花火大会の夜⑤
花火に火をつけると、パシュッという音と共にカラフルな花火が勢いよく吹き出した。
「どうよ!」
「当ててよかったろ、花火セット!」
陽斗が得意げに言う。
「……まぁ結果としてはね」と、月島も笑いながら同意する。
結局、花火大会の花火をちゃんと見れたのは終盤のほんの少しだけだった。
もう少し見たかったね。と、名残惜しい空気の中で陽斗が思い出したよう手を叩く。
「あ、花火。あんじゃん」
そうして俺たちは会場近くの静かな公園で花火を楽しんでいた。
気付くと、いくつもあった花火はずいぶん減っていて、笑い声と一緒に夜の時間が静かに進んでいた。
そんな中、少し風が出てきたなと俺は少し離れたところで線香花火に火を付けていた。
ぱちぱちと小さな音を立てて、火花が足元で揺れる。
「更階くん」
顔を上げると、小波さんが立っていた。
「さっきはありがとう、探してくれて」
「いや、俺は大したことできてないよ」
「ううん、本当にね、安心したんだ」
小波さんは少しだけ視線を落とした。
「ごめんね、花火大会。私がはぐれちゃったせいで台無しにしちゃって……」
申し訳なさそうに、小さい声で。
――でもそうじゃない。
「逆だよ。感謝してる」
「え?」
「あの時、小波さんが花火大会のポスターをみてなかったら、多分……俺はここにいなかったと思う」
「屋台もたくさん回ったし、くじも引いたし、花火もしてる」
「……まぁ、花火大会はちゃんと見れなかったけど」と少し笑って言う。
「でも、みんなで来て、一緒に歩いて、遊んで、それだけで。俺は十分楽しかった」
――そう、楽しかった。
人と関わるのが正直こわかった。
誰かと近づいて、何かを分け合って
そのあとで、失うかもしれない、と思うのが、こわかった。
だから自ら距離を取った。
理由を付けて、誘いを断って、ひとりでいることに慣れた。
最初から持たなければ、失うこともない。そう思って。
友人と出かけることも、笑い合うことも「自分には必要ないもの」だと決めつけて
目を逸らしてきただけだ――
「だからさ、ありがとう。小波さん。」
小波さんは少しの沈黙の後、小さく笑った。
「……ね」
小波さんがぽつりと口を開く。
「また来年もさ、これたらいいね」
線香花火が最後に大きく弾けて、夜に溶けた。
「そ――」
「お前……やっぱり俺より先に彼女作ろうとしているだろう……?」
返事をしようとしたその瞬間、場違いにもほどがある声が割り込んできた。
「してない」
俺が即答すると「んなわけあるかぁ!」と、みんなを巻き込んでギャーギャーと騒ぐ。
――怖さは、消えてはいない。
でも、怖さを理由に立ち止まっていたら、何も始まらない。
この二度目の高校生活に、どんな意味があるのかは、まだわからない。
夢なのか、奇跡なのか、それすら曖昧だ。
それでも、ひとつだけは決めた。
俺は、この人生を――全力で生きることにした。




