演劇部の手伝い①
「先輩、本当にすいませんでした」
後輩は深く頭を下げた。
「迷惑かけちゃって……申し訳ないです。今度、何かお礼を――」
「いいよ、大丈夫」
俺はそう遮るように言った。
「これも仕事だからさ。気、遣わなくていい」
「……すみません……ありがとうございます」
後輩は再度お礼を言って戻っていった。
それだけのこと。
けれど。
あのとき、後輩の顔が一瞬だけ曇ったように見えた。
――あれは、気のせいだったのだろうか。
その日、教室は思った以上に盛り上がっていた。
「模擬店でよくね?」
「えー、でもお化け屋敷とかも面白そうじゃない?」
「たこ焼きとかお好み焼きとか絶対売れるって!」
「喫茶店とかさ」
「あーワッフルとかパンケーキとかお店みたいなの作りたい!」
「コンカフェとか良いと思うのでござる……」
ホームルームの時間。
俺のクラスでは文化祭の出し物について話し合っていた。
実行委員の司会進行のもと、みんな楽しそうに話し合っている。
「なかなか決まんねえなぁ……」
陽斗がやけに静かな声でつぶやく。
イベント好きの陽斗にしては、このテンションの低さがめずらしい。
「どうかしたのか」と、返しながら視線を落とすと、その手にはバイト情報誌が握られていた。
「…………」
「……お前、まさか」
「おお、決まった出し物のやつでバイトするつもりだけど?」
当たり前だろ?みたいな顔で言い放った。
「いやー、文化祭のことを想像してたらさ、昨日の夜にもうワクワクが限界突破しちゃって、今もう逆に冷静」
どこがだよ、と思わず突っ込んでしまった。
「どうせやるならさ、妥協できねえだろ!」
と、楽しそうに笑った。
「ま、どっちにしろバイトはしようと思ってたとこなんだよ。金ねえと遊びにも行けねえしな」
ひとしきり笑った後、陽斗は言う。
「たしかになぁ……俺も金、ないんだよなぁ」
大人だった頃は、特に遊びに行くことも趣味もなく、出費は家賃なんかの固定費と食費くらいだった。
幸か不幸か、そのおかげで勝手に貯金もでき、あまりお金関係で困った覚えはない。
……のだが。
「直人もさ、どっかでバイトしようぜ」
「バイトかぁ」
「金あれば色々遊びに行けるし、楽しそうじゃんか」
「それしかないよなぁ……」
俺は自分の財布の中身を思い出していた。
二千円。
これが全財産。
そう、学生というものは金がないのだ。
そんなわけで俺もまた、この問題をどうするか、結構真剣に考えていたのである。
――チャイムが鳴る。
「お前らなぁ……。
次のホームルームまでにある程度固めておけよ。実行委員は意見まとめておけ!」
担任が強めに言う。
それもそうだ。
結局、話し合いは段々と雑談からの大喜利大会となり、結局出し物は決まらなかった。
最後にはイルカショーとかになってたしな。
「まったく……」
そう呟きながら担任が教室を出ようとしたそのとき、ふと思い出したように「あ、そうだ」と振り返る。
「更階」
ついでみたいに呼ばれる。
「ちょっと来てくれ」
「え?俺」
「おう、すぐ終わる」
廊下を歩きながら、担任は資料を脇に抱えたまま何気ない口調で言った。
「……文化祭、準備が大変でなぁ」
「でしょうね」
「特になぁ、文化部は結構大変なんだ
知ってるか?文化祭の飾りとかは部活ごとに担当して作ってるんだぞ」
「へぇ、そうだったんですね」
担任がちらりと振り返った。
「……」
なんとなく察しが付く。
「……それじゃ、俺はこれで」 と、戻ろうとすると
「処分無しで済んだのは、誰のおかげだったかなぁ?」
「…………ぐ」
「いや、別にな?無理にとは言ってないぞ、無理にとは。
あー、困ってる俺を助けてくれる生徒がいたら、助かるんだけどなぁ」
チラッチラッとこっちに目線を送る。
「……わかりましたよ」
「お、助かるぅ」
担任は満足そうに笑った。




