98話 決裂
まっずい……。
謝罪しに来た人は、絶望の中にいた。
カフェテラスにて。空は青く、風は涼やか。だというのに、目の前でクラウスがテーブルに突っ伏して泣いていた。
「うぅぅ、終わった……! 僕の学園生活、詰んだ……!」
顔面をカフェの木製テーブルに押し付け、べしゃっと涙の水たまりを広げるクラウス。その隣では、専属小物の太鼓持ちたちが、同じように深い絶望感を感じていつつも、なんとか一生懸命慰めている。
「クラウス様なら……なんとかなりますよ!」
「ううっ。なんとかなるものか! 外務大臣ディゴールがなぜ僕を狙うんだああああ!!」
雷のような絶叫とともに、クラウスが机をばぁんと叩いた。周囲の客たちがビクッと肩をすくめる。皿の上のマドレーヌが小刻みに揺れた。
カフェの雰囲気は最悪だが、大物のクラウスに注意できる人物は、上級生の中にもなかなかいなかった。
「なんで僕が……! なんで僕が10ポイントに! こんなの300人から狙われるに決まっている! ううっ……」
「人気者ですから! クラウス様、人気者ですから!」
「それが最悪なんだ! むしろ仇となっているんだ!」
外務大臣ディゴール主導の逃れられない試験。
退学者も確実に出るだろうルール。
突きつけられた現実に、専属小物たちの励まし程度では元気になれなかったみたいだ。
全く、専属小物だというのに、太鼓持ちがなっていない。
仕方ない。ここは、小物歴10年オーバーの俺がお手本を見せるとしようじゃないか。いつも通り、忠実な子分ムーブを発動。
近づいて席の端っこに立つと、専属小物たちの視線が集まる。マドレーヌいらないみたいなので、シュッとつまんでおいた。おいしっ。
「クラウス様……俺、思うんですけど」
モグモグ。
「うっ……なんだよ……ハチ?」
ええ、上級小物のハチがやって参りましたよ。そこらの小物とはわけが違います。
「狙われるって、つまり……“誇り”じゃないスか?」
「……は?」
「昔、聞いたことあるんですよ。幻獣、銀角のグリフォン。今はリュミエール王子の使い魔としても知られる存在。そいつ、山の王って呼ばれてたんすけど」
クラウスの泣き顔がピクリと動いた。やっぱり、リュミエール大好きのクラウスにはこの名前が良く効く。
「グリフォンですが、強すぎて、周りの獣たちがこぞって挑みに来たらしいです。勝てないってわかってるのに」
「なぜそんなことをするんだ?」
「さて、獣の気持ちなどわかりません。けれど、なぜかその挑まれる姿がグリフォンの価値を高めた。獣からだけでなく、人からも山の王と称えられるまでに。だからこそ、リュミエール王子もあのグリフォンと共にいるのですよ」
クラウスの表情が徐々に明るくなってくる。
ふふっ、専属小物たちよ、これが小物力の違いってやつだよ。
「けれどね、グリフォンは強すぎた。ある時を境に誰も挑まなくなった。するとあら不思議、王だと敬われていたグリフォンの威厳がそれ以来、徐々に廃れて行ったんですよ」
「廃れる……?」
「そう。戦いの中で最強を示し続けていたからこそ、グリフォンは王の威厳を保ち続けられた」
「え、それって……」
専属小物たちよ、見よ。
準備は整った。
クラウスの太鼓持ちってのはこうビートを奏でるんだよ!!
「そう! まさに今のクラウス様ですよ!」
俺はちょっと声を大きくして、続けた。
「クラウス様が10ポイントってのは、つまり! 学園側があなたを王に押し上げたい意図あり! 今あなた様は、この学園で王の座を狙われてる、ってことです! みんな、あなたを倒して登り詰めたい! 現在その位置にいるのは、クラウス様なんですよ!」
クラウスの目が、みるみる輝いていく。クラウスの傍にはハチあり! やはりクラウスを躍らせるられるのは、俺だけよ!
「ぼ、僕が、あのグリフォン……?」
「正確には山の王、銀角のグリフォンです! 希少種です!」
「くぅぅぅうッ……!」
涙は止まらずとも、顔つきはもう誇り高き王獣そのもの。ぐしゃぐしゃの顔で拳を握り、震える声で呟いた。
「僕……やってやる……! 狙われてこそ……王の証だもんな……!」
ほほっ、単純で助かります。
俺はにこっと仏のごとく笑って、テーブルの上に残っていたコーヒーを差し出す。
「ご安心ください、俺がそばで支えますから。山の王の右前脚くらいにはなれます」
「ハチ……!」
そして、クラウスは立ち上がった。今にもコーヒーカップを握って乾杯しそうな勢いだった。
が。
「……ん?」
クラウスは成長していた。
以前ほど、操縦の効きやすい男ではなくなっていたらしい。
「待てよ……僕は10ポイント。ハチ……お前も10ポイントだよな?」
げっ。まずい。グリフォンが2匹!
「ま、まあ結果的に……。俺は悪さしたペナルティなので……」
「ううっ……何が王だ! やっぱり、ディゴールは僕を潰しにかかっている。今回はチームを組むことも可能。流石に集団で来られたら僕でも……!」
またクラウスの目から大粒の涙がこぼれ始めた。
深い絶望の後に、ふと顔を上げる。
「ちょっと待て……。そういえば、ハチ! お前が僕を学生運動のリーダーを任せたんだ! こうなったのは、お前のせいじゃないか!!」
うっ。
もともとそれを謝罪しに来たんだけど、バレてなさそうな雰囲気だったので黙っていた。
けれど、クラウスめ、流石に気づいたか。
今回10ポイントになったのは、俺が原因だと。
ずっと黙っていた専属小物たちも、ここぞとばかりに俺への非難を口にする。彼らはもともと俺の存在を、自分たちの立場を奪う敵として見ているので、隙あらばいつでも攻撃態勢に入れる準備をしていたらしい。
クラウスの怒りに、専属小物たちの加勢。
とうとう、クラウスの怒りが爆発した。
「ハチ! お前の失態だぞ! よくも、よくも僕を巻き込んだ! 終わりだ。もう僕の学園生活は終わってしまったんだ! 全部お前のせいだぞ!」
コーヒーカップを投げ捨てて、クラウスが急接近してくる。
拳を振り上げ、魔力の籠った一撃を怒りの感情に任せて、俺の顔を殴りつけた。
かわせたんだけど、かわすつもりはない。
もともと殴られに来たのだ。
ドカッ!
カフェテラスに似つかわしくない、暴力的な音がして、俺が吹き飛ぶ。視界が一瞬だけブレる。クラウスの手って、結構大きいんだなと、どうでもいい感想がよぎった。そういえば、こうして殴られるのは初めてだった。
流石、魔力7000台の男。その怒りの籠ったパンチは良く効く。顔が熱を持ち、ジンジンと痛む。少し腫れたのもわかった。
「ううっ、なんでこんなことに。どうして僕が10ポイントなんだ! どうして標的に! もう終わりだ。平穏な学園生活が。このままでは父上を失望させてしまう。僕はただ、無事に卒業し、父上に優秀な息子と認めて貰いたかっただけなのに!」
クラウスは顔を真っ赤にして、叫んだ。目は血走り、拳はまだ震えてる。周囲のテラス客たちは静まりかえり、遠巻きにこっちを見ている。
ててっ。
まだ怒りは収まりそうにもない。
あと数発なら持ちこたえられそうだな。
「……クソッ!!」
再び拳を振り上げたクラウス。覚悟の上なので、立ち上がって目を瞑った。歯を食いしばっているので、いつでもカモン。……顔だよね? 急に腹とか来ないよね?
そういろいろ考えていたのに、拳は降ってこなかった。
目を開ける。クラウスが目の前で立ち止まっていた。
「……あれ? もう殴らないんですか?」
「……なんだか、あの女が心の中で僕に怒っている気がする」
あの女とは誰だろう?
この学園でもクラウスにすり寄る女性は多いものの、対等に会話している女性はあの人しか知らない。
ポルカ・メルメル。
謎多き女性だが、不思議とクラウスと相性が良い。
彼女だけが、クラウスに注意できる存在なんだよな。
拳をまだ振り上げたまま、クラウスが椅子に座った。
涙もまだ流しっぱなしだ。
「くそっ……。絶対にハチが悪いはずなのに、なんで僕がこんな罪悪感を。全部あの女の洗脳のせいだ!」
これ以上殴られなかったのは助かったが、これからはクラウスの太鼓叩きが難しくなりそうな予感。
クラウスはこの学園に来て以来、徐々に俺の知るただのアホな大物貴族じゃなくなってきている。
優秀だが、少し曲者の伯爵様の背中を、ちゃんと追う道を進みだしていた。
「そもそも、君が狙われたんじゃないのか!? その理由のために、僕が巻き添えを食らった……可能性もある!」
クラウスの言葉にはっとした。
まさか、今回の試験のターゲットが自分だとは毛ほども思っていなかったからだ。
けれど、冷静に考えてみろ。
ポイントの旨味がもっとも多く、狙われやすいのは俺とクラウスだ。大物貴族の権力争いだと思っていたが、クラウス……いいやクラウスはカモフラージュで、俺が本命のターゲットだと考えるのも、あり得そうなことだ。
なぜかはわからない。
誰が俺を狙っているのかも。
……まさか、第二王子?
いやいや、こっちがあいつに恨みこそあれ、恨まれる覚えはない……はず。
けれど、クラウスのこの言葉で、俺は一つの攻略法を思いついた。全てがヒントになっていたかのような一連の出来事。
クラウスのこの酷く醜悪な態度も良い参考となったのだ。
やはりクラウス。流石はクラウス。さすクラ!!
あんたは、やっぱり大物貴族だよ。
俺たちは終わっていない。俺たちだけじゃない。1年生全体が、クラウスに救われたかもしれない。
「ハチ! お前とはもう決裂だ! もう僕の子分だとは認めない! ううっ……。僕の足を引っ張るような子分なんて、そんな存在いらない! お前を伯爵派閥から追放する!」
破門だ。
伯爵派閥からの、明確な追放宣言。
専属小物たちは嬉しそうだ。勝手にライバル視されているからね。ライバルが減ってさぞ嬉しかろう。
俺の将来安泰が……。
実際、悲しい。
将来は、クラウスのお世話になるつもりでいたから。
小さな領地を貰い、父上の男爵位を譲って貰って、田舎でノエルと領民たちとスローライフ。そんな夢が、今無くなってしまった。
けれど、恩はまだある。
俺がこうして無事に12歳を迎えられたのも、全ては伯爵家の大きな傘で庇護して貰ったからだ。
姉さんたちも、両親もそれで無事に過ごせている。
破門されても、クラウスを始めとする伯爵家には返しきれない恩がある。
だからこそ。
今思いついた、このくだらない選抜試験、ハンティングゲームの攻略を俺がやり切る必要がある。そう決めた。
「クラウス様……!」
服の汚れを振り払う。
先程殴り飛ばされて少し汚れちゃったからな。
俺の決意の籠った強い語気、そして表情にクラウスが気圧された。
大丈夫、殴り返そうって訳じゃないから。
「なっ、なんだ!? やり返そうってか!?」
そんなつもりなんてない。
俺がクラウスを殴れる訳がない。
10対0でクラウスが悪くても殴りはしない。なのに、今回は10対0で俺が悪いと来ているんだから。
「クラウス様、今までお世話になりました。けれど、まだ少しでも俺への信頼があるなら、これだけは守って欲しい」
「……言ってみろ」
「今回の試験で、誰のポイントも奪わないで」
奪い始めれば、それは主催者側の思うつぼだ。
一年生の絆は瓦解し、全てがディゴールの手の上で踊らされることとなる。
まだ準備はいる。段階を踏まなければ。
けれど、俺と同じく標的になりやすいクラウスが取り乱さなければ……この試験、俺たちの勝ち目がある気がしてきた。
「ただ自分のことを守って。誰もクラウス様のポイントを奪わないように導くから。冷静に、強いクラウス様を保ってください。必ず、このハチがクラウス様を、一年みんなを守るから!」
「……ハチ? お前、一体……。おっ……おぅ」
随分と気の抜けた声だったけれど、たぶん了承してくれたみたいだ。
俺は頭を下げて、クラウスと専属小物たちに別れを告げた。
「随分とお世話になりました、クラウス・ヘンダー様」
今一度深々と頭を下げて、振り向いて駆けだした。
殴られた頬はまだ痛むが、その分思考が冴えわたる。
実行は早めが良いだろう。
効果的な場所を選び、目立つ必要がある。
状況に信憑性があればあるほど、作戦は上手くいくだろう。
そして、協力者がいる。
情報が漏れてはダメだ。
協力者は少なく、しかし、影響力のある人物。
あの人たちが良いだろうな。
さっそく、今回の試験の相談という体で接触した。
そして、俺が思いついたアイデアを話す。
初めこそ強く反対されたが、試験を乗り切るにはこれしかないと説得した結果、しぶしぶ協力を約束してくれた。
「ありがとう。あなたにはいつも助けられる」
「助けられているのはこちらだ。君は……それでいいのか?」
「もちろん。誰も損はしないからね」
「君、以外はね」
俺の損は一時のもの。絶対にうまくやってみせる。
そんな会話を最後に、彼の部屋を後にした。
少し時を待った。試験は1週間後。計画を早めに実行したいが、ベストなタイミングを待つ。
そして、いくつか起きるだろうと予想していた事態の一つが起きたとき、寮の自室から飛び出してそこへと赴いた。
学園中央中庭にて、事件は起きる。
1年生同士の衝突。
ここ数日、寮内でも空気がピリついていた。小さなことでやたらと騒いだり、皆が目を合わせないようにしていたりと、異様な空気感が続いていた。
のんびりできる大浴場ですら、みんなひりついているんだもん。
それもこれも、あの無慈悲な試験が原因だろう。
1年生同士で潰し合うことを前提にいた試験の結果、他人が信用できなくなっている。
この空気を打破するのが、初めの計画だ。
中庭にて、言い争いをしているのは砂の一族シアンと、平民の生徒。
平民の生徒の揉め事とあって、『平民会』の王であるニックンも仲裁に出て来ていた。
「砂の一族は信用ならない! お前、絶対に僕のことを狙っているだろ!」
「狙ってねーよ! 被害妄想も甚だしい」
「そもそも、僕は知ってるんだぞ。お前、入学試験でも妨害活動をしていただろう! ああいうことをするやつのことなんて信用できるか!」
「あれはだなぁ、少し説明が難しいんだが、ああした方が良いって予言があって……」
困ったように後頭部をポリポリと掻いて、なんとか説明を試みるシアン。
そういえば、砂の一族シアンにはそういう前科があった。
その被害者、俺です……。
危うく、一次試験でいきなり不合格になりかけましたよ!
「絶対に信用できない! どうせ試験で狙われるくらいなら、今潰してやる!」
「おっ? まさか勝てるとでも? 良いよ、やろうよ」
一年の決裂は始まっている。
その罅が埋まらない段階まで行く前に、動いた。
ニックンの説得を前にしても、二人は止まらない。
平民の生徒がスキルで指先に火を出す。
それと同時に、シアンが地面に両手をついて、地面に謎の紋様を浮かべる。
その直後、地面から巨大な魔植物が生えて来た。
迫力の違いに平民の生徒が尻もちをついた。
勝ち誇ったシアンの表情。けれど、呼ばれた魔植物の方は意外とあっけらかんとしている。
なんとか反撃しようと指先の火を拳大まで大きくして、それを魔植物に飛ばす。少し蔦を焼かれた魔植物が怒って自らの意志で平民生徒へと襲い掛かった。
とうっ――!
その間に割って入る。防御も攻撃も必要はないだろう。
魔植物が俺の前で急停止し、パクリと口を開けて、獣のような牙を見せる。
顔を近づけて来て、口の中からペロリと舌を出して俺の顔を舐め回す。飼いならされた可愛いペットを連想させるほどの懐きよう。
やっぱりだ。
この魔植物は俺を攻撃しないと思っていた。
この懐き方からして、間違いなくカトレア姉さんの魔植物。
シアンのスキルは具体的に知らないが、植物を操るものじゃない。さっきのを見るに、多分召喚系のスキル。どこからか、カトレア姉さんの魔植物を呼び寄せて戦わせようとしたのだ。
それに気づいて、力での仲裁は必要ないとすぐにわかった。
平民の生徒の方は既に戦意喪失。
魔植物も「姉さんの下にお帰り」との俺の言葉を受けて、大地へと帰っていった。
ただ召喚した者よりも、カトレア姉さんの弟である俺の言うことを聞いてくれるらしい。
1年生同士の本気の争い。
そして、実際に戦闘まで始まってしまい、中央中庭には大きな騒ぎになっていた。
1年生も多く集まっている。
舞台は整った。ずっとこの時を待っていたのだ。
「おい、良く聞け。ここにいる1年生全員だ!」
全員に聞こえるように声を張り上げた。
大事な段階。
まずは第一歩。ここから全てが始まる。
「次の選抜試験、気づいているか? 別にみんなで争う必要はない。誰か1人……そう、誰か1人でも退学をすれば他の299人は救われるんだ!」
ポイントの移動が無かった場合、50人がランダムに退学してしまう。
けれど、皆で争えば、50人以上の被害が出てしまう可能性だってある。ていうか、このまま行くとそうなるだろう。
けれど、最小の犠牲を考えれば、1人の退学で他の299人が救われるという道もあるにはある。
「俺は10ポイントだからな。奪い取れば10単位にもなる! お前たちから見れば、俺の10ポイントはさぞ美味しく見えるだろうな」
「……ハチ?」
ニックンの困惑した声が聞こえた。
今は目を合わせたくない。合わせる勇気がなかった。
「いいか!? 俺は絶対に生き残る! 何としてでも、この学園で生き残って、人生の勝ち組になってやる!! 必ずお前たちの誰かからポイントを奪い取って、俺だけが助かってやる! どうせ、狙われるポイント数を持っているんだ。なら、こっちから狙ってやる!」
中央中庭がシーンと静まり返る。
人だかりの中心地で、俺だけが無様に喚き散らかす。
俺だけが生き残る。
お前たちはどうなっても知らない。
全員が俺の敵だ。
10ポイントの価値を示しつつ、それを絶対に守り抜くと宣言する。
「……ハチ」
失望の色が濃く混ざったニックンの声がする。
けれど、やっぱり視線をあわせることはしなかった。
「……滑稽。悪目立ちしてる凡人以下ね」
「うわ、なんか……そういうの一番ダサいやつじゃん」
「ハチってこんなやつだったのかよ。人間追い込まれると本性みせるって言うけど」
「お前だけ退学しろよ、それで丸く収まるじゃん」
「そうだよ。その理論で行くと、お前だけがやめれば俺たちが救われるんだ!」
次々に湧き上がる、俺への批判。
良い傾向だ。
かなりの憎まれ口を叩いたからな。こうして嫌われるのも無理はない。
あの無様なセリフは、クラウス直伝! 傍で、ずっとクラウスの嫌なところを見てきたからな。振る舞いもかなり嫌味ったらしかったはず。さすクラ!
「ばーか! ようやく気付いたかよ! 俺だけが退学!? やってみろよ! 俺だけが生き残る結果になるから、見てろよ!」
「ハチ……! やめてくれ、もうやめてくれ!」
絶望。さっきのクラウス以上の絶望感で、ニックンがそれ以上何も話すなと懇願してくる。
ごめんな、ニックン。今は何も話してやれない。
そんな中、一人の大物が中庭に割って入って来た。





