花火大会の夜①
休日の繁華街は照り返すアスファルトの熱と、人の多さでむっとする暑さだった。
日除けの無い通り沿いに建つファストフード店で、俺たちは冷房に逃げ込むように席についていた。
「見ろよこれ!」
「限定カラーだぞ、限定!並んだかいあったわー!」
陽斗がやたらテンションが高く、買ったばかりの服をテーブルに広げていた。
――朝。
起きても高校生のままだった俺は、部屋の中を意味もなく行ったり来たりしていた。
落ち着かず、どうにもならないのに体だけが動いてしまう。
――なんでだ。
――まだ夢を見てるのか。
――会社は、今日は確か大事な会議が――
そこまで考えて、ふっと力が抜けた。
こんな状況で、仕事の心配か。
自分で自分に呆れて、思わず小さく息を吐く。
馬鹿らしくなって、ベッドに上半身を投げ出すように倒れ、仰向けになる。
誰かに相談すべきだろうか、とスマホを掴む。
……いや、無理だな。
40歳の男が、目を覚ましたら高校生になっていました、なんて。
そんな話、誰が信じるんだ。
あーハイハイ、そうですねー、と言って別の病院を薦められるだけの未来しか見えない。
未来人だけに。
……。
……結局俺は、この状況を一人で受け止めるしかないらしい。
そんな事を考えていると、手にしていたスマホが震えた。
陽斗からだ。……ちょうど良い。
この状況をどう説明するかはさておき、一回話を。
そう思って通話ボタンを押すと
「なおとぉ……助けてくれえぇぇ……」
と、今にも泣き出しそうな声が受話口から漏れてきた。
――そして現在に至る。
「ありがとな!直人に佐伯。おかげで無事、狙ってたアイテムゲットできたわー」
電話の正体は、人気の服屋の限定アイテムを買うための人手要請だった。
拍子抜けするほど平和な理由に、肩から一気に力が抜けた。
……まぁ、気も抜けたので、逆にちょうど良かったのかもしれない。
そういえば、こいつは昔からこういうやつだった。
横では「力になれたなら、よかった」と佐伯が柔らかく笑っていた。
「でもさ、よかったのか? お前ら自分の分買わなくて。まだ残ってたろ、限定アイテム」
「んー、俺はいいや」と、ポテトをつまみながら答える。
正直この歳になると服に興味が段々と湧かなくなる。
といっても元々あまり興味はなかったような気もするが。
「僕も、服とかよく分からなくて……」
佐伯は苦笑いだ。
さっきまでTシャツ一枚に一万円以上の値札が付いている事に本気で驚いていた。
「まったく、お前らなぁ。オシャレしねえと彼女もできねえぞ?」
「あんただって彼女出来たことないでしょ」
横でオレンジジュースを飲んでいた月島が即座に切り捨てる。
「ふ、バカにすんなよ?俺はな、いつ何時彼女ができてもいいように準備万端なんだよ。見ろ!」
とスマホ画面をこちらに向けた。
・彼女とカラオケ行ったら歌う曲リスト 陽斗オリジナルver.
・デート候補地 春夏秋冬 陽斗オリジナルver.
・感動させるセリフ集 陽斗オリジナルver.
「…………。」
「……うわぁ」
俺と佐伯が同時に声を漏らす。
月島も「きっつ……」と、引きつった笑いを浮かべてつぶやいた。
「ふふっ」
そのやり取りを見ていた女の子が、口元を押さえて小さく笑う。
月島の隣に座っているその子――小波美羽。
落ち着いた雰囲気でいかにも女の子らしい女の子だった。




