第32章 初の完敗
翌日。
リオンは一人で街を歩いていた。
ミラは宿で休んでいる。
まだ傷が完全には治っていない。
リオンは宿を探していた。
カインの宿を。
街の人に聞く。
「黒髪の旅人を見なかったか? 赤い目の」
何人かに聞く。
やっと情報が得られた。
「ああ、あの男なら東の宿にいるよ」
リオンは東の宿に向かった。
受付で聞く。
「カインという男はいるか?」
受付の女性が答える。
「3号室です」
リオンは階段を上った。
3号室の前。
ノックする。
「誰だ?」
中から声。
カインの声。
「リオンだ」
沈黙。
そして。
扉が開く。
カインが立っている。
普通の服。
旅人の格好。
「何の用だ?」
リオンが答える。
「決闘しろ」
カインが眉を上げる。
「決闘?」
リオンが頷く。
「今度は本気で戦う」
カインが笑う。
「面白い」
部屋から出る。
扉を閉める。
「だが条件がある」
リオンが聞く。
「条件?」
カインが答える。
「お前が負けたら、ミラを置いて一人旅に戻れ」
リオンが驚く。
「なんだと?」
カインが続ける。
「仲間は足手まといだ」
冷たく言う。
「6666回の失敗が証明している」
リオンが怒る。
「ミラは足手まといじゃない!」
カインが微笑む。
「ならば証明してみせろ。俺に勝って」
リオンは黙った。
考える。
そして。
答える。
「わかった」
カインが驚く。
「本気か?」
リオンが頷く。
「ああ。だが」
カインが聞く。
「だが?」
リオンが続ける。
「俺が勝ったら、お前が仲間になれ」
カインが笑う。
「俺が? お前の仲間に?」
リオンが頷く。
「そうだ。お前ほど強い奴なら、魔王を倒せる」
カインが考える。
そして。
頷く。
「いいだろう」
手を差し出す。
「約束だ」
リオンが握る。
「約束だ」
カインが言う。
「明日の朝。街外れで」
リオンが頷く。
「わかった」
カインが部屋に戻る。
扉を閉める。
リオンは階段を下りた。
宿を出る。
拳を握る。
「明日……」
つぶやく。
「絶対に勝つ……」
翌朝。
夜明け前。
リオンは宿を出た。
ミラはまだ眠っている。
起こさなかった。
心配するだろうから。
街外れに向かう。
東門を出る。
平原。
そこに、カインが立っていた。
黒い鎧。
大剣を持っている。
準備万端。
リオンが近づく。
「来たか」
カインが言う。
リオンが頷く。
「ああ」
剣を抜く。
カインが言う。
「ルールは簡単だ。どちらかが降参するまで」
リオンが頷く。
「わかった」
カインが剣を構える。
「始めるぞ」
リオンも構える。
深呼吸。
集中する。
そして。
叫ぶ。
「戦え、隠れよ、燃やせ!」
瞬間。
リオンの体が光る。
三色の光。
赤、青、緑。
戦士アレク。
忍者カゲロウ。
魔法使いリズ。
3人格同時召喚。
リオンの体が動く。
右手が剣を振るう。
左手が影を操る。
口から炎を吐く。
全方位攻撃。
カインに向かって。
カインは防ぐ。
剣で。
炎を避ける。
影を払う。
でも。
押されている。
後退する。
リオンが叫ぶ。
「いける!」
攻撃を続ける。
剣。
影。
炎。
次々と。
カインが防ぐ。
必死に。
リオンは確信した。
『勝てる!』
だが。
その時。
カインの目が光った。
赤い光。
「甘い」
低く言う。
一瞬の隙。
リオンの攻撃の隙。
カインが踏み込む。
蹴り。
リオンの腹に。
「ぐはっ!」
リオンが吹き飛ぶ。
10メートル。
地面を転がる。
3人格が乱れる。
リオンは立ち上がった。
「戻れ! 全員戻れ!」
3人格を引かせる。
そして。
叫ぶ。
「狂え!」
新しい人格。
狂戦士バーサーカー。
目が血走る。
理性が消える。
ただ戦うだけ。
殺すだけ。
リオンが吠える。
「ガアアアア!」
剣を振るう。
滅茶苦茶に。
でも、速い。
強い。
カインに襲いかかる。
カインが受ける。
剣で。
リオンが続ける。
連撃。
何度も。
何度も。
カインが受け流す。
全て。
「読める」
冷たく言う。
「6666回見た動きだ」
リオンの剣を受ける。
そして。
カウンター。
リオンの剣を弾く。
「ガキィン!」
リオンの剣が飛ぶ。
手から離れる。
地面に落ちる。
カインの剣がリオンの喉元に。
冷たい刃。
「終わりだ」
リオンは動けない。
狂戦士の人格が引く。
リオンの目に戻る。
理性が戻る。
そして。
理解する。
負けた。
完敗。
リオンは膝をついた。
「くそ……」
小さく言う。
「俺の……負けだ……」
カインが剣を下ろす。
「約束だ」
リオンが顔を上げる。
カインが続ける。
「彼女を置いていけ」
リオンが震える。
「待ってくれ……」
カインが首を横に振る。
「約束は約束だ」
その時。
声が聞こえた。
「リオン!」
振り返る。
ミラが走ってくる。
息を切らしている。
「何してるの!?」
リオンの傍に来る。
リオンを見る。
傷だらけ。
「またカインと……」
リオンが頷く。
「ああ……」
ミラがカインを睨む。
「あなた! また何を……」
カインが答える。
「決闘だ。そして、リオンは負けた」
ミラが驚く。
「決闘……?」
カインが続ける。
「約束がある。リオンは一人で旅を続ける。お前は置いていく」
ミラが目を見開く。
「そんな……」
リオンに向き直る。
「本当なの?」
リオンが頷く。
「ああ……」
唇を噛む。
血が滲む。
「すまない……」
ミラが首を横に振る。
「謝らないで」
リオンを抱きしめる。
「私は離れない」
リオンが驚く。
「でも……約束……」
ミラが言う。
「知らない。私の意思よ」
カインに向き直る。
「私は自分の意思でリオンについていく」
カインが微笑む。
「そうか」
剣を鞘に収める。
「なら仕方ない」
リオンが驚く。
「いいのか?」
カインが答える。
「約束はリオンとの間だ。彼女が勝手についてくるなら、俺は止めない」
リオンが立ち上がる。
ミラに支えられて。
「ありがとう……」
カインに向き直る。
「次は……」
カインが遮る。
「次はない」
リオンが黙る。
カインが続ける。
「お前はまだ弱い。6667回目も失敗する」
歩き出す。
「強くなってから来い」
去っていく。
リオンとミラが残された。
二人は立っている。
平原に。
朝日が昇り始めている。
リオンが言う。
「すまない……」
ミラが首を横に振る。
「いいのよ」
微笑む。
「一緒にいられるから」
リオンも微笑もうとする。
でも、できない。
悔しさが大きすぎる。
「俺は……弱い……」
ミラが肩を叩く。
「強くなればいいのよ」
リオンが頷く。
「ああ……」
拳を握る。
「次は……勝つ……」
ミラが頷く。
「うん」
二人は街に戻った。
宿に戻る。
リオンは窓を見た。
空が明るくなっている。
「カイン……」
小さく言う。
「次は……負けない……」
でも。
心の奥で。
不安がある。
本当に勝てるのか。
6666回負けた相手に。
リオンは拳を握りしめた。
「絶対に……」
誓う。
「次は……勝つ……」
ミラが隣に座る。
「一緒に強くなりましょう」
リオンが頷く。
「ああ」
二人は窓の外を見た。
新しい朝。
敗北の朝。
でも。
諦めない。
リオンは思った。
『6666回負けた』
『でも、6667回目は違う』
『今度こそ……』
決意を新たにする。
長い旅が続く。
勝利を掴むまで。




