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67話 3次試験?

 迎えた3次試験。毎年3次試験が最も厳しいらしく、試験会場に足を運ぶとやはりただならぬ緊張感が漂っていた。


 みんな昨夜はそれぞれに宿で盛大な接待を受けたに違いないが、きっと楽しめなかったんだろうなって感じが伺い知れる。ちゃんと寝れなかったのか、それとも疲労がたまっているのか顔色の悪い者までちらほらと。


 ここでいきなり踊り出したら、皆さぞびっくりするだろうな。やってみたいような、絶対にやってはダメなような……。


 今日の試験会場には椅子が300脚用意されていた。ここまで人数が絞れると少し待遇が良くなり、椅子も用意されるらしい。お茶菓子もお願いしたら出てくるかな? それはあまりにも厚かましいか? いや、頼んでみるだけ頼んでみよう。


「ハチ・ワレンジャール様ですね。本日の試験に使う番号105番です。こちらは衣服のどこかにお付けください」

「はい。あのぉ」

「どうなさいました?」

「お茶菓子ってありますか?」

「……お茶菓子!? えーと、3次試験官に聞いてきますね!」

 ちょっと大ごとになりそうだったので、すぐに大丈夫ですと訂正しておいた。

 ないかぁ。

 まあこれは仕方ない。ありがとう、と伝えて引き下がった。


 受付にて、2次試験突破証明書とナンバープレートを手渡して、代わりに3次試験用のバッジを手にする。わかりやすいように胸元に着けておいた。


 2次試験到着順と同じ105番である。これが3次試験で俺を識別する番号になることは間違いないだろう。

 誰がどの番号をつけているかも見ておきたいところだったが。


「ばっ!?」

「あだっ!?」


 横から突っ込んでくる女が一人。

 ポルカ・メルメルだ。


 今この試験地において、もっとも謎な人物。3次試験まで残っているとは信じがたいのに、なぜかこいつは合格するだろうなという予感もする。矛盾要素を抱えている!


「ごめん! ハチ!」

「おいおい、こんな緊張感の中、走り回るやつがあるか」

 走り回った挙句、俺に激突とは。ラブコメの世界に放り込んだら、ポルカはそこら中で出会いフラグが立つだろう。


「蝶々いたから! でも、こんな緊張感の中お茶菓子要求する人も、普通いないよね!」

 なっ!? 見られていたか。変人女に変人扱いされるとは、少し悔しい。

 俺の方が変人度は低いと変人協会には提出させていただく。


「……ポルカ、お前は101番なんだな」

 胸元につけられたナンバーに目が行った。

 2次試験、この女は1番で到着したはずだ。なのに101番。てっきり1番が手渡されていると思ったが。


「あっははは! ほんとだ! ねえ、ハチ。蝶々追いかけない?」

 今気づいたらしいってか、全く気にしていないなこりゃ。

「やめとく。お前のテンションにはついていけん。こっちは踊り疲れたのと寝不足でまだ頭がぼーっとしている。椅子に座って大人しく休ませて貰うよ」

「勿体ない。んー、じゃね! 私は蝶々と楽しんで来るから!」

 走り去るのを見守った。24時間幸せなやつめ。


 実は昨晩、2次試験突破の報せを運ぶと、宿屋の主人がまた宴会を開いてくれた。あれはもはや俺のための宴会というより、本人たちが何よりも喜んでいた。俺もそれに混ざって踊っていたし、何より体がいとうて、いとうて。


 寝る際に、寝返りを打つだけでも激痛が走り、ほとんど深く眠れなかった。寝付いたと思ったら腕や体に激痛が走り、強制的に目覚めさせられるといった感じで。


 おかげで、今日は一年に一度レベルで不機嫌である。試験官や試験内容に少しでも疑問点があればどんどん嚙みついてやろうかってくらいには、少しピリついている。


 席指定もされているみたいで、105番と記された椅子に座り、試験開始を待つ。俺の隣は67番と291番。3人だけくっつけられており、他の席たちとの距離が空いている。席も指定してあるってことは、最終試験はグループ試験かな?


 ここに来て初めてのグループ試験。少しばかりの不安がある。こういうのって味方運とかもありそうだしな。


 しばらく待っていると、左のグループ席にギヨム王子が座った。彼も少し顔色が暗い。俺みたいに寝不足って訳じゃない。


 たぶん、砂の一族戦士長と接近できたのに、紋章を消す手がかりを得られなかったからだろう。人生をかけて追っている手がかり。もっとも頼りにしていた相手から「答えを持ち合わせていない」と返事をされちゃな。


 罪を背負いし者か……。戦士長のあの言葉、少し気になったんだよな。落ち込んでいることは予想できたので、対策も打ってある。近づいていき、軽く挨拶をする。


「おはようございます。王子、ガーリックパンです。宿から貰って来たんですよ。たぶん、王子は朝食を食べないだろうと思って」


 なんどパンの魅力に負けそうになったか。でも、ギヨムは昨日から落ち込んでいたから、なんとなく食事を疎かにしている気がした。3次試験は日数指定がなかった。もしかしたら数日かかる試験かもしれない。


 食事をおろそかにするのはダメだ。この試験で命取りになりかねない。ガーリックの香ばしい匂いに負けそうになったが、なんとか我慢して隣のグループにいる王子に手渡した。


「……ハチ。気遣いありがとう。……けれど、朝からガーリックなのだな」

「うまいですよ!」

「う、うん……」

 めっちゃニンニク入ってますよ! 料理長が張り切って、バンバン入れてくれたから! 存分にお食べ!


「うまい……」

「元気出た?」

「……うん、少し。ありがとう。でも今日はもう口を開かないほうが良さそうだ。3次試験はグループ試験っぽいし」

 王子もそこに気づいたらしい。まあ椅子の配置を見れば誰だってわかるか。


「大丈夫ですよ。俺もガーリックパン食べていますから!」

「それ大丈夫……かな?」

「うん!」


 なんだか気にしているようだったから、そこも大丈夫だと励ましておいた。俺は5個食べてるからね!


 王子を元気づけた後は、椅子に座って待機。王子の番号は104番だった。あれ? なんでポルカだけ違うんだ。


 すぐに他の受験生も集まってきて、席が埋まり始める。両サイドも着席した。67番は少し余裕を感じられる。頭の後ろで腕を組んで若干寛ぎ気味。291番はもう最悪だ。ガタガタと震えて、顔が青い。


「おいおい、リラックスだ。呼吸が浅いぞ」

 ちょっと心配になってきたので、励ましておいた。隣にいる俺の言葉すら届いているかどうかってくらいの緊張。


 ここは、流石上位突破者と下位突破者の差なのだろう。67番はまるで自分が不合格になるとは思っていない様子だ。ポルカとは違う感じのポジティブさ。それにしても寛ぎすぎだな。


 試験官はまだ到着していないので、他の知り合いを探す。イェラがいたので、手を振って挨拶しておく。彼女の服には103番。あれ、やっぱり到着順だ。


 もう一人知っている者がいる。シアンだ。彼はイェラの前に到着しているので102番のはず。すぐに見つかって、やはり102番の番号を身に着けていた。


 となると、おかしいのはポルカの番号だけだ。これは一体……。

 どうしても気になる部分だった。

 本人は気にしていなさそうで、最前列の席で捕まえた蝶々に目を輝かせている。疑問はやはり残る。


「諸君! 注目!」


 突如壇上に飛び乗って、派手に登場した3次試験、イレイザー・ディヴァイン。黄金色の神の目こそ開眼させていない状態だが、あのシルクハットの奥より鋭い視線を俺たちに向ける。


 緊張した生徒たちはその視線に少し怯えていた。なぞの圧があるんだよな、イレイザーの視線って。


「2次試験突破おめでとうと同時に、運が悪かったねとも伝えたい」

 隣の子が卒倒しそうなので、脅すようなことはあまり言わないで欲しい。一応チームメイトになるはずなので、背中をさすってやる。


「3次試験は毎年厳しんだが、俺の試験はその中でも群を抜いて厳しいとして知られている。今年も地獄だと断言しよう」


 合格枠数は200。残った受験生は300。数字的には一番楽そうに見えるのだが、試験官がそう言うのならそうなのだろう。


 そういえば、200枠全部使うとも聞かされていない。あれ? もしかして、50人だけが合格で、入学者は特別枠の100人と合わせて150名とかもあり得るのか?


 その可能性を感じ取った瞬間、流石に俺も少し緊張した。ここで250人が不合格もあるのか。


「君たちには今3人グループを作って貰っている。隣にいるのは3次試験で君たちのチームメイトになるのだが、同時に敵ともなる。3次試験の内容は一見とてもシンプルなものだ。残った総数の300人を200人まで削り取れ。その瞬間、試験は終わりを迎える」


 んー? 芽生え始める違和感。


「100人を削るやり方だが、身に着けている番号を奪い取り破壊すればいい。それ以外にルールはない」

「ルール無しって、なんでもやっていいってことですか?」

 生徒の誰かが質問を投げかける。

 2次試験もそうだったが、生徒同志の衝突は許される雰囲気がある。


「もちろん。ルール無しってのは本当にルール無しだ。さっき言ったことを覚えているか? 君たちのグループは味方であり、敵でもあると」

 なんとなく言いたいことが分かって来た。

 なるほど、これは本当にルール無しだ。


「チームで手を組んで他チームを打倒してもいい。チームから抜け出して個人プレイをしたって構わない。あまりオススメはしないが。そして、君たちのチームメイトの番号を奪っても良いんだ。な? 要は200名まで削れば、何をしたって構わない」


 俺の両サイドはチームってより、試験側からのフォローに近い。一応あなたたち3人はチームっていう枠にあてはめていますが、最終的な判断は各々に任せますよって感じに。


「例えば、3チームで手を組んで他の生徒を打倒、なんてのも可能ですか?」

「もちろん可能。しかし、人が多くなればなるほど裏切りにも注意が必要だ。君たちは受験生。枠は200。どこまで、そしていつまで、君の隣の人物を信じていられる?」


 裏切りを前提とした試験。

 しかも2万人の中から勝ち上がって、ようやくつかんだ最終試験のチケット。気負いもあれば、引けないという覚悟もある。そんな環境でどれだけ他人を信じられるか。


 グループで動けば強いことに越したことは無いが、数が増えれば増えるだけ裏切りのリスクは大きくなる。なるほど、良く練られた試験だ。


「そして、忘れるな。裏切った生徒が、4年間共に同じ釜の飯を食う仲間になるかもしれない、その可能性を……」


 最後に怖い忠告を告げられる。そういう意味もあるのか。残酷で、歪な試験。こりゃ評判が悪い試験官になるわけだ。


「最後に、この試験には《《救い》》があることも伝えておく。押し付けられた残酷なルールの中でも、違う道はあるってことだ。これに気づけた者は特別に合格とする故、申告するが良い」


 真の合格ルートってやつか。3次試験にもあったとは。先生方の趣向なのか、それとも学園の方針なのかは知らない。けれど、チャンスが増えるのはありがたい。


 ……うーん、この試験。もしかして。


 その後、質問タイムを設けられたが、誰も挙手しない。既に試験の雰囲気に飲み込まれて、皆が疑心暗鬼になっている。ポルカくらいだろう。一人構わず笑っているのは。


「ちょっといいですか?」

 誰もしないので、俺が挙手して質問をすることにした。


「ハチか。やっぱり残ったな? 会えて嬉しく思うぞ」

「こちらも再会出来て嬉しく思います。けれど、3次試験で会うとは思っていませんでした」

 いや、正確には2次試験終わりの山頂で出会ったな。


 あの時戦士長に夢中でこちらに気づいていなかったみたいだが。あの強い戦士長と戦いたがっていたな、この人。あのままやりあっていたらどうなってたんだろう? という興味は若干ある。けれど、今は3次試験に集中だ。


「ポルカ・メルメルだけ、2次試験の到着順と違う番号が渡されています。どうしても気なるため、説明を求めます」

「……その質問には、返答を拒否する」


 ふーん。じゃあ確定だ。

 俺の中でふつふつと湧いていた疑問が繋がった気がした。


「今の質問に答えられないってことは、どうせ俺たちに割り振られた番号に仕掛けがあるってことだ。番号が点数とかに繋がるルールがなかったため、おそらく番号自体に意味があるんだ。ね、王子?」

「え、僕? ああ、言われてみればそうかもね」


 小物が試験官様にいろいろ言っちゃうのはあれだったので、ここは王子の名を借りて置く。大物ってのはやはり便利だ。


「ハチ……いや……お前」


 少し気まずそうなイレイザー・ディヴァイン。王子の名を借りたので、俺は構わず話し続ける。今日は寝不足で少し機嫌が悪いんだ。言いたいだけ言わせて貰うぜ。


「300名が残り、枠は200。こんなのは裏切り前提の試験だ。絶対に仲間割れすると断言できる。けれど、さっき試験官が言ったように同じ釜の飯を食うかもしれない仲間にそんなことをしてしまえば、今期入学生の絆はガタガタだ。別の合格ルートがあると言われたが、それは至極当然のことだと思う。ね、王子?」

「……うん」

「ハチ? あれ、ハチ……?」


 まだまだ続くぜ。いつお前のターンになると勘違いした。カードをドロー! ずっと俺のターン!!


「一見100名を削るだけで、200名は残れるような優しいシステム。でもさ、これっておかしくないか? 特別枠と合わせて300人きっかりと合格者を出すって俺たち一度も聞いていないよな。試験が地獄だと言ってたし、300人も合格者を出すつもりなんてないんじゃないの? ね、王子?」

「たしかに、そうれもそうだ。当然の考えだが、言われるまで気づけなかった」

「ハチ君? ……ちょっ、おまっ、ちょっ……」


 イレイザー、カードを置きな! まだ俺のターンは終わっちゃいない!

 またドロー! バトルフェイズに入らせて貰う!


「2次試験で、実はうちの姉さんたちが試験に協力していた。カイネル試験官から聞いたんだが、二人はゼミの課題で参加したみたいだ。学園の進級に必要な単位を貰えるんだってさ。あれれー? 俺の姉さんたちだけが優遇を受けるっておかしくない? 普通に考えれば、多分他の生徒にもこういうチャンスはあるべきだよね。ね、王子?」

「学園のシステムは知らないが、君の言う通りだと思う」

「ハチ? おーい、ハチ君? そろそろ、ちょっ、あの……」


 速攻魔法? 誰が使えると言った? 今は即効魔法も罠カードも全部無効。それしてまたドロー! エンドフェイズに入らせて貰う! 無限俺のターン!!


「ポルカの1番がまずい理由ってさあ、1から100番を狙った生徒で占めたいっていう理由があったりして。本来は2次試験のルートを知っている2年生たちが難なく1~100を取れた。なのに突如現れた異物ポルカ。彼女が1番を取ってしまった。だから3次試験では彼女に101番が配られた。そんな可能性はないか? ね、王子?」

「なるほど。ポルカ・メルメルの1番は僕も見ていた。それが彼女の番号が差し替えられた理由という訳か」

「ちょっ……ハチ!? ハチ君!! やめてくんない……!?」


 これで終わりだイレイザー・ディヴァイン!

 俺のターンの総仕上げ! ついでにドロー!


「真の合格ルートってのは試験地に隠されたヒントを見つけ、2年生を見つけ出すことだったりして。でも1~100番の人が、俺はもうあやしうてあやしうて。平等に扱えないよ。左の人とかすんごい余裕そうだもん。と、王子も思っているはずだ!」

「……いや、僕はそこまでは」

 ふー、すっきり。イライラを全部吐き出せちゃった。

 なんだかとても気分が良いや。

 

 生徒たちが自分たちの左に座る1から100番の生徒に視線を向け始める。俺と同じ疑惑を全員が持ってしまったらしい。


「職員会議! 会議、会議、会議! ちょっと待ってろ! お前ら、動くな! ちょっと学長と話してくる!! ハチ、てめー覚えてろよ!」


 あれ?

 なんかイレイザー試験官が涙を流して走り去って行った。

 あれ? 試験は?



 ――。



「わっははははははは!!」

 報告するや、豪快に高笑いするグラン学長。人の気も知らないで!


「笑っている場合ですか、学長!! 職員会議を開きましょう! ハチの野郎、許せねーよ。うおおおおおお。俺が一年かけて作り上げた試験。2年生たちに大量に単位をばらまいて作った史上最高の3次試験を、あいつに。うううっ、ううっ。がくちょー、ううっ」


 それでも学長は笑い続ける。

 なんでこの人はこう楽しそうなんだ。あんたも関係者のはずなのに。

 悔しくてたまらないぜ。


「最高の試験になるはずだったのに。歴史に残っていたはずなのに。それなのに、試験開始前に! ハチに潰された。職員会議を開きましょう。うおおおお。ううっ。くっそー、ハチめ。お前の失格に手を上げなかったんだぞ! おれぁ!」

「泣くでない。男前が廃るぞ」

「泣きますよ、そりゃ。ううっ。ハチめ、ハチ! こんな仕打ち、あんまりだ!」

「合格者はちょうど200名。良いではないか。受け入れ人数とぴったりだ」

「しかし、こんなことは初めてです。ぴったり300名を受け入れたことなんて、過去に一度もありません」

「一度もなかったとて、それがダメとはどこにも記されていない。むしろ、初めて完璧な入学を果たした期とも考えることが可能だ」

「完璧? ……ボロボロですよ、こんなのは」

「そう落ち込むな、イレイザー。長く生きておるとよくわかることがある」


 学長が窓の外に視線をやる。試験地の方を見ているようだった。運び屋を向かわせているので、学長の判断が出次第すぐに結果を知らせることが可能となっている。出来れば他の試験に差し替えたい。


「学園の歴史史上初めての合格者300名。これにはきっと意味があるのじゃ」

「意味が?」

「そう。お前の試験も、ハチが見破ったことも。そして本来落ちるはずのものが合格するのも、全部意味があってのもの。……長く生きて来た。振り返ると、偶然などなく、全てが必然であったように思う」

「……そんなもんですかい?」


 俺はまだ学長の半分も生きていない。人類最強と呼ばれるこの人程深い人生も送っちゃいない。けれど、この人のことは尊敬しているし、信頼もしている。

 きっと、俺の見えていないものが見えているのも事実なのだ。


「全く、ハチめ。あいつは一発お仕置きのパンチを入れておくとして、他の生徒も本当に……?」

「職員会議は不要。学長の裁量において、通達する。153期受験生、3次試験に乗った200名全員を合格とする。協力してくれた2年生たちも労ってやってくれ」


 帽子を深くかぶりなおした。

 まさか、こんな結末になるとはな。ハチ、お前って男は毎度毎度俺を驚かせてくれる。……絶対に一発殴るけどね。


「学長、どちらへ?」

 部屋から出ようとする学長。やけに嬉しそうだ。この人が試験結果に興味を示すなんざ、初めて見たかもしれない。


「姉妹に伝えんとな。弟が合格した旨。それとバルドの件についても話して置くことがある。お前はもう休んで良い。ついでじゃ、3次試験に残ったメンバーへの合格通知はこの学長自らしてやろうではないか」


 そりゃ、学生たちからしたら嬉しいだろう。あの偉大なるグラン・アルデミラン直々に合格を言い渡されるなんて。しかも、何もせず唐突な合格ときたらもう喜びが爆発すること間違いない。


「学長のお手を煩わせるようなことではないですよ。俺が使いっ走りに行きます」

「いいや、構わん。ちょうど、ハチに問うてみたいこともある」

「ハチに? ……わからないですね。2年前、俺にハチの偵察に行かせた際、てっきり特別枠を使って推薦するのかと思っていました。けれど、学長はハチを特別扱いせず一般試験に回した。なのに、今更問うことがあると?」

「なぜこうしたのはワシにも説明できん。けれど、こうした方が正解だった気がする。それだけのことよ」

「ふーん。たまには俺たちにもわかるように教えてくださいよ。一人だけ全部知っちゃったような顔をして」

「ふっふふん。すまんすまん。後20年は生きる予定じゃから、ワシから見て盗むが良い」


 あと20年もね。噂じゃ既に100歳を超えてるって話だけど。どんだけ生きるんだあんた。


「学長、ハチを一発殴っておいてください。それで俺も今回の3次試験のことはチャラにしておきます」

「わかった。魔力でも良いか?」

「構いません」


 153期、合格者300名か。こりゃ、また新しい風が吹寄せそうだなっと。


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― 新着の感想 ―
バトロワが始まる前に終わった。
~ グループで動けば強いことに越したことは無いが、 ここの表現がおかしなことになっており意味が通っていません。
可哀想すぎるww
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