第16章 村の子アニーの救出
数日後。
リオンの体は回復していた。
森での3日間の傷も癒えた。
母の手当てのおかげだ。
今日、リオンは家の外に出た。
村を歩く。
村人が挨拶する。
「リオン、元気になったか?」
「ああ。ありがとう」
村の井戸の前を通りかかる。
そこで、村の子アニーと出会った。
リオンより2歳年上で、よく面倒を見てくれる。
金色の髪。
青い目。
「リオン! よかった、元気になって」
アニーが駆け寄る。
リオンは微笑んだ。
「心配かけた」
アニーが笑う。
「また一緒に遊べるね」
二人で少し話す。
アニーは明るい子だ。
いつも笑っている。
リオンと一緒に遊ぶのが好きだ。
「じゃあ、また後でね」
アニーが手を振って去っていく。
リオンも手を振る。
「また」
平和な一日。
リオンは家に戻ろうとした。
その時、村人が慌てて走ってくる。
「大変だ!」
村人が叫ぶ。
「アニーが盗賊に連れ去られた!」
リオンは凍りついた。
「何……?」
村人が説明する。
「村の外れで、盗賊に襲われた。アニーが連れて行かれた」
村長が駆けつける。
「すぐに追え!」
村人が武器を持って集まる。
だが、顔は不安そうだ。
盗賊と戦える者は少ない。
リオンは前に出た。
「俺が行く」
村長が見る。
「リオン……」
「俺が探す。必ず連れ戻す」
村長が頷く。
「頼む」
リオンは森に向かった。
母が後ろから声をかける。
「リオン! 気をつけて!」
「大丈夫」
リオンは走る。
森の入口。
地面に足跡がある。
複数の人間。
リオンは深呼吸した。
「追え」
狩人の人格を呼ぶ。
「追え!」
視界が変わる。
狩人リードが降臨。
リオンの目が鋭くなる。
足跡を見る。
6人。
1人は小さい。
アニーだ。
リードが足跡を追い始める。
速い。
正確。
枝を避け、岩を跳び越える。
30分ほど追うと、声が聞こえた。
男たちの笑い声。
リードが音を立てないように近づく。
木の陰から覗く。
小さな空き地。
盗賊が5人。
剣を持っている。
中央に、アニーが座らされている。
縄で縛られている。
泣いている。
リオンの内側で、自我が怒りで震える。
『アニー……』
リードを封印する。
「我が名においてリオンに戻れ」
視界が戻る。
リオンの体が元に戻る。
だが、すぐに次を呼ぶ。
「戦え!」
戦士アレクが降臨。
リオンの目が戦士の目になる。
地面から木の枝を拾う。
剣の代わり。
構える。
盗賊の一人が気づく。
「誰だ!」
アレクが飛び出す。
「お前たちを倒す」
盗賊が笑う。
「子供か? 生意気な」
5人が剣を抜く。
アレクが構える。
「来い」
盗賊が襲いかかる。
1人目。
アレクが枝を振るう。
剣を弾く。
反転。
盗賊の脇腹を打つ。
盗賊が倒れる。
2人目と3人目が同時に襲う。
アレクが跳ぶ。
空中で回転。
着地と同時に枝を薙ぐ。
2人とも倒れる。
4人目が槍を突く。
アレクが回避。
枝で槍を叩き落とす。
膝を蹴る。
盗賊が倒れる。
5人目が逃げようとする。
アレクが追う。
背中を枝で打つ。
盗賊が倒れる。
全員無力化。
アレクが枝を落とす。
「終わりだ」
アニーに近づく。
縄を解こうとする。
だが、その瞬間。
アレクの目がアニーを見る。
戦士の目。
冷たい目。
敵か味方かを判断する目。
アニーが怯える。
「リオン……?」
アレクが答える。
「敵ではない」
低い声。
リオンの声じゃない。
アニーが後退する。
「怖い……」
リオンの内側で、自我が叫ぶ。
『やばい! アレク、戻れ!』
封印を試みる。
「我が名においてリオンに戻れ!」
アレクが驚く。
「もう?」
引いていく。
「まだ戦えるのに……」
完全に引く。
視界が元に戻る。
リオンの体が元に戻る。
疲労が襲う。
膝をつく。
「はあ……はあ……」
アニーがリオンを見る。
「リオン……?」
リオンは頷いた。
「俺だよ……アニー……」
優しい声。
リオンの声。
アニーが少し安心する。
「本当に……?」
リオンが縄を解く。
「大丈夫。もう安全だ」
縄が解ける。
アニーが立ち上がる。
だが、リオンから距離を置く。
「ありがとう……」
小さな声。
リオンは気づいた。
アニーが怯えている。
俺を見る目が、恐怖に染まっている。
「アニー……」
アニーが一歩後退する。
「リオン……さっきの……」
「戦士の人格だ。もう戻った」
「でも……目が……怖かった……」
リオンは何も言えなかった。
そうだ。
アレクの目は冷たい。
戦士の目だ。
子供が見れば、怖い。
「ごめん……」
アニーが首を横に振る。
「ううん……助けてくれて……ありがとう……」
でも、その声は震えている。
二人で村に戻る。
歩きながら、アニーは常にリオンから2メートルほど離れている。
近づかない。
リオンは胸が痛んだ。
『俺が……怖がられてる……』
村に着く。
村人が駆け寄る。
「アニー!」
アニーの母親が抱きしめる。
「よかった! 無事で!」
村長がリオンの肩を叩く。
「ありがとう、リオン。よくやった」
村人が口々に言う。
「助かった」
「さすがリオン」
でも、アニーはリオンを見ない。
母親の後ろに隠れる。
リオンを避けるように。
村人が気づく。
「アニー……?」
アニーの母親が娘を見る。
「どうしたの?」
アニーが小さな声で言う。
「リオン……怖い……」
その言葉が、村人に広がる。
「怖い……?」
「助けてくれたのに……?」
村人が囁き始める。
「やっぱり……」
「あの子……普通じゃない……」
「目が……化け物みたいだったって……」
リオンは拳を握った。
村長が言う。
「みんな、落ち着け。リオンは村を何度も救ってくれた」
でも、村人の目は変わらない。
恐怖。
警戒。
不安。
リオンは家に戻った。
部屋に入る。
ベッドに倒れ込む。
「また……か……」
助けたのに。
救ったのに。
怖がられる。
避けられる。
リオンは天井を見つめた。
「俺は……化け物なのか……」
6666の声が聞こえる。
「そうかもしれない」
「違う」
「お前は特別だ」
「特別は、異常だ」
様々な声。
リオンは目を閉じた。
「でも……諦めない……」
助けることをやめない。
たとえ怖がられても。
避けられても。
これが、俺の道だ。
リオンは深呼吸した。
窓から外を見る。
アニーが母親と歩いている。
リオンの家の前を通る。
アニーがちらりとこちらを見る。
目が合う。
アニーが顔を背ける。
急いで去っていく。
リオンは胸が締め付けられた。
「すまない……アニー……」
窓を閉める。
カーテンを引く。
部屋が暗くなる。
リオンは一人、暗闇の中に座った。
孤独。
それが、俺の運命なのか。
リオンは膝を抱えた。
「それでも……生きる……」
6666人と共に。
窓の外、夕日が沈んでいく。
長い影が部屋に伸びる。
リオンは動かなかった。
ただ、座っているだけ。
暗闇の中で。




