第1章 転生即、記憶地獄
朝日が窓から差し込む。リオンは目を覚ました。
直後、脳内に6666の声が同時に響いた。
「殺せ」
「逃げろ」
「祈れ」
「計算しろ」
「商え」
「癒せ」
無数の声が重なり合う。頭が割れそうだ。リオンは頭を抱えて絶叫した。
「うああああ!」
古代戦場の映像が流れ込む。剣と剣がぶつかり合う音。血の匂い。次は中世の城。王座に座る自分。いや、違う。自分じゃない。でも自分だ。今度は未来都市。空飛ぶ車。高層ビル。ガラスと金属の世界。原始の森。獣の咆哮。焚き火。石器。
映像が高速で切り替わる。止まらない。
自分が誰なのかわからなくなる。
戦士か? 学者か? 商人か? 農民か?
「俺は……誰だ?」
声が出た。自分の声だ。幼い声。3歳児の声。
母エレナが扉を開けて駆けつけた。「リオン、どうしたの!」
その声で、一瞬だけ記憶の奔流が静まった。リオンは母の顔を見た。優しい顔。心配そうな顔。
「母さん……」
母が抱きしめてくれる。温かい。
「大丈夫よ、大丈夫」
リオンは震える声でつぶやいた。「今は……リオン、だ」
そうだ。今の俺はリオン。3歳のリオン。
でも、頭の中には何千、何万もの声がいる。
母が額に手を当てる。「熱はないわ。悪い夢でも見たの?」
悪い夢。そうかもしれない。でも、これは夢じゃない。
リオンは答えられなかった。
母が部屋を出て行く。「少し休んでなさい。朝ごはん作るから」
一人になる。リオンは立ち上がり、部屋の隅にある鏡を見た。
映っているのは3歳児の顔。丸い頬。大きな目。茶色の髪。
でも、脳内には老人の顔が浮かぶ。皺だらけの顔。白い髭。次は若い戦士の顔。傷だらけ。次は学者。眼鏡。次は犯罪者。邪悪な笑み。
「これ、全部……俺なのか?」
混乱が再び押し寄せる。
6666の声が再び騒ぎ始める。「お前は俺だ」「いや、俺だ」「違う、私だ」「我々全員だ」
リオンは鏡を見つめたまま、震えた。「わからない……わからないよ……」
扉がノックされる。父ダリウスの声。「リオン、入っていいか?」
リオンが答える前に、扉が開いた。父が入ってくる。大柄な体。優しい目。
「母さんから聞いた。大丈夫か?」
リオンは頷いた。頷こうとした。
だがその瞬間、頭の中で暗殺者の記憶が反応した。
『背後から刺せ。急所は首の付け根だ』
リオンの体が勝手に動きそうになる。父の背後に回ろうとする足。
「やめろ!」
リオンは自分に叫んだ。足を止める。必死で抑え込む。
冷や汗が額を伝う。
父は気づいていない。笑顔で言う。「顔色が悪いな。風邪か?」
リオンは首を横に振った。「大丈夫……多分」
父が肩に手を置く。「無理するなよ。今日はゆっくり休め」
部屋を出て行く。
リオンは床に座り込んだ。両手で頭を抱える。
「何が起きてるんだ……俺の中に……何人いるんだ……」
答えはない。ただ、6666の声だけが、静かに、そして絶え間なく囁き続けた。




