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恋になる前の彼女たち 〜百合未満の静かなお話。〜

彼女はパセリで、私はミントだった。

作者: 灯実
掲載日:2025/10/15


大学帰りのファミレスで交わす、他愛もない会話。

"恋愛ではいつもおまけになってしまう女の子"と、

それを見つめる"私"の、少しだけほろ苦い時間の掌編です。


昔、別名義で書いた話を加筆・改稿しました。




「だからね、私はパセリなのよ!」


だんっと派手な音を立てて、芹菜(せりな)がグラスを置いた。

唐突すぎる。まるで酔っ払いのような発言だけど、芹菜の握り締めているグラスの中身は、ただのジンジャーエール。ここは居酒屋ではなく、ただの大学近くのファミリーレストランだ。

学生街の夕方のファミレスは、学校帰りの若者で賑わっている。芹菜の大声も店内の喧騒の中にかき消されて、突然のパセリ宣言に戸惑っているのは私だけだった。


「パセリ?芹菜のせりとパセリをかけてるの?」

「違う。ほら、そのお皿に残ってるパセリ!」

指差されたテーブルの上には、2人分のドリンクバーのグラス。芹菜のジンジャーエールと私のカプチーノ。二人でオーダーしたフライドポテトとミニピザのお皿はもう空っぽで、唐揚げのお皿はかろうじて一個残っている。

言われてみれば、どのフードの皿にも手付かずのパセリが載っていた。

「最後に残ってる、ってこと?」

「正解」

なるほどね、と納得する。芹菜が話していたのは、先日の他大学のサークルとの飲み会の話だった。

いわゆる合コンみたいな飲み会。大当たりと呼べるようなイケメン揃いで、女の子たちのテンションも高くて。これは、と張り切って盛り上げ役を買って出たら、いつのまにか自分以外で何組もペアが発生していたらしい。しょんぼり一人で帰って、やっとグループメッセージじゃなくて個別連絡でお誘いが来たと思ったら、結局は「あの子も一緒に!」なんて、他の子目当てだったそうだ。


正直、芹菜はとっても可愛い。

茶色のロングヘアを流行の雰囲気に巻いて、ぱっちりとした二重まぶたの大きな目。背も高めでスタイルも良くて、まるでインフルエンサーやモデルのような華やかな女の子。話題も豊富だし、冗談のセンスもあって、よく笑うし笑わせる女の子。

だけど、男の子が好きなのは、黒髪でおとなしくって、控えめに微笑んでいるような、そんな子らしい。その先日の飲み会でも、一番人気の女の子は静かに微笑んで、さりげなく取り分けて。話題を振られてやっと話すような、お酒なんて飲めないっていうような子だったらしい。元気いっぱいで、よく喋ってよく食べて、とりあえず生!なんて言っちゃうタイプの芹菜とは遠いタイプの子。高校時代からの長い付き合いだけど、芹菜に男っ気があるところは見たことがない。

「芹菜、すっごい可愛いのにね」

「可愛いっていうのも、自信なくなってきちゃった!おしゃれだってメイクだって頑張ってるのになぁ。女子大に入っちゃったのが駄目だった?」

昔から可愛かったけれど、芹菜は大学生になってからもっと可愛くなった。

私たちが通っているのは女子大で、もちろんキャンパス内には女子学生しかいない。私たちが出会った高校も女子高で、そのまま内部進学で女子大生に。彼氏を作ることを考えるなら、共学の学校に進学したほうが良かったかもしれない。でも、芹菜は昔からずっと可愛い。元の容姿のつくりの良さに胡坐をかかずに、自分磨きをしてる。見た目だって、中身だって、出会った頃よりもずっと素敵になっている。こんなにいい子なのに、男の子って見る目ないのかもしれない。


「どうせね、私は『飾り』なの!『おまけ』なのっ!」

ぷくっと頬を膨らませて唇を尖らせて、怒ってます拗ねてますっていうのを過剰に主張して。芹菜はパセリの茎を摘まみあげた。ピンクベージュの淡いマグネットネイルが、綺麗な指先をさらに綺麗に見せている。嫌そうな顔をしてパセリをもてあそびながら、持っていたフォークを唐揚げにぶすぶす突き刺す。メインの唐揚げも、芹菜の言う『おまけ』のパセリも、食べ物には罪はないんだけれどな。

「駄目だよ。ほら、食べないんなら唐揚げちょうだい」

ちょっと咎めるように言うと、芹菜はばつの悪そうな顔をして素直に謝った。形のよい眉毛を八の字にして、丸い大きな目の上目遣い。

叱られた子犬みたい。きっと芹菜が子犬だったら、耳はぺたんと下を向いて、尻尾もしょんぼりと垂れている。想像してみた子犬の姿があまりにも似合っていて、思わず小さく笑った。芹菜は不思議そうな顔でこちらを見ている。

「うん。いいこ。唐揚げ、ちょーだい」

可愛い動物を愛でるように優しい声色でもう一度。私の意図を察した芹菜はくすっと笑って、今度は優しく唐揚げにフォークを刺した。そして私の口元へ差し出す。

「はい、あーん」

「ありがと」

丸々差し出されたそれの、半分を齧る。残った半分を、芹菜は当たり前のように自分の口に入れる。

「美味しい。ちょっと悔しい」

そういって芹菜はまた笑った。もう耳はぴんと立って、尻尾もぱたぱた揺れている。素直なところが、芹菜の一番のチャームポイントだと思う。可愛らしい女の子。


機嫌が治ったところで、デザートにしませんか。そう提案すると、元気よく、賛成!と声が返ってきた。定番のチョコレートパフェをオーダーすると、混みあっているわりにはすぐ運ばれてきた。食事時も外れたこの時間帯、他のテーブルも皆食べるよりお喋りに夢中になってるのかもしれない。

オーソドックスな透明のパフェグラスにコーンパフとクリーム、フルーツ、バニラアイスとチョコレートアイス。季節限定だとかコラボだとか色々頼んだけれど、このファミリーレストランのメニューで一番美味しいのがこれだ。私も芹菜もお気に入り。アイスクリームの上に乗ったホイップクリームには、ちょこんと可愛らしくミントの葉が乗っている。

「パフェに乗ってるミントも『おまけ』かなぁ?」

「私は甘い物とミントの組み合わせ好きだけど。芹菜もミントは食べるでしょ?」

「確かに。パセリは残すけど、ミントは食べる」


本当は、私はパセリ、嫌いじゃないけどね。

芹菜はすっかり忘れてるみたいだけれど、いつもお皿に残ってるパセリは、さりげなく私のお腹に入っている。食べる人があまり多くないのは知っている。芹菜にも、パセリ食べるんだ?なんて珍しげな視線を投げかけられた記憶がある。

香草類が好きな私にはちょうどいい口直しだったりするから、私の中では『おまけ』じゃなくって『なくては物足りない存在』なんだけど。でも、今日は散々芹菜がパセリを自分に喩えていたから、あえて今日はパセリには手を付けずに、このパフェのミントの口直しで我慢しよう。

「あれ、よけちゃうの?ミント残すの?」

「ううん、最後に食べるの」

「好きなものは最後に取っとくタイプだったっけ?」

「うーん、好きなものは、愛でてるだけで満足するタイプかも」

そう言った私に芹菜は不思議そうな顔をしたけれども、それ以上何か言うよりも、チョコレートパフェの誘惑に負けたようだった。小さなスプーンを入れて、器用にアイスとクリームとをバランスよくすくって、ぱくり。甘いものが大好きな芹菜は、一口食べるたびにふにゃっと甘く溶けそうな顔をする。

「美味しい!やっぱりこれだよね。ファミレスのクオリティとは思えないよ!パフェ食べるためにここに来てるよーなもんだよぉ」

さっきまで騒いで愚痴っていたのは何処へやら。手足をぱたぱたさせて子供みたいに美味しさを体現して、ご機嫌でパフェを褒め称える。

「よかったねぇ」

「うん、幸せ~。もう男なんてどうでもいいよ。私パセリのままでいいや」

ふざけながら、幸せそうにパフェを食べる芹菜につられるように、私もパフェのチョコレートアイスをスプーンですくった。


パセリのままでいてよ。そんな願いは甘ったるいチョコレートアイスと一緒に飲み込んで、美味しいねって笑う。

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