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全員が俺だ ~6666回転生した記憶過積載者~  作者: 雨音トキ


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第12章 商人人格の取引

1週間が経った。

リオンの体は少しずつ回復していた。

記憶の混乱も収まってきた。

文字が読めるようになった。

父を隊長と呼ぶこともなくなった。

でも、完全ではない。

時々、頭痛が襲う。

それでも、動けるようにはなった。

ある日、村長がリオンの家を訪ねてきた。

父と母、リオンが応対する。

村長が深刻な顔で言う。

「実は……村の復興資金が足りない」

帝国軍の襲撃で、村は半壊していた。

家が壊れ、畑が荒らされ、家畜が逃げた。

復興には金がかかる。

「村の貯蓄だけでは足りないんだ」

村長が頭を下げる。

「リオン、何か力を貸せないか?」

リオンは驚いた。

「俺に……?」

村長が頷く。

「お前は特別な力を持っている。村には売れるものがある。備蓄の穀物、森の木材、職人の手工芸品。だが、買い手を見つけるのが難しい。商人とのつながりもない」

リオンは考えた。

商人グレイ。

あの人格なら、取引ができるかもしれない。

「わかった。やってみる」

村長が安堵した。

「ありがとう。倉庫に案内する」

リオンは村長と共に倉庫に向かった。

母が心配そうに見送る。

倉庫には、村の資産が積まれていた。

穀物の袋。毛皮。陶器。織物。

村長が言う。

「これらを売れば、復興資金になる。だが、どこで誰に売ればいいのか……」

リオンは深呼吸した。

「任せて」

商人グレイを召喚する。

「商え!」

視界が変わる。

世界が数字に見える。

全てが商品に見える。

商人グレイが降臨した。

リオンの目が鋭く光る。

計算高い目つき。

グレイが倉庫の中を見渡す。

「なるほど……」

一つ一つを手に取る。

穀物の袋を開ける。

「質は悪くない。だが、量が少ない」

毛皮を広げる。

「これは使える。北の貴族が欲しがる」

陶器を見る。

「素朴だが、それが逆に価値になる」

グレイが村長に言う。

「全て買い取ってもらえます。ただし、私の方法で」

村長が頷く。

「頼む」

グレイが村人を集めた。

「皆さん、聞いてください!」

声が大きい。

村人が集まってくる。

「これから隣町の市場に行きます。村の資産を売ります。高く売るために、いくつか条件があります」

村人が聞く。

「条件?」

グレイが説明する。

「まず、毛皮は全て私が管理します。バラ売りせず、まとめて貴族に売る。次に、陶器は『古代の技法で作られた希少品』として売ります」

村人が困惑する。

「でも、普通の陶器だぞ」

グレイが冷たく笑う。

「商売は演出です。真実より、物語が売れるんです」

リオンの内側で、自我が反応する。

『嘘をつくのか?』

グレイが答える。

『嘘じゃない。誇張だ。ビジネスだ』

村人が不安そうに顔を見合わせる。

村長が言う。

「リオン……それで大丈夫なのか?」

グレイが即答する。

「大丈夫です。私を信じてください。ただし、売り上げの2割は手数料としていただきます」

村人がざわめく。

「2割!」

グレイが冷静に言う。

「私がいなければ、1割も稼げません。2割払っても、8割は手に入ります。計算してください」

村人が黙る。

確かに、理屈は通っている。

でも、何かが引っかかる。

村長が決断する。

「わかった。やってくれ」

グレイが頷く。

「賢明な判断です」

翌日。

グレイは村人を引き連れて、隣町の市場に向かった。

リオンの体を使って。

市場に着くと、グレイは商人たちに声をかける。

「北の村から来た! 希少な品がある!」

商人が集まってくる。

グレイが毛皮を広げる。

「これは雪狼の毛皮。北の山でしか取れない」

嘘だ。

普通の狼だ。

だが商人は信じる。

「本物か?」

グレイが自信たっぷりに言う。

「間違いない。触ってみてください」

商人が触る。

「確かに……質がいい……」

グレイが畳みかける。

「貴族に売れば、倍の値で売れますよ」

商人が食いつく。

「いくらだ?」

グレイが法外な値段を言う。

商人が値切る。

グレイが渋々下げる。

だが、元の値段の3倍で売れた。

次は陶器。

「これは古代の技法で作られた逸品です」

嘘だ。

村の職人が普通に作ったものだ。

だが、グレイの口調が説得力を持つ。

「限定5個しかありません」

商人が争って買う。

元の値段の5倍で売れた。

織物も、穀物も、全て高値で売れた。

グレイの交渉術は完璧だった。

夕方。

市場から村に戻る。

グレイが村人に金貨の袋を渡す。

「売上です」

村人が驚く。

「こんなに!」

グレイが微笑む。

「私の手数料2割を引いて、これです」

村長が金貨を数える。

「すごい……これで復興できる……」

村人が歓声を上げる。

だがリオンの内側で、自我が叫ぶ。

『嘘をついた! 誇張した! これでいいのか!』

グレイが答える。

『結果が全てだ。村は助かった。それで十分だろ』

『でも……』

『感情を持ち込むな。ビジネスは結果だ』

リオンは反論できない。

確かに、村は助かった。

でも、方法が正しかったのか。

グレイが続ける。

「それと、手数料の2割ですが」

金貨を取り出す。

「これは私がいただきます」

村人が驚く。

「えっ? でも、リオンが……」

グレイが冷たく言う。

「契約です。約束しましたよね?」

村長が困惑する。

「そうだが……リオン、お前がもらうのか?」

リオンの内側で、自我が必死で抵抗する。

『やめろ! 村の金を奪うな!』

だがグレイは聞かない。

金貨を懐にしまう。

「ビジネスです。感情は不要」

リオンの自我が限界に達する。

『もう十分だ! 戻れ!』

封印を試みる。

「我が名においてリオンに戻れ!」

だがグレイが抵抗する。

「待て! まだ商談が残ってる! もっと稼げる!」

リオンの体が震える。

綱引き。

グレイと自我の。

「戻れ!」

リオンは全力で叫ぶ。

グレイが渋々引いていく。

「ちっ……せっかくいいところだったのに……次はもっと稼がせろ……」

視界が元に戻る。

リオンの体が元に戻る。

その場に膝をつく。

「はあ……はあ……」

疲労が襲う。

まだ完全に回復していない体。

消耗が激しい。

村人が駆け寄る。

「リオン、大丈夫か?」

リオンは頷いた。

「大丈夫……」

懐を探る。

金貨がある。

グレイが奪った手数料。

リオンはそれを村長に差し出した。

「これ……返す……」

村長が目を丸くする。

「いいのか? お前が稼いだのに」

リオンは首を横に振る。

「俺じゃない……グレイが……」

村長が金貨を受け取る。

「ありがとう、リオン」

村人が感謝の言葉を口々に言う。

だがリオンの心は重い。

嘘をついた。

誇張した。

それで金を稼いだ。

方法は正しかったのか。

リオンは家に戻った。

部屋に入る。

ベッドに倒れ込む。

「またか……」

グレイを制御しきれなかった。

暴走した。

嘘をついて金を稼いだ。

リオンは天井を見つめた。

「俺は……何をしてるんだ……」

母を襲おうとした。

父を隊長と呼んだ。

そして今、嘘で金を稼いだ。

リオンは拳を握った。

「もっと……制御しないと……」

でも、どうやって。

グレイは強い意志を持っている。

簡単には引き下がらない。

リオンはノートを開いた。

『問題点:人格が自我を持っている。抵抗する』

『改善策:?』

答えが見つからない。

リオンはペンを置いた。

窓から外を見る。

村人が歩いている。

笑顔だ。

復興が始まっている。

リオンの稼いだ金で。

でも、その金は嘘で得たものだ。

リオンは目を閉じた。

「すまない……」

誰にともなく謝る。

精神世界を覗く。

商人グレイが立っている。

「いい仕事だっただろ?」

リオンが睨む。

「嘘をついた」

グレイが肩をすくめる。

「誇張だ。ビジネスだ。村は助かった。それで十分だろ」

リオンが叫ぶ。

「お前は俺の一部だ! 俺の意志に従え!」

グレイが笑う。

「俺にも意志がある。お前だけのものじゃない」

リオンは言葉を失った。

そうだ。

グレイにも、意志がある。

6666人全員に、意志がある。

それを無視して、制御しようとしている。

「じゃあ……どうすればいい……」

グレイが真面目な顔になる。

「話し合いだ。お前と俺たちで」

リオンは頷いた。

「わかった……」

精神世界から離れる。

現実に戻る。

リオンは決意した。

次は、人格たちと話し合う。

命令するんじゃない。

協力を求める。

そうすれば、暴走は減るかもしれない。

リオンはノートに書いた。

『次の課題:人格との対話』

ペンを置く。

深呼吸。

「明日から……やってみる」

窓の外、夕日が沈んでいく。

長い一日が終わる。

リオンは疲れた体を休めるため、横になった。

目を閉じる。

眠りに落ちる前、つぶやいた。

「すまない……グレイ……そして、買った人たち……」

深い眠りに落ちた。


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