへと迫る。
だが、やはりシャドーが横合いから邪魔を入れた。
ちょうどタイミングのいい瞬間にライを振るっていたので、見事にシャドーを真っ二つにすることに成功した。
「ちっ・・・斬られちゃったか……。」
くやしがるアンナをよそに、何事もなかったかのように、再びアンナへと迫る。
何度かアンナを斬り付けようとするが、バックステップで、避けられてしまう。
「遅い遅い!!」
「……。」
アンナの言葉は、イーラには届いていない。もはやイーラは怒りに心を操られ、暴走してしまっていた。
そんなイーラに気が付いたライが、すぐさまイーラに声をかける。
『おい! イーラ! 正気に戻れ! イーラ!』
ライの言葉もイーラには届かなかった。
「あんたそんなんじゃいつか式神に捨てられちゃうよ??」
そう言ったアンナは、跳躍し、イーラから距離をとった。
「さ迷いし幾多の魂よ、今ボクに集え!!」
腕を左右に広げ、アンナは再び式神をコンバートした。
なんとそれは、先程イーラが斬ったはずのシャドーだった。
「ボクを倒さない限り、シャドーを消すのは無理だよ!!」
アンナが叫ぶと、シャドーが巨大化し、イーラへと襲い掛かる。
不意打ちだった。
イーラはライを構える時間がなく、その場に伏せることしか出来なかった。
「消えちゃえ! ディーバ!」
シャドーの鋭利な爪が、イーラを斬り付けようとしたその時だった。
ギンっという音がイーラの頭上でした。
「何っ!?」
「けっ・・・ディーバを甘く見てもらっちゃ困るな!」
「お前は!!」
ミランだった。
あの後、体制を立て直したのだ。しかし、その身に受けた傷は、浅いものではなかった。立っているのがやっとではないだろうか。
その左手には、蒼い炎を纏った鎌が握られていた。ジェシカだ。長さはこちらも140cm程。刃の部分には、丸みを帯びた美しい模様が描かれている。
一方、右腕はぶらんとしたまま動かない。爆風を受けた衝撃で地面に落ちたとき、受け身の体制が失敗し、手首を折ってしまったのだ。頭も強く打っており、目が霞んだ。
何度も瞬きをし、アンナを見据える。
「生きてたんだぁ〜。」
「ハァ・・・わ・・・悪いかっ! ハァ……。」
「ヒヒっ! その体でボクと戦えるの?」
「私一人じゃ・・・無理かもな。だが一人じゃないんでね。」
突然のミランの登場に、我にかえったイーラは立ち上がり、ミランの左に並ぶ。
「ごめんナサい…。」
「なんで謝る? イーラのおかげで、少しは体制を立て直す時間ができた。」「大丈夫?」
「へっ! こんなん、かすっただけだよ。」
そう言ってミランは笑ってみせた。
そしてイーラの耳元で、こんなことを囁いた。
「イーラ。いいかよく聞け。話してなかったが、式神同士では、連携技が使える組み合わせがあるんだ。」
「連携?」
「あぁ。私らはラッキーだったな。」
「どういウ意味?」
「イーラは灼熱の炎。私は氷結の炎。一見正反対に思えるが、私らの組み合わせは相性が良いんだ。」
『灼熱の炎』『氷結の炎』
この二つの炎が、大きな力を生む。他にも、
『清流の水』『大地の自然』この二つも相性が良い。
しかし、相性のあうパターンがない『鉄槌の雷』は、連携技が使えないため、とても扱いが難しく不利なタイプと言われており、ディーバの中でも選ばれた者だけが、手に入れることの出来る式神だ。
「私が、合図をだしたら、イーラはライの遠距離技を頼む。」
「わかッタ。」
今まで二人の会話を、見ていたアンナが待ちきれなくなったのか、口を開いた。
「そろそろ遊びは終わりだよ? どんなに話しあったって、あんた達がボクに勝つ事は無いんだからさ〜!」
「ハっ! それはどうかな?」
そしてミランは左手でジェシカを握り直し、アンナへと迫る。
立て続けに、攻撃を繰り返した。
「『氷河天災』!!」
鎌が蒼い炎に激しくつつまれ、氷結の刃が飛び出す。それをシャドーが横合いから散らしていく。
「やっぱり駄目か…。」
「言ったでしょう? ボクは殺せない。って!」
アンナが叫び、前髪が再び揺らぐ。そしてミランは、アンナの額に黒い宝玉があることに気が付いた。
「なるほど。そういう事か!」
バックステップでイーラの元へと戻り、再び耳打ちする。
「今の、見えたか?」
「うン。額ニ黒い宝玉が。」
「そうだ。私が思うに、きっとあれがシャドーの本体だ。あれを狙え。」
「やってミル。」
イーラは全神経をライ、いや『ファイアドラゴン』に集中させる。
「さぁ。行くよ! ボクのシャドー!!」
アンナのシャドーがイーラ目掛けて突進してくる。その時だ。
「イーラ!!今だ!」
ミランの合図を受け、イーラは目を開ける。そして、一直線にアンナの額へと『灼熱ノ吐息』を放つ。
「行っけェェェ!!!」
聖剣から灼熱の炎が放たれる。それはシャドーを直撃し、勢力を保ち一直線にアンナへと向かった。そしてイーラの放った『灼熱ノ吐息』に軌道を合わせ、続けてミランが放つ。
「行けよ!『氷河天災』!」
鎌から蒼い炎が竜巻のように放たれる。氷柱の刃が入り交じったその炎は、イーラの炎と一体化し、紅と蒼で莫大な力を生み出し、アンナへと一直線だ。
「行けェェェェェ!!」
「行けぇぇぇぇぇ!!」
二人の声が重なった。
「なっ!! ボクのシャドーがっ!!」
そして二つの炎はアンナを貫き、黒き宝玉を破壊した。
「キャぁァあ゛ぁぁぁーーーーーー!!!!!!」
アンナは悲鳴をあげ、『ヒズミ』の歪みへと消えていった…。
「ハァハァ……。」
「終わった…。」
イーラの握っていた剣は炎へと姿を変え、イーラの中に帰った。
そしてジェシカも。
その瞬間、目の前が霞み、そのままイーラは倒れてしまった。
「イーラ! 大丈夫か!?」
イーラを支えながらミランが問う。しかし、疲れきったイーラが返事をする事はなかった。
そしてミランも。
「あれ・・・? なんか目が・・・久々に力使い過ぎ・・・たかな……。」
その場に倒れてしまった。
そして二人が倒れてしまったあと、『ヒズミ』は消え、もとの廃屋へと変わった。暗闇の中で困惑していたセオも解放され、気が付いた時には、二人が目の前に倒れており、『ヒズミ』の消滅と二人の無事を本部に連絡。
これにて、イーラの初任務は、閉幕を迎えた。
3人は『ヒズミ』が消滅した事で、現時空間へと戻され、本部に帰還。ミランとイーラは医療班に治療を受け、セオはアヤへの事後報告にあたった。
「お疲れ様。大変だったわね。」
「いえ。私なんか何も出来ませんでしたし、敵の罠にはまって戦いに参加することも出来ませんでしたから…。」
「それでも、二人を無事に本部に帰してくれたでしょう?」
「でも……。」
アヤの研究室でセオとアヤが話している頃、医療室では、イーラが目を覚ました。
(こコは・・・?ワタシ帰って来たノ……?)
そして、少女は知らない。
もう一人の少女が、夢から覚めたのを………。
全ての始まりは、これからだということを……。
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