第2章 初暴走・古代戦士降臨
食卓に家族が揃った。父、母、そしてリオン。
朝食の匂いが部屋に満ちている。焼いたパン。スープ。卵。
リオンは椅子に座り、箸を手に取った。
だが、持ち方がわからない。
いや、わかる。わかりすぎる。
6666通りの持ち方が頭に浮かぶ。戦士の持ち方。商人の持ち方。学者の持ち方。農民の持ち方。
手が震える。
「リオン、どうしたの?」
母が心配そうに見る。
「大丈夫……」
リオンは適当に箸を握った。スープを口に運ぶ。何とか飲み込む。
父が話しかける。「今日は天気がいいな。庭で遊ぶか?」
リオンは頷こうとした。
その時、母が立ち上がり、リオンに近づいた。
「やっぱり顔色が悪いわ。熱を測りましょう」
母がリオンを抱き上げる。
その瞬間、リオンの脳内で何かが爆発した。
古代戦士アレクの記憶が、制御不能に暴走した。
リオンの目が変わる。鋭く、冷たく、殺気に満ちた目。
戦士の目だ。
呼吸が荒くなる。心臓が激しく打つ。
リオンの意識が後ろに押しやられる。
『やめろ! これは母さんだ!』
だが体は従わない。
戦士アレクが支配している。
リオンの手が母の首に伸びる。小さな手。だが、動きは訓練された戦士のもの。
「敵……殺す……」
低い声が漏れる。3歳児の口から、戦士の声が出る。
母の目が見開かれる。「リオン?」
リオンの指が母の首に触れる。
父が叫ぶ。「エレナ!」
母の顔が青ざめる。息が詰まる。
リオンの内側で、自我が絶叫する。
『やめろ! やめてくれ! 母さんを殺すな!』
戦士アレクと自我の綱引き。
リオンの体が震える。指に力が入る。母が苦しそうに息を吸う。
『戻れ! 今すぐ戻れ!』
リオンは全力で叫んだ。内側から、外側へ。
「戻れえええ!」
声が部屋に響く。
リオンの目が元に戻る。茶色の、子供の目。
指から力が抜ける。
母が咳き込みながら、リオンを床に下ろす。
リオンは床に倒れ込んだ。
「はあ……はあ……」
激しい疲労。全身の力が抜ける。
母が膝をついて、リオンを見つめる。涙が頬を伝っている。
「リオン……今の……」
リオンは震える声で答えた。「ごめん……俺、おかしいんだ……」
父が駆け寄る。リオンを抱き上げようとする。
リオンは首を横に振った。「触らないで……また……」
父が手を止める。困惑した顔。
母が泣きながら言う。「何があったの? 教えて」
リオンは答えられない。どう説明すればいい? 俺の中に6666人いるなんて。
「わからない……でも、俺じゃない……俺の中の誰かが……」
母と父が顔を見合わせる。
沈黙が部屋を満たす。
リオンは床に座ったまま、両手を見つめた。
この手が、母を傷つけようとした。
『すまない……』
心の中で謝る。
戦士アレクの声が聞こえる。『すまなかった。制御できなかった』
リオンは答えない。
父が言う。「リオン、部屋で休め。医者を呼ぶ」
リオンは立ち上がり、部屋に戻った。
扉を閉める。
ベッドに倒れ込む。
天井を見つめる。
「俺は……どうなるんだ……」
6666の声は静かだ。だが、消えたわけじゃない。
いつでも、また誰かが暴走する可能性がある。
母を殺しかけた。
次は誰を傷つける? 父か? 村の人たちか?
リオンは拳を握りしめた。
「制御しないと……このままじゃ……」
だが、どうやって?
答えは見つからない。
窓の外、鳥が鳴いている。
平和な朝。
でも、リオンの心は平和じゃない。
恐怖と混乱が渦巻いている。
リオンは目を閉じた。
眠れるわけがない。
でも、目を閉じていないと、また誰かが出てきそうで怖い。
静かな部屋。
遠くで母と父の話し声が聞こえる。
「あの子、本当に大丈夫なのかしら……」
「わからない……でも、俺たちが守る」
リオンは涙が出そうになった。
守ってもらうのは俺じゃない。
俺から、お前たちを守らないといけないんだ。
リオンは毛布を被った。
暗闇の中で、ただ震えていた。




