演劇部の手伝い➂
そんな事があってから、手が空いたときには事務作業も手伝うことになった。
なにかわからないことがあると部長は助けを求めるみたいに、こちらに視線を送る。
だいたい何かしらの書類を抱えている。
申請書だったり
予算表だったり
コピーされた何かだったり。
作業をしているその間、部長は決まってノートにペンを走らせていた。
シナリオ、脚本の直しと言っていた。
時々ペンを止めては考え込み、また書き足す、かと思えば消しゴムでごりごり消したりもする。
その姿は普段の緩い感じとはまるで違い、職人のような真剣さがあった。
「文化祭、どんな劇やるんです?」
その日、なんとなく気になって聞いてみた。
部長はちらっとこっちを見ると、手元の台本を差し出し、その中の一節を指でさす。
「一緒にやって」
「……はい?」
思わず間の抜けた返事が出る。
「読むだけじゃ、伝わらないから」
そう言って、部長はゆっくりと立ち上がる。
いつものぼんやりした雰囲気がすっと消え、周囲の空気がわずかに張り詰めた気がした。
「――私には、あなたが必要なのです」
「あなたが共に歩んでくれるのならば」
「この手を取って――」
「どうか、私を、受け入れて下さい」
凛とした声に、射抜くような視線。
演技っだとわかっているのに、その迫力に圧倒されて動けなかった。
差し出された手を見つめ、そのまま固まっていると――
「ちっ」
「勧誘、失敗」
と、部長はいつもの雰囲気に戻っていた。
「私の演技、まだまだ」
その言葉にハッとして俺は前のめりになって答える。
「違います!すごかったです!
なんかこう、空気全体を持ってかれたみたいで……
演技がっていうか、その、別人みたいで!」
自分でも何を言っているのか、言葉が上手くまとまらなかった。
でも、この感動をどうにか伝えたかった。
部長は目をわずかに見開いたまま、こちらをジッと見ていた。
そして少しだけ視線を逸らす。
「……そう」
短く返事をしながら、どこか落ち着かない様子だった。
俺は、なぜこの人が演劇部の部長なのかを、ただその一節だけで理解した。




