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喫茶店②

「そうでしたか」


マスターは少し考えるように間を置いてから、穏やかに続ける。


「疲れるというのは、きっと相手とちゃんと

  向き合おうとしている証なんだと思います」

「適当に合わせるだけなら、楽でしょう。でも、それを良しとしないから疲れる」

「それは、とても立派なことですよ」


小さく区切るように、続ける。


「次に考えるとしたら、どう関わるか。でしょうね。

  全部を受け止める必要はありません。一人の時間も必要です」


「それがあるから、また人と向き合える」


「もっと上手な言い方ができればいいんですが、私もまだまだですから」

と、少しだけ、申し訳なさそうに笑う。


――そんな事が俺にもできるのだろうか


マスターは店内に視線を向けた。

「私はね、ここでくつろいでくださる方を見るのが好きなんです」

「飲み物を飲んでいるときの表情で、伝わる事も意外と多いんですよ」

視線が静かに重なる。

「あなたは今、さっきよりずっといい表情をしているように見えます」


励ましているわけでも、答えを押し付けているわけでもない。

それでいて、必要なところだけをそっと撫でられた気がした。


この人はたぶん、人と話すのが上手いというより、人の話を大事にしているんだろう。

この店が居心地が良かった本当の理由がわかった気がした。

――この人から、もう少し話を聞いてみたい。


俺は少し息を整え、背筋を伸ばしてから口を開いた。

「あの……お願いがあるんですが」




その夜。

スマホを手に取って、しばらく画面を眺めていた。

自分からなにかを発信するのは、あまり得意じゃない。

聞かれれば答える。

必要なら話す。

でも、理由もなく自分の事を話すのは、どこか怖かった。


求められていないんじゃないか。

余計なノイズなんじゃないか。

そんな風に考えて、結局黙る。

大人になってからは、特にそうだった。


それでも、言葉を投げてみるのが。人と繋がる、ということなのかもしれない。


《バイト決まった》

そう、グループへ送信すると、すぐに既読がついた。


《マジで!》

《なにするの?》

《おめでとう!》


短いやり取り、でも、返ってくる言葉がある。

俺の投げた一言を、受け取ってくれる相手がいる。

再度、返事をする。


《商店街の喫茶店》


自分のことを話してもいい。

そう思えたこと自体が、十分すぎる前進だった。

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