82話 特別単位
――。学長視点。
学長室の扉がノックされた。
「入って構わん」
許可を出すと、静かに扉が開かれる。礼儀正しく、静かな立ち振る舞い。入って来たのは、アグナ・リェーリス先生。
魔融の極みに立ち、アーティファクトの強化に人生を捧げている男でもある。
「学長、如何なさいました。呼出状が届いていましたが」
疑い深い視線を向けてくるが、アグナ先生はもともとそういう性格のため、特にこの状況に何かを警戒している訳ではない。
しかし、わざわざ呼び出されたことである程度は察しがついているらしい。
「ドラフトでの《《不正》》についてじゃ」
「……おや、バレていましたか」
話が長くなるとわかったのか、ソファに腰かけるアグナ先生。話しやすいように、ワシもデスクから移動してソファの対面に座す。
「私には罰が下るのでしょうか?」
「いいや、不正出来るものならやってみろ、というのは生徒だけでなく教師にも適用される。この学園の基本原則のようなものよ」
「しかし、あの場で指摘していれば、私の勝ちはなかった。学長ならできたのでは?」
うーむ。
まあ、今日呼び出したのはその件についてだ。
まずは答え合わせをする必要がある。
「罰したい訳じゃない。まずは老人の楽しみに付き合ってくれ。あの日、ワシの記憶が正しければ、一番にワシがクジを引き、ついでカイネル先生がクジを引いた。そして、残った最後のクジをアグナ先生が貰った。それであっているかの?」
記憶に自信はあったが、一応の確認。既に不正がバレていることもあり、アグナ先生が素直に肯定した。
「過去にも不正をやろうとした先生はいたから、クジ引きの時は毎度、不正を暴くドキドキ感と、アタリを引くドキドキ感、二重で楽しんでおるわい。ふぉっふぉふぉ、これが実に楽しい」
「意地悪な人だ」
生かさず殺さず。確かに意地悪ではあるが、老人の毎年の楽しみなので勘弁して頂きたい。
「実はあの場でトリックを見破れなかった。見破れていたら、カイネル先生もハチを欲しがっていたし、不正を指摘していた。明らかにあのくじ引きには違和感があったが、等々答えに辿り着けず、アグナ先生に勝利を譲った」
「なるほど。あの時既に不正自体はバレていましたか……」
責める気はないので、暗くなる必要はないと伝えた。
お茶と菓子を出して、くつろいで貰う。
あるのは、トリックへの興味と、アグナ先生の選択への興味。
「クジに仕掛けがあるかと思っていたが、それが罠の始まりじゃった。思考がそこから抜け出した頃にはドラフトが終わっておったわい。そもそも、戦いの勝敗は始まる前から決まっていたらしい」
ずっと忘れいていた、というより強すぎる光に隠れていた部分。
「贋造神職。あなたが学園に来る前に持っていた称号だ。魔融の極みに隠れて、すっかりと頭から抜けていた」
魔融の理を極めたことで有名になったアグナ先生。しかし、本来のスキルをすっかり忘れていた。
この人は、贋作作りの天才。武器でも、道具でも、なんでも作り出す異端な才能。
「異才、豊饒の紋章アグナ・リェーリス先生。クジに細工があったんじゃない。あのクジを引く箱からして、既にあなたの贋作だったのだ。賢老エルダが持って来た箱がすり替えられていた。違うかな? アグナ先生」
「……正解です、学長。カイネル先生に知らせて、再抽選致しますか?」
贋作だった故に、スキルでクジも操作し放題。そりゃ勝てんわい。
「いいや、先ほども伝えたように責めるつもりはない。カイネル先生にも黙っておこう。あれは意外と根が真面目じゃからの、結構怒るかもしれん」
カイネル先生から不正の指摘があったのなら、再考する必要がありそうじゃが、今のところ騙されたことに気づいておらん様子。つつかん方が良いじゃろうて。
感謝と謝罪を同時に述べ、アグナ先生がもう一つの疑問を口にする。
「学長は宜しいでしょうか? 学長もハチを欲していたはず」
「それはよい。育ててみたかったのは本音じゃが、ポルカ・メルメルに興味があったのも真実。それに、今日尋ねたかったのはその件じゃ」
呼び出した理由。トリックについては確認だけで、なんとなくこれが正解だということはわかっていた。
「ワシの弟子から多くの逸材が出ていることはアグナ先生も承知のはず。それでも不正してまでハチを取りたかった理由。それを話して欲しいのじゃよ」
興味が向いた先はそこにある。
ドラフトであまり生徒を取ることはせず、数年に一度教師の義務で指名するアグナ先生が、わざわざ不正してまで弟子を取った理由に興味が向いた。
「ハチに関する資料を読みました。明るみになっている部分だけで、凄まじい人生を歩んでいる。豊饒の紋章とは思えない程に」
紋章の力というのは、不思議な側面がある。
まるでその人物の人生の道しるべになるかのように、タイプごとに色が出る。
戦闘の紋章はその名の通り、戦いの多い人生を歩むことが多く、「戦いを背負う者」「暴力に引き寄せられる」「守ることでしか生きられない」者が多い。
神聖の紋章は、対照的に守りや癒しの力。陰謀と権力が付きまとう人生。「誰かのために生きる者」「人を導く強い力」「清らかであろうとする強迫観念」。
豊饒の紋章は、創造生産の力。安定と平穏の道。「生み出し続ける者」「実利と成長」「失敗と成功を積み重ねるクラフター的宿命」。
最後に大罪の紋章。異質で禁忌の力。「逸脱者」「拒絶された者」「何かを裏切り、何かを選び続ける人生」とでも言うべきか。悲しき紋章よ。
この傾向から、ハチの人生が大きく逸脱していることをアグナ先生が指摘していた。
「彼の人生はまるで戦闘、神聖、あの大罪の側面も併せ持つような清濁併せ吞む人生。知れているだけでこれです。きっとまだ隠されたものがあるし、これからも起きるのでしょう」
言われてみれば、確かにその通りな気もする。
ハチの人生は異質そのもの。聞こえて来ただけで、神と戦い、魔獣にも遭遇している。貴族の権力に関する部分なので、情報統制されていてもこの耳に届いて来るほどの出来事だ。
「きっと優秀過ぎる姉たちの毒だと思います。強すぎる姉たちが彼に強い劣等感を植え付け、それが彼の紋章を歪ませた」
……それはどうも賛同しかねる。そうかの? あのハチがそんな重たいことを? 劣等感の欠片も感じぬ男じゃが。
「彼は自分の身を犠牲にする傾向があるようだ。興味を持ってから時間をかけていろいろ調べましたが、試験の内容を見てもそれは明らか」
「確かに、試験に関してはその傾向があった」
「彼は自分の命を軽視している側面がる。これもおそらく姉たちの影響だ。大事にされてきた姉たちと比べて、自分の命を軽く見積もっている。……哀れな男だ、ハチよ」
……これも少し違う気がした。ハチは確かにそういう側面こそあるが、この前メインダイニングで見かけたあやつは生を存分に謳歌しておったような。あんだけ幸せそうに食べるやつを初めて見たぞ。
「なぜか彼はやたらと頑丈だから生き延びてきたが、今後もそうだという保証はない。……武器が必要だ。彼の身を守るための」
アグナ先生特有の考え。
武器は攻撃するためではなく、人を、自らを守るために持つという信念。
学園に入って以来、ずっと生徒に強い興味を示してこなかったアグナ先生。その彼が少し思い込みが強くはあるものの、初めて興味を示したハチという生徒。
無自覚だろうが、既に師匠としての自覚が芽生えつつある。
お弟子制度の真の目的はここにある。
生徒だけでなく、極致に立つ先生方の更なる成長をも促すもの。その兆候が見られた今日の話を聞けて、既に満足である。
不正でアグナ先生はハチを引いた訳じゃない。おそらく、これも意味があってのこと。不正せずとも、あのクジ引きはアグナ先生が勝っていた気がする。
「それと、彼はもしかしたら史上初めて、神以外でアーティファクトを使いこなす存在になるかもしれない……ならないかもしれない」
「ふふっ。良い。それで良い。あまり急ぐでない。じっくりと育ててやれ」
「はい。きっと彼は今後もずっと、他人のために自らを犠牲にしても行動するのだと思います。まずはその修正をしなければ。彼の命を守るためにも、自分の出来事で怒りを持てるように」
……ハチって、そんな聖人君子じゃったか? 最近パンツ泥棒で激動している姿を見たが。なんだか人格の誤解が少しありそうじゃが、まあ良い。後はアグナ先生に任せよう。その方がおもしろいそうじゃし。ふぉっふぉふぉ。
――。
コーヒーデリバリーサービスで賑わう寮の中。
パルフェオーナー自らサービスするコーヒーの味は格別。将来官僚の道に進みたい生徒は夜も自室で座学に勤しんでいるため、休憩がてらのコーヒーは非常にありがたい。
その味が格別故に、生徒たちは自分でコーヒーを入れようとしない。あのコーヒーの味を知っては、もはや泥水のように感じられる程の質の差。
寮には警備がいて、侵入は非常に厳しい。外部の者は簡単に立ち入れない。
しかし、パルフェオーナーである彼はもはや当たり前に知られた存在。顔パス感覚で寮の入り口も通れるし、寮内も自由に闊歩できていた。上級生たちからしたら、新入生よりもずっと寮と学園に馴染んでいる存在である。
そして、彼が足を止める。
『444号室』
辺りに生徒こそいるが、誰も気にも留めない。
コーヒーのデリバリーは生徒の部屋まで届けられるからだ。気にしなければ、見ているが、見えていないのと同じ。パルフェオーナーは確かにここにいるはずなのに、まるで透明人間になったかのようであった。
足跡は残るが、居て当たり前なら残らないも同じ。
扉をノックする。
コンコンコン。
「ハチ様、コーヒーをお届けに参りました」
返事はない。
それはそうだ。
時間は20時。
ハチは自室のシャワーをあまり利用せず、大浴場を好む。昨日も、その前も大浴場で土左衛門ごっこをしているのを知っている。情報は完璧だ。
毎日のようにデリバリーサービスを行えば、そういった情報も自然と入ってくる。
高鳴る胸の鼓動。ご馳走を前にしたかのような、涎が口内で溢れてくる感覚。そして、抑えきれないリビドー!
ああ、なぜだろう。いつから自分はこうなってしまった。しかし、抑えきれない。カフェのオーナーとしてコーヒーにだけ情熱を注げることが出来たらどれほど幸せだったか。
しかし、それが出来ない。溢れ出るリビドーが、どうしてもハチの部屋へと誘う。
高級パンツを買いなおし、自室で乾かす?
くくくっ、面白い。面白いよ、ハチ君。君のパンツは私のコレクションの中でも格段にお気に入り。
それをわざわざ買いなおし、素材もアップグレードさせてくれるとは。なんたる至福!
「いただきます」
ペロリ。
室内に入り、干されているパンツを目にした。ああ、新しいエプロンの素材が目の前に。
これで私のコレクションは更なる完璧へと近づくことだろう! 更なる高みへ、今!
ああ、待っていましたよ! ハチパン!
ドドドドドドドドド!!
突如、鳴り響くラップ音。
赤い血のような文字が壁ににじみ出て『お前か』と書かれていた。
そして、扉が強く開かれた。
そこに立つ、ハチ君と、彼の同級生たち。全員私がパンツを盗んだ生徒たちでした。
……ふふっ、やられましたね。罠でしたか。年貢の納め時がやって来たようです。
――。
「現行犯逮捕だ、このパンツ野郎!」
俺の部屋に入ったカフェのオーナーパルフェさん。いいや、パンツ泥棒パルフェ。
扉の前、そして窓の外も生徒たちで包囲しているので、逃げ場はない。俺たちの怒り、悲しみ、その全部の元凶が目の前に!
「ハチ、まさかカフェにいた時から作戦が始まっていたとは……」
「後から聞かなきゃ、全然気づかなかったね」
みんなにも、あの場では黙っていた。
俺はコーヒーを飲んでいる最中に気づいてしまったのだ。
パルフェの身に着けるエプロンの異質さに。あの生地を無理やり縫い合わせたエプロンは一見すると風変りだが、その風変わりな感じがオシャレなカフェテラスと妙にマッチしていた。
違和感こそあったが、通常であれば俺も見落としていた。
しかし……しかし! あれだけは見落とせないんだよ!
『3枚買うと1枚タダ!(同じ色)』のタグ。
これだけは、絶対に見落とせない!
俺はセットで買うと1枚無料で付いて来る系のパンツしか買わない!
エプロンをそんなまとめ買いするサービスを知らないし、何より(同じ色)の部分まで同じ。
俺の愛するパンツのタグを見間違えることがあるか!
自分の愛するパンツが、他人の服を着せられたかのようにエプロンに仕立て上げられたこの悲しみ!
あちょー!!
とりあえず、パルフェにドロップキックをくらわす。
「囲め、囲め!」
「わっぱ、わっぱ!」
「タイホ、タイホ!」
全員で捕らえて、紐で拘束した。
悲願達成だ。嬉し涙で、泣いちゃう者まで。ううっ。俺たちの痛みが、今ようやく報われたのだ。
「そりゃ誰も気づけないはずだ。デリバリーサービスで当たり前に寮内に入れるその立場。あんたは姿こそ見えていたが、ほとんど透明人間も同じ。あんたがいて不自然なことなんて何一つないんだからな」
彼のトリックに気づいてから張った罠。こちらは引っかかるかどうかは分からなかった。
実際あれから3日ほど犯行が無く、空振りに終わっていたりする。
新しいパンツを購入し、自室にて干すというフリ。絶対に聞いていると思っていたが、パルフェはやはり聞いていた。
欲望が抑えきれず、いよいよ洗濯物干しエリアではなく、俺の部屋へとやって来た。
袋の鼠だよ、パンツ泥棒!
「数年、おそらく先輩方も味わって来たこの痛み。観念するんだな、オーナーパルフェ。いいや、パンツ泥棒パルフェ!」
「……やられましたね。また444号室ですか。この部屋は本当に私のとって運がない」
少し気になる言い方だった。
また444号室についての言及。
生徒たちが慌ててパンツ泥棒を室外に連れ出す。これからリンチする訳じゃない。早く学園側に突き出したい気持ちもあるのだろうが、あの青ざめた顔を見るに、俺の部屋が怖いらしい。
害はないと伝えているのに、皆俺の部屋の本当に見えない同居人に怯えてしまっている。
壁に文字が出て来て、こう書かれている。
『パンツ泥棒……絶対に許すな。コロセ』と。
いつもコロスと書く彼が、今回はコロセと書いていた。少し気になる表現の違い。まるで憎しみでも持っているかのような。
……もしや、この心霊の君もパンツ泥棒の被害者!?
そうなのかもしれない!
パンツ泥棒を捕まえた次の日、俺は学長に呼び出された。もしや学長もパンツ泥棒の被害に!?
そんな訳はなかった。パルフェ曰く、興奮を覚えるのは12歳から16歳の男性のパンツだけ。諸に寮の生徒たちがドストライクらしい。こわっ。
パンツ泥棒の件ではあったが、どうやら特別な話らしい。
「どうしました? 学長」
学長室に呼び出されて、ノックして入る。ソファに座り、テーブル上にあったお菓子をバリボリと食べ始めた。
「……先生方でさえ、遠慮するぞ普通」
「すみません。出されたものは食べる主義でして」
どうせ食べるように許可をくれると思って、その手間を省略したんだよな。うんまっ! 学長の部屋のお菓子うんまっ!
「全部食べるやつも初めてじゃ。まあええけど……」
「おかわりください」
「おかわりを要求してくるやつも初めてじゃ……」
流石は学長。ブツブツ文句を言いながらも、おかわりはくれた。
「お茶は?」
「……ぐっ」
お茶とお菓子を貰い、ようやく本題に入る。
学長が少しくたびれていた。
「おほんっ。食べたままで良いが、耳だけこちらに向けるように。パンツ泥棒確保の件ご苦労であった。シロウを始めとする生徒より、最大の功労者がハチだと聞いている」
「パンツを思う我々の志の勝利です」
「なんかよーわからんが……。実はの、パンツ泥棒の件については学園側でずっと把握しておった」
え!?
流石に手を止めた。
俺たちがパンツの痛みを味わったのは、学園側が放置していたからだと!?
「この学園では特別な単位制度、そして教師の依頼で単位が貰えるシステムを知っておるか?」
「ええ、入学時の説明で受けました」
「パンツ泥棒の件は以前議題に上がっており、特別単位指定されておった。解決する生徒が出れば、その者に単位を授けると」
「んな、無茶苦茶な。そんな犯罪者を野放しにしないで下さいよ」
「危険性が高いものに関しては放置しない。しかし、学園の自治は先生や職員方だけの仕事ではない。中央中庭を知っておるか?」
もちろん知っている。毎日のように通っているし、授業で使ったりもしている。
「あそこの花や美しい植物は生徒が管理している。学園は生徒が作りあげるものでもある。今後もトラブルがあれば、出来る限り生徒自身の力で解決するように。そのための報酬は用意してあるからの」
差し出された紙。
そこには『特別単位4』と書かれている。
「トラブルの大きさに合わせて、授与される単位も大きくなる。今回の件は数年悩まされていたトラブルじゃ。4単位を授けるに相応しいじゃろ。この単位はお主の単位が不足したときに補填するとよい。そして、他人のために使ってやってもいい」
「153期の誰かが単位足りなくて退学になりそうなときに、使えるってコト?」
「その通りじゃ。そしてこの単位は4年間のいつ使っても良い。お主に与えられた権利であり、責任でもある。どう使うか、見させて貰うとしよう」
「重たっ」
小物に背負わせていい荷物じゃないぞ。
他の生徒には知らせていないから、こっそり自分のために使っても構わないと言われたが、流石にそんなせこい事できないよな。
それじゃあ小物の枠を超えて、卑怯者だ。
単位のことはみんなに伝えて、使い道も話し合うとしよう。あれは『パンツ絆の会』が生み出した勝利なのだから。
「あ、そうじゃ。パンツ泥棒のパルフェオーナーがハチに話があるそうじゃぞ。全てを清算したいから、是非打ち明けたいことがあるらしい」
「俺に?」
まあ時間はあったので、パルフェが拘束されている場所へと向かった。この後王都の憲兵に引き渡されるらしいが、その前に彼が数年抱えていた秘密を打ち明けられる。
結構衝撃的な内容だった。
「ようやく話せてよかった。これを話すと私がパンツ泥棒だとバレてしまうからね。……むしろこうなって良かったとさえ思っている。長く黙っていてすまなかった。そして自らの欲に溺れてパンツを盗み続けたことも謝罪する。すまない」
「なーにを、しおらしいことを……」
流石に同情してはやれない。
「こうして逮捕されたこと、良かったと思っている。化け物を捕まえてくれてありがとう、ハチ。……更生できるように、塀の中で自らを省みるとするよ」
「……ああ。あんたのコーヒーは最高だからな。そうした方が良いよ」
最後に少し話、連行される姿まで見届けた。化け物の自覚はあったか。それでも抑えきれない欲求。人って生き物は本当に……。
あのコーヒーの味は忘れないよ。バイバイ。
そして、託された444号室の秘密。
……うん。
重たすぎる。あまりにも重たすぎる。
また小物が背負うには重たすぎる荷物を、パンツ泥棒からも渡されてしまったのだった。