第21章 旅の開始
街道を歩く。
リオンは荷物を背負っていた。
重い。
でも、歩く。
一歩ずつ。
後ろを振り返らない。
村はもう見えない。
遠くに消えた。
リオンは前を向く。
道が続いている。
どこまでも。
「世界を救う……か」
つぶやく。
自嘲気味に笑う。
「大層なことだ」
空を見上げる。
果てしなく広がる蒼穹。白い雲がゆっくりと流れていく。
「俺一人で……できるのか……」
答えはない。
ただ、風が吹くだけ。
リオンは歩き続けた。
昼過ぎ。
街道沿いの木陰で休む。
荷物を下ろす。
水筒を取り出す。
水を飲む。
冷たい。
喉が潤う。
リオンは座り込んだ。
疲れた。
体がまだ完全じゃない。
昨夜の戦いの影響が残っている。
「休もう……」
目を閉じる。
でも、眠れない。
6666の声が聞こえる。
小さく。
ざわめいている。
リオンは目を開けた。
「静かにしてくれ……」
つぶやく。
声は止まらない。
仕方なく立ち上がる。
また歩き始める。
夕方。
太陽が沈み始めた。
リオンは街道を外れた。
森の中に入る。
野営の場所を探す。
小さな空き地を見つける。
「ここでいいか」
荷物を下ろす。
枯れ枝を集める。
石を並べる。
火打ち石を取り出す。
何度か打つ。
火花が散る。
枯れ葉に火がつく。
吹く。
炎が大きくなる。
焚き火の完成。
リオンは座った。
火を見つめる。
温かい。
でも、心は寒い。
一人だから。
「孤独だな」
声が聞こえた。
6666人格の一人。
農民トムの声。
リオンは答えなかった。
「当然だ」
別の声。
戦士アレク。
「仲間を探せ」
商人グレイの声。
「一人じゃ無理だ」
学者ルシアンの声。
次々と声が聞こえる。
リオンは叫んだ。
「うるさい!」
声が止まる。
静寂。
焚き火の音だけが聞こえる。
パチパチと。
リオンは膝を抱えた。
「でも……」
小さくつぶやく。
「誰かと……話したい……」
正直な気持ち。
一人は辛い。
村を出てまだ一日。
もう孤独が堪える。
リオンは空を見上げた。
星が見え始めている。
無数の星。
「母さん……父さん……」
つぶやく。
「元気かな……」
涙が出そうになる。
でも、堪える。
「泣いてる場合じゃない」
自分に言い聞かせる。
「俺には使命がある」
立ち上がる。
火に薪を足す。
炎が大きくなる。
リオンは座り直した。
「一人で……やるしかない」
決意を固める。
でも、心の奥で。
『誰か……一緒にいてくれないか……』
そう願っていた。
夜が深まる。
リオンは目を閉じた。
眠ろう。
明日、また歩く。
その繰り返し。
でも、その時。
「リオン」
声が聞こえた。
内側から。
精神世界に引き込まれる。
気づくと、円形劇場にいた。
6666人が座っている。
全員がリオンを見ている。
リオンは中央に立った。
「何だ……」
最古の原始人ゴルが立ち上がる。
「話がある」
リオンは頷いた。
「聞く」
ゴルが言う。
「お前、孤独を感じているな」
リオンは答えなかった。
でも、顔に出ている。
ゴルが続ける。
「当然だ。一人だからな」
リオンが反論する。
「お前たちがいるだろ」
ゴルが首を横に振る。
「俺たちは声だけだ。肉体はお前一つ」
リオンは拳を握った。
「それで……何が言いたい……」
ゴルが答える前に、リオンが叫んだ。
「お前ら全員に聞く!」
6666人が注目する。
「何がしたい? 本当は何を望んでる?」
沈黙。
そして、一人が立ち上がった。
戦士アレク。
「戦いたい」
力強い声。
次に、商人グレイ。
「金が欲しい」
冷静な声。
学者ルシアン。
「知りたい。全てを」
農民トム。
「平和に暮らしたい」
忍者カゲロウ。
「自由が欲しい」
魔法使いリズ。
「力が欲しい」
次々と立ち上がる。
6666人全員が。
それぞれの願いを言う。
「復讐したい」
「愛されたい」
「認められたい」
「守りたい」
「創りたい」
様々な願い。
全員が違う。
リオンは圧倒された。
「みんな……バラバラだ……」
でも、その時。
戦士アレクが続けた。
「だが……最後には……」
言葉を切る。
そして、叫ぶ。
「世界を救いたい!」
リオンは目を見開いた。
次に、商人グレイ。
「俺も……世界を救いたい」
学者ルシアン。
「知識のために……世界を救いたい」
農民トム。
「平和のために……世界を救いたい」
次々と声が上がる。
「世界を救いたい」
「世界を救いたい」
「世界を救いたい」
6666人全員が。
同じ言葉を叫ぶ。
リオンは驚いた。
「全員……同じ願い……?」
最古のゴルが頷く。
「そうだ」
リオンに近づく。
「俺たちは6666回、転生した」
「それぞれの人生で、それぞれの願いがあった」
「だが……最後には全員、同じ結論に至った」
リオンが問う。
「何を……」
ゴルが答える。
「世界を救わなければ、何も残らない」
リオンは息を呑んだ。
ゴルが続ける。
「戦士は戦った。だが、世界が滅べば戦う意味がない」
「商人は金を稼いだ。だが、世界が滅べば金は無価値」
「学者は知識を得た。だが、世界が滅べば知識も消える」
リオンは理解した。
「全員……失敗したのか……」
ゴルが頷く。
「6666回、全員が」
リオンは膝をつきそうになった。
「そんな……」
ゴルが肩を掴む。
「だが、お前がいる」
リオンを見る。
「お前が最後のチャンスだ」
リオンは震えた。
「俺が……失敗したら……」
ゴルが首を横に振る。
「考えるな。成功させるんだ」
リオンは顔を上げた。
6666人全員が立っている。
全員がリオンを見ている。
期待の目。
希望の目。
リオンは立ち上がった。
「わかった」
ゴルが微笑む。
「本気か?」
リオンは頷いた。
「今度こそ……成功させる」
声が大きくなる。
「6666回の失敗を……俺が終わらせる!」
叫ぶ。
6666人が歓声を上げる。
「いいぞ!」
「やってやれ!」
「俺たちの力を使え!」
リオンは拳を握った。
「ありがとう……みんな」
ゴルが言う。
「行け。そして、仲間を見つけろ」
リオンが首を傾げる。
「仲間……?」
ゴルが頷く。
「一人じゃ無理だ。6666回が証明している」
リオンは決意した。
「わかった。探す」
精神世界が消える。
気づくと、焚き火の前に戻っていた。
夜の森。
星空。
リオンは立ち上がった。
「仲間……か」
つぶやく。
「どこにいるんだろう……」
でも、今は不安じゃない。
6666人が味方だ。
全員が同じ願いを持っている。
リオンは微笑んだ。
「一人じゃない」
火を見つめる。
「俺には……6666人の仲間がいる」
炎が揺れる。
温かい。
リオンは座った。
「明日から……仲間を探そう」
決意を新たにする。
「そして……世界を救う」
空を見上げる。
星が輝いている。
無数の星。
6666の星。
リオンはそう思った。
「みんな……見守っててくれ」
つぶやく。
火に薪を足す。
炎が大きくなる。
リオンは目を閉じた。
今度は眠れそうだ。
心が軽くなった。
6666人の願いを知ったから。
自分だけじゃないと知ったから。
リオンは眠りに落ちた。
穏やかな顔で。
焚き火が燃え続ける。
森の中。
一人の少年。
でも、心には6666人。
リオンの旅が続く。
世界を救うための。
長い、長い旅が。
夜が深まる。
星が輝く。
リオンは夢を見ている。
6666人と共に歩く夢を。
明日、新しい一日が始まる。
仲間を探す旅が。
そして、運命に向かう旅が。




