第3章 詐欺師の口が勝手に動く
医者は何も異常を見つけられなかった。
「健康そのものです」
そう言って帰っていった。
リオンは部屋で一日中過ごした。母も父も、距離を置いている。
怖いのだろう。リオンにはわかる。
夕方、父が部屋のドアをノックした。
「リオン、入っていいか?」
リオンは答えた。「どうぞ」
父が入ってくる。椅子に座る。優しい目でリオンを見る。
「調子はどうだ?」
「大丈夫」
嘘だ。大丈夫なわけがない。
父が微笑む。「そうか。それならいい」
沈黙。
父が話題を変えようとする。「今日は何して遊んだ?」
リオンは答えようとした。「特に……」
だが、口が勝手に動いた。
「森で宝石を見つけたんだ」
リオンは驚いた。『言ってない! そんなこと言ってない!』
だが口は止まらない。
「すごく大きな宝石。売れば家が建つくらいの」
父が目を丸くする。「本当か?」
リオンの内側で、詐欺師グレイの人格が笑っている。
『いい反応だ。もっと盛ろう』
「ダメだ! やめろ!」
リオンは心の中で叫ぶ。だが体は従わない。
口が続ける。「それに、王様が褒美をくれるって言ってた」
父が首を傾げる。「王様? リオン、王様なんて会ったことないだろ?」
「会ったよ。森で。白い馬に乗ってた」
嘘が次々溢れる。
「魔法が使えるようになったんだ。火も出せる」
父の表情が曇る。「リオン……」
「村の人たちが、俺を英雄って呼んでた」
「リオン、嘘をつくな」
父の声が厳しくなる。
リオンの内側で、自我が必死に抵抗する。
『やめてくれ! 父さんとの信頼が壊れる!』
だが詐欺師グレイは止まらない。
「嘘じゃないよ。本当だって。明日見せてあげる」
父が立ち上がった。「リオン、お前……」
言葉が続かない。父は失望した顔をしている。
「嘘はいけない。わかるな?」
リオンはやっと自分の意思で口を動かせた。
「違う……俺じゃない……」
涙が溢れる。
「俺の中の誰かが……勝手に……」
父が困惑する。「何を言ってるんだ?」
「信じて……俺は嘘なんかつきたくない……」
父がため息をつく。「今日は疲れてるんだな。休め」
部屋を出て行く。
扉が閉まる。
リオンは一人残された。
「くそ……」
ベッドに顔を埋める。
詐欺師グレイの声が聞こえる。『悪かったな。でも、楽しかっただろ?』
「楽しくない! 父さんが……俺を嘘つきだと思ってる!」
『まあまあ。また機会があるさ』
「もう出てくるな!」
リオンは枕を殴った。
6666の声が囁く。「次は俺だ」「いや、俺だ」「早く出たい」
「黙れ! 全員黙れ!」
声は止まらない。
リオンは机に向かった。引き出しからノートを取り出す。
ペンを握る。
震える手で書く。
『制御法を見つける』
大きく、力強く。
「絶対に……見つける……」
リオンは決意した。
このままじゃ、家族を失う。村を失う。自分自身を失う。
6666人を制御する方法。
それを見つけなければ。
窓の外、月が昇っている。
静かな夜。
でも、リオンの心は嵐だった。
戦士アレクの声。『力になる』
商人グレイの声。『知恵を貸そう』
農民トムの声。『焦るな』
学者ルシアンの声。『研究が必要だ』
6666の声。
全員が、リオンに語りかける。
リオンはノートを見つめた。
白紙のページ。
ここから始める。
6666人全員の名前を書き出す。職業を書き出す。特徴を書き出す。
そして、制御する方法を見つける。
「やってやる」
リオンはペンを握りしめた。
長い夜が始まる。




