Birthday
皆さんはじめまして!繭墨あざかです。
初の執筆ですのでつたない部分もありますが、お暇な時間に読んでやってください。
皆さんを時空の旅へとお連れできれば、幸いです。
〜オープニング〜
そこは静かな、静寂に包まれた場所だった。
ほのかに薬品の臭いが立ち込める。床には、濡れた人の足跡が続く。追って行くと一人の少女が立っていた。少女の右手首は『001』の数字…。
ここは実験室……
ヒトを造り出す実験室…
『零ノ刻』が始まった場所…。
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[クローク]
‐No.001‐ Birthday
2100年 7月23日 夏
真夏の暑い日。ちょうど蝉がなきはじめたころ。
ここ、『ひまわり孤児院』にも、夏休みがやって来た。
毎年、夏休みになると、近所のおばあさんが、子供達に本を読みに来るのが定番だった。
今年もまた、両手いっぱいの本の入った袋を抱えて、おばあさんはやって来た。
「今日はどんなお話がいいかい? 」
「今日ね! 私のお誕生日なの! だから、特別なお話を聞かせて! 」
「そうなのかい? おめでとう。そうだねぇ、じゃあ、おばあちゃんの昔話をしよう……。」
「ワ〜イ!! ありがとう! ミランおばあちゃん! 」
「あの日は、今年みたいに暑い夏の日じゃった……。」
おばあさんは淡々と話し始めた……。
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2035年 8月11日 夏
大雨の降り続く真夏の暑い日。私達は「仕事」の為、イギリスに来ていた。
私達はディーバ。特定の遺伝子を持った子供達が選ばれる聖職者だ。
あらゆる怪奇現象を「式神」によって解決していくのが、私達の仕事だ。
イギリスでの怪奇現象。それは、ロンドンで起きた。
「犯人不明の殺人事件? そんなもん警察に任せればいいじゃん〜。何で私らがやらなきゃなんないんだよ! 」
「それがただの殺人事件じゃ無いんだよ、ミラン。殺された遺体が次々に生きてる人々を襲うってはなしだよ? 」
「げぇぇ〜きもち悪っ! ゾンビじゃん……。」
死んだはずの人間が動きだして人々を襲う。
どこかのホラー映画のような話しだ。そんなわけない。ミランはまるで馬鹿にしていた。
「ロンドン警察もお手上げ状態なんだよ。だから僕達が呼ばれたって訳……って聞いてる?? 」
「あっごめん。でもさ、イアン、あそこ見て。こんな雨降ってるのに、誰か座り込んでる……。」
「本当だ。どうしたんだろ………。」
そこには、黒いフード付きのコートを真深にかぶった、一人の少女がいた。屋根の下に座ってはいるが、この大雨のなかだ、すでにビショビショだった。
「おーーーーーい!!! なにやってんだぁー! 」
「なっちょっミラン! 話しかけちゃダメだよ。向こうがびっくりしちゃうだろ? 」
案の定、驚いたのか立ち上がり、目を丸くしてこちらを見ている。
「えぇ〜と、何してるの? 濡れるぞ? 」
「……………。」
「あのぉ〜……。」
少女の足元には、一匹の三毛猫がいた。その猫も雨で濡れている。
この少女にとても懐いているようだ。
「ダレ? …なゼここに来タの? ……」
「私らは、とある依頼を受けてきたんだよ。」
「そう………。」
町人としては、そっけない態度。それに言葉も片言だ。この町の人間ではないのだろうか?
30秒ほどの沈黙が続いたあと不意に少女は三毛猫を抱いて立ち上がり、何も言わずどこかへ去ってしまった。
「あっちょっと待って!! 話を!! 聞かせ…行っちゃった……。」
「いいじゃん〜!ほっとけば! 」
その時、イアンは何か光る物が落ちている事に気がついた。
「! ん?? 鍵型のネックレス?? あの子のかな? 」
銀のような素材で出来ているが、それは汚れて黒ずんでいた。
「これ。届けてあげないと……。」
「はぁ? めんどくせ……。」
「いいじゃないか。彼女に話しも聞きたいし。」
「わかったよ……。」
彼女の物だと思われる落とし物を片手に、イアン達は、少女を探し始めた。
まずは家々が並ぶ住宅街、そして店が並ぶ商店街……。
と町をまわっていくうちに、イアン達はあることに気がついた。
「なぁ、イアン。思ったんだけど、まあまあデカイ町にしては静か過ぎないか?? 」
「そういえばそうだね…。いくら怪奇事件が起こっているにしても、人が居なさすぎる……。」
「まさか全滅とか?? 」
「その線もありえるけど…じゃあ何故あの娘だけ? 」
「まさか! あいつが犯人とか!? 」
「あの娘が?? 」
人気の無い町にたった一人残っている少女。確かに彼女が黒だという可能性もあるだろう。しかも言葉も片言で疑う予知はありそうだ。
「もし、そうなら急いで捜す必要がある! もしかしたら、まだ残っている人達を襲うかもしれねぇ! 」
「そう事を急がないでよミラン! 」
「でも!! 」
「わかった…急ごう……。」
「あと、どこ捜してない? 」
「あとは、郊外だけだよ。」
「よし。捜してみよう! 」
あらかじめ町の構造を調査済みだったイアン達はこの町の郊外にある森へ向かうことにした。
鬱蒼とした森の中を歩いていく。人の手が行き届いていないのか、草木は生え放題で雨が降っていることもあり、辺りは薄暗かった。
「歩きにくいね………。」
「あぁ。それにしてもここはどこなんだ? 」
「それほど歩いていないつもりだけど。かなり奥まできたような錯覚がする……。」
「気をつけよう……。」
「うん……。」
薄暗い森の中だ。何があるかわからない。細心の注意をはかり、奥へと進んでいく。
すると、あるものを見つけた。
「ねえミラン! あそこ見て! 掻き分けたみたいな道が出来てる! 」
「! 怪しい臭いがぷんぷんするな…。…」
「行ってみよう……! 」
そこには、左右に掻き分けられた小道が出来ていた。動物の通り道だろうとも思ったが、あまりにも人工的過ぎる雰囲気に怪しさを覚えた。
いつでも反応出来るように、戦闘姿勢をとりながら進んでいく。
すると、人の声が聞こえてきた。先頭をあるくミランが右手を上げ、待てと示した。
「?? なんだ? 」
「唄じゃないかな?? 」
それは、唄だった。あまりの美しさに立ち尽くしてしまう。
「♪†¶〜♪‡〜♪†‡」
そこに彼女は居た。ちょっとしたスペースのある空間にボロボロのマリア像が立っている。彼女はそのマリア像に向かって祈る様に歌っていた。
「唄?? でもなにいってるか分からない……。」
「ラテン語じゃないかな? すごく綺麗なうたごえだね………。」
キシッ
イアンの足元の枝が折れた音がした。
「おい! なにやってんだよ! 」
「ごっゴメン!! 」
ミランが小声で叱責するが、案の定気づかれてしまった。驚いた様子で少女がこちらを振り返った。
「ダれ!!? ……。」
!!!!!!
やばい…気づかれてしまった。ミランが息を飲んだとき、慌ててイアンがフォローする。
「! あっえぇ〜と、ごめんなさい! 立ち聞きするつもりは無かったんだけど、綺麗な歌声だったからつい……。」
「あなタ…達…さっきノ………。」
それからイアン達は、この町で怪奇事件が起きていること。そして自分達はそれを解決する存在であることを話した。
「…と、いう事なんです。」
「そう……。」
「そう。って何か知らないのかよ? 」
「………。」
首を左右に少しだけ振って彼女はNOと答えた。
「それと、一つ気になる事があるのですが……。」
「ナに? 」
「この町には他に人は居ないんですか?? 住宅街や商店街などを周りましたが、他に人を見かけなかったんです。」
「人どころか、鳥や野良猫、動物さえ見なかった。」「見たっていうなら、本当にあなたとその猫ぐらいで……。」
少女は俯いて黙りこんでしまった。
再び沈黙が訪れると思われたとき、少女が口を開いた。
「……確かニ……こノ町にハ…ワタシしか居ナイ…。」
「どっどうしてですか!? 」
「……皆ヲ…町外れノ教会に……避難サせた…。」
「という事は生存者もっ! 」
イアンが立ち上がり、驚きの声を上げたとき、ミランが気づいた。
「しっ! 静かに。何か来るっ……! 」
話しこんでいたせいか、何かが近づいて来る気配に気づかなかった。
カサッという音がする。
何かがゆっくりと、しかし確実に近付いてくる気配がした。
いつでも戦えるように戦闘体制を整える。
イアンとミランの背中で少女を挟んで護る。
「あなたは動かないで、僕らの間で、じっとしてて下さい! 」
「何がくるかわからない。イアンっ!!準備は? 」
「いつでもっ! ……。」
3人の間に緊張がはしった時、先に動いたのは、相手でもなくイアン達でもなかった。
イアンとミランの背中の間で突如光が輝いた。
「えっ!? ……。」
「なっ!? ……。」
そこには、燃えるような真っ赤の鬣を持った、一頭のライオンが現れた。
一体何が起きたのか??
そうイアン達が思った時、少女がおもむろにつぶやいた。
「…××××……『ファイアドラゴン』……。」
体長2?はあるだろう。
ファイアドラゴンと呼ばれたライオンはその口を大きく開けて、灼熱の炎を吐き出した。
その炎は一吹きで辺りを焼き尽くした。
「すっすごい…! 」
「なっなんだよ!? これ……。」
イアンとミランが驚きの声を上げたとき、どうしたことか、そのライオンは炎に包まれたと思ったら、小さな三毛猫に姿を変えてしまった。どうやら弱っているようだ。
弱々しくその場に倒れてしまった。
「なっ!? どうしたんだ!? 」
「おい!! 猫! しっかりしろよ!? 」
猫の心配をしている場合ではなかった。
猫が倒れたと思ったら、イアン達の背後で今度は少女が倒れてしまった。
「だっ大丈夫ですか!? 」「おいおい。一体どうしたっていうんだよ……。」
何が起きたのか状況が理解できない。混乱しそうになったその時だった。ライオンの炎によって焼き殺された敵の中に動ける者がいた。それに気づかなかった二人は少女の体を気遣う。
「あのっ!! 大丈夫ですか!? 」
「おい! おきろよ! 」
必死に少女に呼び掛けていたとき、ミランが何者かの存在に気づいた。
しかし、気づいたのが遅すぎた。それはもう、イアンの背後すぐそこまで迫っていた。不運なことに、呼び掛けに必死なイアンは気づいていない。
「っ!! イアンっ!! 後ろっ!!!! 」
「え!? ……。」
雄一月明かりが照らすその場所に鮮明な赤色が目に入った。ミランの目の前を真っ赤に染める。
「!!!!!! 」
「っう…っ!! 」
「イアンっ!!!!! 」
その赤色の元はイアンだった。
イアンはその場に倒れ込んでしまった。イアンが地面に倒れ込んでしまう前に、ミランがその体を支える。
「っ…ミ…ラン…っ」
「イアンっ! 」
すると、イアンの背中で隠れていた敵が、その姿を現す。
それは、体長2?ほどの生物だった。
人間のようで人間ではない。人間のなり損ないのようだった。元は人間だったのだろう。
しかし、その右手が大きく歪み、刃物、強いて言えば、鎌のような形をしていた。
頭部と思われる部分に付いている大きな目が、こちらをギョロリと睨んだ。
「っ! ちくしょう!! てめぇ!! ぶっ殺す!! 」
女とは思えない台詞を吐いたミランは自らの「式神」を呼び出した。
「こいよ!! ブルーバード!! 」
その瞬間、ミランの胸の辺りが蒼い炎に包まれた。
そこに現れたのは全長3?はあるフェニックスだった。
「いけよ!! 」
フェニックスが勢いよく飛び上がる。そしてその翼を広げた。
端から端まで軽く5?はありそうだ。さらに大きく羽ばたくと絶対零度の風をうむ。
「零度ノ炎!!! 」
絶対零度の炎の風が残っていた敵を焼き付くした。辺り一面が昼間のように明るくなる。
「ハァ…ハァ…ハァ…」
式神の扱いには、精神力が必要だ。怒りに任せて、敵の割には大技をだしてしまった。相当の体力消費だ。
ミランが息を切らしていると、上空から降りてきたフェニックスが、蒼い炎に包まれる。するとフェニックスは一人の少女へと姿を変えた。
「もぉ〜。ミランに指示されたからやったけど、あんな大技使ったら、精神力が持たないわよ? 敵もたいしたことないのに……。」
「わかって…るよ…。ちょこちょこ攻撃するのがめんどかったんだ。」
「とりあえず二人を本部まで届けましょう。私の背中に乗れば2時間で着く。」
「ああ。」
ミランの式神、彼女はジェシカと呼んでいる。
一行は、ジェシカの背中にのっていくことになった。
しかし……。
「イアン大丈夫か? 立てるか? なぁイアン? 聞いてる? !! おい!! イアン! どうした!? 」
「イアン君!? 」
イアンの意識がなかった。さっきまで座り込んでいたと思ったら、すでに遅かった。
「ちくしょう! ジェシカ!! 」
「わかった!!! 」
一刻を争う状況だ。
ジェシカが蒼い炎に包まれる。巨大なフェニックスへと姿を変えた。
「あいつも、本部へ連れてってやんねぇと! 」
ミランは少女へと目をとめた。ファイアドラゴンと呼ばれたライオンがでてきてから、ずっと意識がなかった。
「こりゃマズイ!! 二人を絶対助けねぇと!! 」
まずは重傷のイアンを背負い、ジェシカの背中に乗せる。そして少女を、しかし弱々しく座り込んでいた少女の三毛猫はすでにピンピンしていた。
「おい! 猫!! お前も早く乗れ!! ご主人と一緒に来たいならな! 」
「ニャー!! 」
三毛猫がミランの肩に飛び乗った。
すると辺りは旋風に包まれる。翼を大きく羽ばたかせ、ジェシカが飛び立とうとしている。
「ジェシカいけ!! 」
ミランの声と共に、ジェシカは飛び立ち、彼らは本部を目指した………。