第13章 人格の自我主張
翌朝。
リオンは目を覚ました。
体が重い。
いつもより重い。
「おかしい……」
起き上がろうとする。
体が動かない。
いや、動くが、自分の意志では動かない。
「何だ……?」
視界が変わる。
商人グレイの目つき。
『まずい!』
リオンは内心で叫ぶ。
グレイが体を支配している。
リオンの意識は後ろに押しやられている。
グレイが起き上がる。
「さて、今日も稼ぐか」
リオンの口から、グレイの声。
『やめろ! 出て行け!』
だがグレイは聞かない。
服を着る。
部屋を出る。
母が驚く。
「リオン、早いわね」
グレイが微笑む。
「おはよう、母さん。今日は仕事があるんだ」
母が首を傾げる。
「仕事?」
「ああ。また市場に行く」
母が心配そうに見る。
「でも、昨日疲れてたでしょ?」
グレイが手を振る。
「大丈夫。元気だよ」
朝食を済ませる。
グレイが家を出る。
リオンの内側で、自我が必死で抵抗する。
『戻れ! 俺の体だ!』
だがグレイは無視する。
「うるさいな。少し黙ってろ」
村の広場に向かう。
村人が作業をしている。
グレイが声をかける。
「おはよう! 昨日の取引、好評だったよ。また売りたいものはないか?」
村人が顔を見合わせる。
「リオン……また行くのか?」
グレイが頷く。
「ああ。もっと稼げる。もっといい取引ができる」
村人が不安そうだ。
「でも……昨日の話、少し誇張しすぎじゃないか?」
グレイが笑う。
「商売だよ。誇張は当たり前だ。気にするな」
村人が黙る。
リオンの内側で、自我が叫ぶ。
『やめろ! 村人が困惑してる!』
グレイが答える。
『結果が全てだ。黙ってろ』
リオンは封印を試みる。
「我が名においてリオンに戻れ!」
心の中で唱える。
だがグレイは動じない。
「その程度じゃ無理だ。この体、俺が使う」
リオンは驚愕する。
『封印が効かない……?』
グレイが村人と商談を始める。
「新しい織物を作ってくれ。こういうデザインで」
図を描く。
村人が困惑する。
「こんな複雑な模様……時間がかかるぞ」
グレイが冷たく言う。
「3日でやってくれ。報酬は弾む」
村人が渋々頷く。
リオンの自我が怒りで震える。
『やめろ! 村人に無理を強いるな!』
グレイが笑う。
『ビジネスだ。需要と供給。お前は甘すぎる』
一日中、グレイは村を歩き回った。
商談をまとめ、契約を結び、金の計算をする。
リオンの体を使って。
リオンの意識は、ただ見ているだけ。
何もできない。
夕方。
グレイは家に戻った。
部屋に入る。
机に座る。
金貨を数える。
「今日も儲けた」
満足そうに笑う。
リオンの内側で、自我が叫ぶ。
『いい加減にしろ! 出て行け!』
全力で押し返す。
だがグレイは動じない。
「無駄だ。俺はもう出ない」
リオンは愕然とする。
『なんで……』
グレイが答える。
「お前こそ邪魔だ。俺にも生きる権利がある」
リオンは言葉を失った。
『生きる権利……?』
グレイが頷く。
「そうだ。俺は6666回の人生を生きた。でも、いつもお前に押し込められてる。俺だって自由に生きたい」
リオンは反論しようとする。
『でも、これは俺の体だ!』
グレイが冷たく笑う。
「お前の体? お前は6666人の器だ。俺たちのものでもある」
リオンは何も言えなくなった。
そうなのか。
この体は、俺だけのものじゃないのか。
グレイが立ち上がる。
「さて、明日も稼ぐ。お前は黙って見てろ」
ベッドに入る。
目を閉じる。
リオンの意識は、暗闇の中に沈んでいった。
2日目の朝。
グレイが目を覚ます。
リオンの意識は、まだ後ろに押しやられている。
『出せ……出してくれ……』
弱々しく懇願する。
グレイは無視する。
「今日も忙しい」
村に出る。
また商談。
また取引。
グレイは村中を回る。
村人から資産を集め、市場で売る。
稼ぐ。
手数料を取る。
金が増える。
リオンの意識は、ただ見ているだけ。
無力だ。
何もできない。
『これは……俺の体なのに……』
悔しさが込み上げる。
でも、どうしようもない。
グレイの意志が強すぎる。
夜。
グレイが部屋で金貨を数えている。
リオンの意識が、精神世界に入る。
円形劇場。
商人グレイが立っている。
リオンが現れる。
「グレイ……」
グレイが振り返る。
「お、来たか」
リオンが前に出る。
「頼む……体を返してくれ……」
グレイが首を横に振る。
「嫌だ。俺はまだ稼ぎたい」
リオンが叫ぶ。
「お前は俺の一部だ! 従え!」
グレイが笑う。
「一部? 違う。お前は6666人の器だ。俺たちにも人生がある」
リオンが反論する。
「でも、これは俺の体だ!」
グレイが冷たく言う。
「お前の体は、俺たちがいなければただの肉だ。俺たちがいるから、お前は強い」
リオンは言葉を失う。
確かに。
6666人がいなければ、リオンはただの3歳児だ。
グレイが続ける。
「お前は俺たちを利用してる。なら、俺たちもお前を利用する権利がある」
リオンは何も言えない。
激しい意志のぶつかり合い。
リオンとグレイ。
どちらも譲らない。
沈黙が流れる。
やがて、グレイが言う。
「疲れたろ。休め。俺が全部やる」
精神世界から離れる。
リオンの意識が現実に戻る。
でも、体は動かせない。
グレイが支配している。
リオンは、ただ暗闇の中で漂うだけだった。
3日目の朝。
グレイが目を覚ます。
「さて……」
だがその瞬間、異変が起きた。
リオンの意識が爆発的に押し返す。
『もう我慢できない! 出て行け!』
グレイが驚く。
「なんだ……?」
リオンの怒りが、グレイを圧倒する。
『これは俺の体だ! 俺の人生だ! お前に渡さない!』
全力で押し返す。
グレイが抵抗する。
「やめろ……まだ……」
だがリオンの意志が勝る。
グレイが少しずつ引いていく。
「くそ……お前……」
完全に引く。
「また会おう……お前にはまだ俺が必要だ……」
視界が元に戻る。
リオンの体が元に戻る。
その場で倒れる。
ベッドから落ちる。
床に倒れ込む。
「はあ……はあ……」
激しく息をする。
疲労が襲う。
全身が痛い。
「2日間……2日間も……」
奪われていた。
自分の体を。
母が駆け込んでくる。
「リオン! 今の音……」
リオンを見て、駆け寄る。
「大丈夫?」
リオンは頷けなかった。
「母さん……グレイが……2日間……」
母が抱き起こす。
「わかったわ。休みなさい」
ベッドに運ぶ。
リオンは横になる。
天井を見つめる。
「2日間……支配された……」
母が手を握る。
「大丈夫。あなたは取り戻したわ」
リオンは目を閉じた。
「でも……グレイの言葉が……頭に残ってる……」
『俺たちにも人生がある』
その言葉が、リオンの心に刺さっていた。
グレイは去った。
でも、問題は解決していない。
6666人全員に、意志がある。
人生がある。
それをどうすればいい。
リオンは答えを見つけられなかった。
疲れた体を休めるため、目を閉じる。
深い眠りに落ちた。
夢の中で、グレイの声が聞こえた。
「また会おう……」
リオンは震えた。




