表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
20/27

演劇部の手伝い①

「先輩、本当にすいませんでした」

後輩は深く頭を下げた。

「迷惑かけちゃって……申し訳ないです。今度、何かお礼を――」


「いいよ、大丈夫」

俺はそう遮るように言った。

「これも仕事だからさ。気、遣わなくていい」

「……すみません……ありがとうございます」

後輩は再度お礼を言って戻っていった。

それだけのこと。


けれど。

あのとき、後輩の顔が一瞬だけ曇ったように見えた。

――あれは、気のせいだったのだろうか。




その日、教室は思った以上に盛り上がっていた。


「模擬店でよくね?」

「えー、でもお化け屋敷とかも面白そうじゃない?」

「たこ焼きとかお好み焼きとか絶対売れるって!」

「喫茶店とかさ」

「あーワッフルとかパンケーキとかお店みたいなの作りたい!」

「コンカフェとか良いと思うのでござる……」


ホームルームの時間。

俺のクラスでは文化祭の出し物について話し合っていた。

実行委員の司会進行のもと、みんな楽しそうに話し合っている。


「なかなか決まんねえなぁ……」

陽斗がやけに静かな声でつぶやく。

イベント好きの陽斗にしては、このテンションの低さがめずらしい。

「どうかしたのか」と、返しながら視線を落とすと、その手にはバイト情報誌が握られていた。


「…………」


「……お前、まさか」

「おお、決まった出し物のやつでバイトするつもりだけど?」

当たり前だろ?みたいな顔で言い放った。

「いやー、文化祭のことを想像してたらさ、昨日の夜にもうワクワクが限界突破しちゃって、今もう逆に冷静」

どこがだよ、と思わず突っ込んでしまった。

「どうせやるならさ、妥協できねえだろ!」

と、楽しそうに笑った。



「ま、どっちにしろバイトはしようと思ってたとこなんだよ。金ねえと遊びにも行けねえしな」

ひとしきり笑った後、陽斗は言う。

「たしかになぁ……俺も金、ないんだよなぁ」


大人だった頃は、特に遊びに行くことも趣味もなく、出費は家賃なんかの固定費と食費くらいだった。

幸か不幸か、そのおかげで勝手に貯金もでき、あまりお金関係で困った覚えはない。

……のだが。


「直人もさ、どっかでバイトしようぜ」

「バイトかぁ」

「金あれば色々遊びに行けるし、楽しそうじゃんか」

「それしかないよなぁ……」


俺は自分の財布の中身を思い出していた。

二千円。

これが全財産。

そう、学生というものは金がないのだ。

そんなわけで俺もまた、この問題をどうするか、結構真剣に考えていたのである。



――チャイムが鳴る。


「お前らなぁ……。

 次のホームルームまでにある程度固めておけよ。実行委員は意見まとめておけ!」

担任が強めに言う。

それもそうだ。

結局、話し合いは段々と雑談からの大喜利大会となり、結局出し物は決まらなかった。

最後にはイルカショーとかになってたしな。


「まったく……」

そう呟きながら担任が教室を出ようとしたそのとき、ふと思い出したように「あ、そうだ」と振り返る。

更階(さらしな)

ついでみたいに呼ばれる。

「ちょっと来てくれ」

「え?俺」

「おう、すぐ終わる」


廊下を歩きながら、担任は資料を脇に抱えたまま何気ない口調で言った。

「……文化祭、準備が大変でなぁ」

「でしょうね」

「特になぁ、文化部は結構大変なんだ

 知ってるか?文化祭の飾りとかは部活ごとに担当して作ってるんだぞ」

「へぇ、そうだったんですね」


担任がちらりと振り返った。

「……」

なんとなく察しが付く。


「……それじゃ、俺はこれで」 と、戻ろうとすると

「処分無しで済んだのは、誰のおかげだったかなぁ?」

「…………ぐ」

「いや、別にな?無理にとは言ってないぞ、無理にとは。

 あー、困ってる俺を助けてくれる生徒がいたら、助かるんだけどなぁ」

チラッチラッとこっちに目線を送る。


「……わかりましたよ」

「お、助かるぅ」

担任は満足そうに笑った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ