花火大会の夜④
うう……なんで、着慣れない浴衣なんて着てきちゃったんだろう。
せっかくの花火だからって浮かれちゃってたのかな……。
履き慣れない下駄の感覚が気になって、気付けば足元ばかり気にしていた。
少しだけ立ち止って足を見る。
鼻緒が当たっている指の股が赤くなり、ひりっと痛みが走る。
--あれ。
顔を上げると、さっきまで前を歩いていたはずのみんなの背中が、ない。
「……え」
焦って周りを見渡すけど、どこも人、人、人。
「みんな……どこ……?」
前に進もうとしても人の流れに押されて思うように動けない。
「いたっ……!」
誰かとぶつかって、足を強く踏まれた。
しゃがみ込みそうになるのを堪えて、足元を見つめたまま立ち尽くす。
周りは楽しそうな声と、空に上がる花火の音にあふれているのに
私だけそこから取り残されたみたいだった。
不安が静かに胸いっぱいに広がっていく。
--どうしよう。
そう思った瞬間
「美羽!」
呼ばれて顔を上げると、沙耶が少し息を切らして立っていた。
「良かった……見つかった」
その言葉に、張り詰めていたものが一気に緩んだ。
近くの低い石垣に腰を掛けると、沙耶は濡らしたハンカチで足を冷やしてくれた。
「沙耶、どうしてここがわかったの?」
思わずそう聞くと、沙耶が答えた。
「あぁ、更階がね――」
――少し前。
「ダメね、この人混みで連絡も通じないわ……」
「やっぱり手当たり次第に探すしかないか」
人の波を見渡しながら、陽斗が焦った声を上げる。
みんな不安そうに周囲を見回しているが、少し先ですらもう人の区別が付きづらい状態だった。
その時、考え事をしてたみたいに黙っていた更階が口を開いた。
「月島。小波さんって不安になったとき、動きまわるタイプ?それとも止まるタイプ?」
私はハッとして、少し考えて答えた。
「……たぶん、止まる」
バサリと先程見ていたロードマップを広げる。
「じゃあ、人の流れから外れて邪魔にならないような場所を中心に探そう。
壁際とか、段差とか、街灯の下」
「はぐれてから、そんな時間は経ってない。あと、これは予想だけど多分遠くにはいけないと思う」
「十分後、見つかってても見つかってなくても、さっきの石垣に戻ろう、探す方向は――」
と、沙耶は私に経緯を話してくれた。
「更階くんが……」
「あいつ、なんか妙に落ち着いて考えててさ……」
そう言いながら、沙耶はカバンをごそごそと探り、何かを取り出した。
「ほら」
差し出されたのは、一枚の絆創膏だった。
「……え?」
「鼻緒、痛いでしょ」
私は驚いて沙耶の顔を見る。
「……気付いてくれたんだ」
「私じゃないわ。探しに行く前に渡されたのよ」
「……人のこと、よく見てるよね、あいつ」
沙耶はちょっと悔しそうに、でも少し感心するように言った。




