第11章 制御の副作用
3日後。
リオンは目を覚ました。
天井が見える。
自分の部屋。
体が鉛のように重い。
動かそうとしても、力が入らない。
「う……」
声を出そうとする。
かすれた声しか出ない。
母が横にいた。
椅子に座って、眠っている。
疲れた顔。
リオンは母を起こさないように、体を起こそうとした。
痛い。
全身が筋肉痛。
いや、それ以上だ。
骨まで痛い。
「つ……」
小さく呻く。
母が目を覚ました。
「リオン!」
飛び起きる。
リオンの手を握る。
「起きたのね! よかった……ずっと眠ってて……」
母の目に涙。
リオンは微笑もうとした。
だが顔の筋肉が動かない。
「ごめん……」
かすれた声。
母が首を横に振る。
「謝らないで。あなたは村を守ってくれた」
リオンは頷いた。
頷こうとした。
首が重い。
「体が……動かない……」
母が水を持ってくる。
リオンの口に含ませる。
飲み込む。
喉が焼けるように痛い。
「ゆっくりでいいのよ」
母が優しく言う。
リオンは鏡を見たいと思った。
「鏡……」
母が手鏡を持ってくる。
リオンの顔を映す。
リオンは息を呑んだ。
頬がこけている。
目の下に深い隈。
唇は乾いてひび割れている。
まるで、病人だ。
「これ……俺……?」
母が頷く。
リオンは手鏡を置いた。
見たくない。
「どのくらい……眠ってた?」
「3日」
リオンは驚いた。
3日も。
「村は……?」
「大丈夫。帝国軍は撤退した。あなたのおかげよ」
リオンは安堵した。
「よかった……」
でも、代償が大きい。
3連続召喚。
こんなに消耗するなんて。
母が部屋を出る。
「スープ作るわ。少し休んでて」
一人になる。
リオンは天井を見上げた。
「3連続が限界か……」
つぶやく。
それ以上は無理だ。
体が持たない。
翌朝。
リオンは何とかベッドから起き上がれるようになった。
体はまだ重いが、動ける。
食卓に向かう。
母が朝食を用意している。
父も座っている。
「おはよう、リオン」
父が笑顔で言う。
リオンは座った。
父を見る。
その瞬間、視界が歪んだ。
父の顔が、別の顔に見える。
戦士アレクの仲間。
古代王国の副官。
「隊長、次の作戦は?」
リオンの口が勝手に動く。
父が目を丸くする。
「リオン?」
はっと我に返る。
父の顔が元に戻る。
「え……」
リオンは手を見た。
震えている。
「すまない……今、何を……」
父が心配そうに見る。
「隊長って呼んだぞ」
母も不安そうだ。
「リオン、大丈夫?」
リオンは頭を抱えた。
「記憶が……混ざってる……」
父と母が顔を見合わせる。
リオンは立ち上がった。
「部屋に戻る」
ふらつく足で部屋に向かう。
母が後ろから声をかける。
「リオン、朝ごはんは?」
「後で……」
部屋に入る。
扉を閉める。
机に向かう。
ノートを開く。
『制御法の研究』
そのページを見る。
文字が読めない。
いや、読める。
でも、意味がわからない。
まるで別の言語のように見える。
「何だ……これ……」
次のページ。
人格のリスト。
『1人目:原始人ゴル』
その文字が、古代文字に見える。
リオンは目をこすった。
もう一度見る。
やはり読めない。
焦りが込み上げる。
「どうなってるんだ……」
精神世界を覗く。
6666人が座っている。
だが、輪郭がぼやけている。
霧がかかったように。
農民トムが立ち上がる。
「落ち着け、リオン」
「落ち着けるか! 記憶が混ざってる! 文字も読めない!」
戦士アレクが言う。
「連続召喚の副作用だ。お前の脳が、俺たちの記憶を整理しきれていない」
商人グレイが付け加える。
「一時的なものだ。休めば治る」
リオンは頭を抱えた。
「どのくらい?」
治療師アンナが答える。
「最低1週間。できれば2週間」
リオンは愕然とした。
「そんなに……」
学者ルシアンが言う。
「無理をした代償だ。受け入れろ」
リオンは精神世界から離れた。
現実に戻る。
ノートを閉じる。
ベッドに倒れ込む。
「1週間……何もできない……」
その間に、また危機が来たら。
また誰かが襲ってきたら。
戦えない。
守れない。
恐怖が襲う。
でも、どうしようもない。
体が動かない。
記憶が混乱している。
リオンは拳を握った。
握ろうとした。
手が震える。
力が入らない。
「くそ……」
悔しさが込み上げる。
窓から外を見る。
村人が歩いている。
笑顔だ。
平和が戻っている。
でも、リオンは壊れている。
「これが……代償か……」
つぶやく。
強くなるには、代償がある。
それを思い知らされた。
リオンは目を閉じた。
深呼吸。
落ち着く。
『焦るな。一歩ずつだ』
農民トムの声が聞こえる。
『そうだ。焦っても仕方ない』
リオンは自分に言い聞かせる。
まず、回復する。
体を治す。
記憶を整理する。
それから、また訓練する。
もっと効率的な方法を見つける。
連続召喚じゃなくても戦える方法。
必ずある。
リオンは決意を新たにした。
窓の外、鳥が鳴いている。
平和な音。
リオンはその音を聞きながら、横になった。
目を閉じる。
また眠りに落ちる。
回復のための眠り。
夢の中で、6666人が囁いた。
「休め」
「焦るな」
「お前は強い」
「時間をかけろ」
リオンは安らかに眠った。




