第19章 出生の記憶・神官
翌朝。
リオンは早く目を覚ました。
母の告白が頭から離れない。
救世の器。
祭壇。
その言葉が繰り返し響く。
リオンは起き上がった。
窓の外を見る。
まだ朝早い。
空が白み始めている。
リオンは決めた。
「行こう」
つぶやく。
祭壇に。
母が言っていた場所に。
答えがあるかもしれない。
リオンは服を着た。
静かに部屋を出る。
階段を下りる。
音を立てないように。
玄関を開ける。
冷たい空気が流れ込む。
リオンは外に出た。
扉を静かに閉める。
村はまだ眠っている。
煙突から煙も上がっていない。
リオンは森に向かった。
歩く。
速く。
村の外れを抜ける。
森に入る。
木々が茂っている。
鳥の鳴き声。
リオンは奥へ進んだ。
母が言っていた場所。
どこだろう。
リオンは足を止めた。
「わからない……」
母に場所を聞いておけばよかった。
その時、頭の中で声がした。
『まっすぐ行け』
農民トムの声。
『森を感じろ。導かれる』
リオンは頷いた。
「ありがとう」
まっすぐ歩く。
獣道を進む。
木の根を越える。
小川を渡る。
30分ほど歩いた。
突然、開けた場所に出た。
そこに、祭壇があった。
石で作られた、古い祭壇。
苔が生えている。
風化している。
でも、確かに祭壇だ。
リオンは息を呑んだ。
「これ……」
近づく。
ゆっくりと。
祭壇の表面に文字が刻まれている。
古代文字。
読めない。
でも、何かを感じる。
リオンは祭壇の前に立った。
「ここで……俺は拾われたのか……」
つぶやく。
手を伸ばす。
祭壇に触れようとする。
躊躇する。
でも、決意した。
「答えが欲しい」
手を置く。
冷たい石。
その瞬間、世界が変わった。
視界が光に包まれる。
「うわっ!」
リオンの体が硬直する。
頭の中で何かが爆発した。
神官ゼノンの記憶。
それが一気に溢れ出す。
「祈れ!」
声が響く。
リオンの口が勝手に動く。
「祈れ! 祈れ! 祈れ!」
体が震える。
視界が白く染まる。
そして、映像が流れ込んだ。
古代神殿。
巨大な石柱。
天井から光が差し込む。
祭壇の前に、神官が立っている。
白い衣。
金色の杖。
神官が祈っている。
リオンは気づいた。
その神官は……自分だ。
いや、違う。
神官ゼノンだ。
でも、見えている。
感じている。
神官の記憶を、リオンが見ている。
神官が叫ぶ。
「神よ! 世界を救う力を!」
天井から光が降り注ぐ。
神殿が揺れる。
声が響く。
低く、重く、圧倒的な声。
「世界を救う器を創造せよ」
神の声だ。
神官が頭を下げる。
「いかにして……」
神の声が答える。
「6666回の魂を一つに」
「6666回……」
神官が驚く。
「転生を6666回?」
「そうだ。経験を積ませよ。戦士、学者、商人、農民……全ての人生を」
神官が頷く。
「わかりました」
光が強まる。
神官の体が光に包まれる。
「最後の器に、全てを注げ」
「はい!」
神官が祈る。
激しく。
必死に。
光が渦巻く。
神殿全体が光に満たされる。
そして、暗転。
リオンの意識が戻る。
「はあ……はあ……」
荒い呼吸。
祭壇から手を離す。
膝をつく。
汗が額を伝う。
「今の……は……」
神官ゼノンの記憶。
古代の儀式。
神の命令。
6666回の転生。
リオンは理解した。
「俺は……世界を救うために……作られた……」
つぶやく。
震える声。
全てが繋がる。
6666人の記憶。
それは偶然じゃない。
計画だった。
最初から。
リオンを作るための。
「6666回……転生して……経験を積ませて……」
リオンは拳を握る。
「最後の器……それが俺……」
立ち上がる。
足が震える。
でも、立つ。
「俺の人生は……最初から決められてた……」
空を見上げる。
木々の隙間から、空が見える。
青い空。
「自由なんて……なかった……」
涙が出そうになる。
でも、堪える。
リオンは祭壇を見た。
「でも……何から救うんだ?」
問いかける。
答えを求めて。
その瞬間、また映像が流れ込んだ。
神官の記憶。
神殿で、神官が古文書を読んでいる。
『魔王の復活』
その文字が見える。
神官が震える。
「魔王……」
ページをめくる。
『1000年ごとに復活する』
『世界を滅ぼす存在』
『止める者がいなければ、全てが終わる』
神官が立ち上がる。
「止めなければ……」
走る。
神殿の奥へ。
祭壇の前に跪く。
「神よ! 魔王を止める力を!」
神の声が響く。
「6666回の転生で経験を積ませよ」
「はい!」
「戦い方を学ばせよ。知識を得させよ。全てを経験させよ」
神官が頷く。
「そして……最後の戦いに備えさせる……」
「そうだ」
映像が消える。
リオンは膝をついた。
「魔王……」
つぶやく。
「俺は……魔王を倒すために……作られた……」
全身の力が抜ける。
「6666回……全部……そのために……」
リオンは祭壇に手をつく。
「俺の人生は……ただの準備だった……」
悔しさが込み上げる。
「自分で選んだことなんて……何もない……」
涙が落ちる。
石に染み込む。
「俺は……ただの道具か……」
6666の声が聞こえる。
「そうだ」
「いや、違う」
「道具でもいい」
「お前は特別だ」
「選ばれた存在だ」
様々な声。
リオンは叫んだ。
「黙れ!」
声が止まる。
静寂。
風が吹く。
木の葉が揺れる。
リオンは深呼吸した。
「落ち着け……」
自分に言い聞かせる。
「考えろ……」
リオンは立ち上がった。
空を見上げる。
青い空。
雲が流れている。
「俺は……作られた……」
つぶやく。
「でも……」
リオンは拳を握る。
「それでも、俺は生きる」
強く言う。
「道具でも、器でも、なんでもいい」
空を睨む。
「俺は俺だ」
決意が湧く。
「6666人の記憶がある。それは事実」
「魔王を倒す。それが運命。それも事実」
リオンは歩き出す。
祭壇から離れる。
「でも、俺のやり方でやる」
振り返る。
祭壇を見る。
「誰かに作られた俺でも、今を生きてるのは俺だ」
祭壇に向かって言う。
「ありがとう。答えをくれて」
踵を返す。
森を抜ける。
太陽が昇っている。
温かい光。
リオンは歩く。
村に向かって。
足取りは確かだ。
「俺は世界を救う」
つぶやく。
「でも、それだけじゃない」
村が見えてくる。
「俺は生きる。俺として」
家に着く。
扉を開ける。
母が驚いた顔をしている。
「リオン! どこに行ってたの!」
リオンは微笑んだ。
「祭壇に」
母が目を見開く。
「一人で……?」
リオンは頷く。
「答えが見つかった」
母が近づく。
「何が……」
リオンが答える。
「俺が生まれた理由」
母が息を呑む。
「リオン……」
リオンは母を抱きしめた。
「大丈夫。怖くない」
母が背中を撫でる。
「本当に……?」
リオンは頷く。
「うん。俺は……魔王を倒すために生まれた」
母が震える。
「魔王……」
リオンが続ける。
「でも、それだけじゃない。俺は母さんの息子でもある」
母が涙を流す。
「リオン……」
二人は抱き合ったまま、しばらく動かなかった。
朝日が部屋に差し込む。
温かい光。
リオンは思った。
俺の人生は作られた。
でも、今は俺のものだ。
魔王を倒す。
それが運命なら、受け入れる。
でも、俺のやり方で。
誰にも支配されない。
俺は俺として生きる。
母が顔を上げた。
「朝ごはん、食べましょう」
リオンは微笑む。
「うん」
二人は食卓に向かった。
父も起きてきた。
「おはよう」
「おはよう」
三人で朝食。
普通の朝。
でも、リオンにとっては特別な朝。
答えを見つけた朝。
運命を知った朝。
そして、決意した朝。
リオンはパンを食べながら思った。
明日から、どう生きるか。
魔王を倒すために、何をするか。
でも、今は考えない。
今は、この朝を楽しむ。
家族と一緒に。
窓の外、鳥が鳴いている。
平和な朝。
リオンは微笑んだ。
この平和を守る。
それが俺の使命。
でも、それ以上に。
この家族を守る。
それが俺の願い。
朝食が終わる。
リオンは部屋に戻った。
ノートを開く。
ペンを取る。
書く。
『俺は魔王を倒すために作られた』
『でも、俺は俺として生きる』
『運命に従う。でも、支配はされない』
大きく、力強く。
リオンはノートを閉じた。
窓の外を見る。
村が見える。
いつもの村。
でも、今日から見え方が変わった。
守るべき場所。
リオンは立ち上がった。
「さあ、始めよう」
つぶやく。
「俺の、本当の人生を」
窓を開ける。
風が入ってくる。
心地いい風。
リオンは深呼吸した。
新しい一日が始まる。
運命を知った、リオンの一日が。




