132話 殺人事件
事件は突如起きた。
というか、事件は突如起こるものである。
ちょっ、行くよ? ねえ、準備できた? びっくりしないでね。行くからね! みたいな感じでこちらのタイミングに合わせてやってくることは稀だ。
船着き場の一番の楽しみの飯時、俺は誰よりも居座って沢山食べる。そんなことをしていたため、昼時に真面目に働いている仲間のトラブルに気づくのが遅れてしまった。
ふぃーお腹一杯だぜ。
最高に幸せを感じながら、お腹をさすって午後の仕事に戻るとき、船着き場で人だかりが出来ていた。
もちろん野次馬精神の権化みたいな男なので、俺も首を突っ込む。どうした? どうした!? おもれーことか? と。
けれど、船着き場のみんなに囲まれ、中心にいた髭面のおっちゃんは絶望感に頭を抱えていた。テンションを間違えたかも。楽しい系の騒ぎじゃないっぽい。
無理に笑顔を作ろうとしていたが、明らかに動揺が隠しきれていない髭面のおっちゃん。震える手で「大丈夫だから、みんな自分の仕事に戻ってくれ」と気丈に振舞う。みるみる青ざめる唇からも、彼の絶望具合が窺い知れる。
「なんだよ、どうしたんだ。何があったんだよ」
ただの野次馬に非ず。俺は野次馬界では名の知れた男なので、空気を読まずにずかずかと事情を尋ねる。土足なんてもんじゃねーぞ。くっさい足で新築の家に上がることも出来る男です。
遅れてやってきた面々は、俺の大胆な行動力に関心している人たちもちらほらといる感じだ。みんや、やはり事情が気になるみたい。
髭面のおっちゃんが「何でもないさ」とまた気丈に振舞うが、彼の人望がそうさせたのだろう。事情を知っている仕事仲間が割って入り、代わりに話してくれた。
「……ハチにならいいか。なあ、良いだろ? ラザルス。なんか、ハチに話したら俺たちまで少し気が楽になりそうなんだよ。ハチは随分と年下なのに、なんだか妙な頼りがいがある」
髭面のおっちゃん、ラザルスっていうんだね。今日まで知らなかったよ。名前を覚えるの苦手なんだよね。ラザルスさんが手をちょいちょいと振って、好きにしてくれと合図を送る。自分から話す気力は無さそうだ。
ラザルスさんは人望のある人だ。本当に人柄が良い。俺がこの職場にやって来た日も、輪に入れない俺を気遣って仕事場の案内なんかをしてくれた。きっとその優しさを向けられたのは俺だけじゃなかったのだろう。かつて助けられた仲間たちが、今こそ恩を返そうと彼の身に起きたことを語り出す。
一人が口を開けば、勇気が湧いたのか、目撃者が次々に現れてその許しがたい事件を口々にする。
俺たちが昼時に真っ先に飯場へと駆けこんだ時、仕事熱心なラザルスさんはまだ船着き場に残っていた。仕事のキリが悪く、その客人が急ぎで船の点検をしたいと要望していたこともあり、ラザルスさんは昼休憩の時間を費やしてまで仕事を片付けていた。彼は素でそういうことをしちゃうマジで良い人なのだ。
しかし、なぜかな。そんな善行を積み重ねている人に、突如悪魔が忍び寄って来た。昼時に船着き場に現れたのは、王立魔法学園の生徒オルカ。ラザルスさんは急ぎで荷物を運んでいたため、視察に来ていたオルカに気づけなかった。
ただぶつかったならまだ良かったのかもしれないが、荷物を持ったままオルカにぶつかってしまったため、少し外傷を与えてしまったとのこと。更に悪いのは、運んでいたものが塗料で、オルカはそれを全身に被ってしまったらしい。数日は汚れが取れないんじゃないかってくらいには全身まっ黄色のモンスターが出来上がった。……ぷっ。
オルカには悪いが、船着き場の仕事で人と人がぶつかるなんて日常茶飯事だ。俺だってぶつけられ、その5倍くらいみんなのことをぶつけている。まあ俺は運ぶ量が多いので、そこらへんは目をつむって貰っている。
その荒仕事の船着き場の監督官代理様が、一度ぶつけられたくらいで激怒だと? どこの甘ちゃんだよって感じだ。温室育ちは家にでも引きこもってな!
「オルカの野郎、許せねーよ。あの程度のことで、ラザルスさんをクビにしやがった」
「何もしねーただの権力者の小僧が、ラザルスさんのことを散々に罵っていったんだ。なんであんなに貶されなくちゃならない。俺、悔しくてよお!」
「しかもあいつラザルスさんのことを殴りつけたんだぞ。あれは単なる暴行だ。許されない。法で裁かれるべきだ!」
次々に出るわ、出るわ、オルカの悪行が。
普通に犯罪者ですわ、これ。
話はどんどん盛り上がり、オルカは今や大悪人に仕立て上げられた。俺はこの現象を知っている。被害者側は必要以上に話を盛るものだ。
「あいつナイフまで持っていたぞ」
「スキルも使おうとしていた」
「取り巻きたちにも目配せしてラザルスさんを痛めつけようとしていた!」
オルカのやつは間違いなくクズだ。悪人だ。
しかし、ラザルスさんの状況や現場の状況を見るに、みんなが言っているくらいのことはしていないはず。
「あの野郎、魔力を使ってラザルスさんを脅したんだぜ。ラザルスさんが間一髪よけていなかったら、普通に頭が吹っ飛んでもおかしくなかった!」
これとか。盛りに盛られている。
あいつは小悪党だ。クンクン。俺の嗅覚に間違いはない。人を殺すなんて大それたことは出来ない。
俺がこの話を盛られた話だと冷静に判断しているのはなぜか。それは、俺が良くやる手法だからだ。問題を解決してくれそうな人に話を伝えるとき、500%話を盛っていけ! これが小物道の教えだ。
オルカがラザルスさんを殴りつけたことと、監督官代理の権力を使って不条理にクビにしたことだけは事実だろう。実際、ラザルスさんの頬には、オルカが殴りつけたであろう証拠となる、黄色い塗料の汚れが付いている。頬が腫れて痛々しい。あいつ、魔力を使って一般人を殴りつけたな。……ちょっと、それはないぜ。
被害は話程に大きくはないが……それでは俺は久々にピキッ……激怒していた。
それはやはり、大事な仲間であるラザルスさんが理不尽な目にあったことに変わりがないからだ。
この船着き場がラザルスさん無しで回ると思ってんのか? この人の働きっぷりを、あの小物は理解しているのか?
ゆるせねー。この人には飯の恩だってあるんだぞ!
小物界の大物たるこの俺を、激怒させちまったな!
大物にはめっぽう弱い俺だが、小物にはめっぽう強い。それがハチ・ワレンジャールだ!!
バキッ!!
船着き場に、大きな音が鳴り響いた。
それは、俺の隣にあった木箱が砕け散る音だった。
激怒した俺は、身体強化をした状態で、感情に任せて木箱を殴りつけていた。あまりの威力に木箱は易々と砕け、木片があたりに散り、仲間たちを驚かせてしまった。
ごめんよ。けれど、こんなに激怒したのは久々だったんだ。
飯の面倒を見てくれたラザルスさんへの恩はとんでもなくでかい。おおよそ、返しきれないくらいにはな。
「ラザルスさん。みんな。ちょっと待っててくれ。この件は……俺が片を付ける。全部、任せて」
「おっおお」
「ハチ、なんか頼もしいぜ」
「か、輝いている?」
みんなが期待の籠った視線を俺に向ける。そんな中、当事者であるラザルスさんだけが俺のことを心配していた。
「馬鹿、やめろハチ! 何をする気か知らないが、相手は王立魔法学園の生徒だぞ。俺のことは良いから、放って置け。どうせ三日後にはもうお前さんはこの船着き場とは関係の無い人間だ。路銀を稼ぐのがお前さんの目的だろう? 良いから、面倒ごとには首を突っ込むな。自分の身を守れ。今回は相手が悪いんだ」
「ラザルスさん」
落ち着いた声で、彼の名前を呼ぶ。
全く慌てない、感情の籠っていない声だったからだろう。名前を呼んだだけで、少し彼を驚かせてしまった。
「関係なくないですよ。俺みたいな小物にもね、戦わなくちゃならないときってのがあるんすよ。逃げちゃダメな戦いが、小物にだってね!」
ふんっ。決まったぜ。
後ろから向けられる小物たちの羨望の視線を感じながら、俺は胸を張って歩みだす。決戦の場へと向かって。
覚悟しろ。オルカ。俺を激怒させたこと、後悔させてやるぜ。
……ガチャ。
「しゃちょうさーーーん!!! もう、聞いてよおおおおお!!! しゃちょうさーーーん!!!」
「なっなんだ!? どうした、ハチ君。急に!」
俺が一切の迷いなく駆け込んだ先は、港の監督官ロベール様の執務室だった。この場にオルカはいない。馬鹿め、小物の癖にトップを抑えていないとは。トップの首根っこはこのハチが抑えた!
「大事件です! うおおおおおん。これは、船着き場で働く者たち史上最大の事件ですよ! ううっ、涙なしには語れない! ちょっと、失礼を」
ロベールさんの胸元に飛び込んで、その皺ひとつないシャツで鼻を思いっきり、かむ。ぶしゅー。ふう、すっきり。
「うっ……。ハチ君、それより大事件というのは?」
「はい、ロベール様を見たら少し落ち着きましたので、ようやく話せそうです」
思いっきり深呼吸をして、俺は神妙な面持ちになる。
今から語られる船着き場で起きた事件。その小物改変バージョンがな!
「今日、船着き場にて……ラザルスさんがオルカに殺されかけました」
「なっ!? なぜ、そんなことが!」
ラザルスさんがクビにされた話を仕事仲間たちは盛りに盛って俺に伝えてくれたが、甘い。甘いよ、君たち。彼らはヒートアップするのに比例して話も盛っていた。それじゃダメなんだよ。冷静な人間には『盛り』が感づかれる。
俺は、最初から全力で盛る。
これはラザルスさんが理不尽な行いと暴力を受けた事件に非ず。俺の手にかかれば、殺人事件になるのだよ。
「あいつ、ラザルスさんが昼休憩返上で働いていた姿を、なぜか気に食わなかったらしい。急に難癖付けて立ちふさがったんです! 大量の荷物を抱えたラザルスさんがバランスを崩し、少し、ほんの少しだけ塗料がオルカにかかってしまいました……」
ラザルスさんは正義。過失は一切なし、を声高に主張し、オルカの被害部分は小声で控えめに主張する。
ふふっ、俺のやりたい放題、無双状態だ。まあロベール様を抑えた時点でこちらの勝利は確定していたんだがな。
「ラザルスは昔から働き者だからな。今日もそんなに貢献してくれていたのか」
「はい! 誰よりも働くあの人が、ただオルカの機嫌を損ねたというだけで急にクビを宣言されたのです! 話はこれだけで終わりません!」
「ラザルスをクビに!? ふざけたことを!」
いいぞ。ロベール様も乗って来た!
「去り際にあの男、足を滑らせて大量の塗料溜まりにダイブして、自分から汚れた癖に、その責任をラザルスさんに押し付けてやりたい放題。王立魔法学園の校則で一般人に対してスキルを使用してはならないというルールを冒してまでやつはラザルスさんに危害を加えようとしていました! もしも身体強化を使用できるおれが間に入っていなければ……今頃ラザルスさんはこの世にいなかったでしょうね」
俺ほどの腕前ともなると、自身の活躍まで挿入可能。登場人物ですらなかったはずの俺が、瞬く間にその場のヒーローへと昇華だ。華麗なる小物報告。くくっ、歴が違うんだよ。小物歴が。
「それはありがとう、ハチ君。本当に、君にしかできないことだ。……しかし、なぜ君が王立魔法学園の校則を知っている?」
あっ。話を盛りすぎて、墓穴も掘ります。
まあ、これはあるあるの失敗なので、当然対処法も心得ている。
「……実は、ロベール様に背中を押して貰った日から……少しだけ王立魔法学園に憧れが芽生えました。それでこそこそ情報を集めていました。恥ずかしくて、黙っていましたが」
「なんだよ。やはりそうじゃないか! 私が推薦状を書くから、君は王立魔法学園に通いなさい! オルカのスキルを止められる君なら、絶対にあの学園でも通用するはずだ。君はこんな場所で腐っているような男じゃない。もっと偉大な人物になれる!」
墓穴を掘ったせいでなんか話が逸れて来た。戻さなくては。
「俺のことは、今はいいので、ラザルスさんのことをどうにかしてくれないでしょうか? 船着き場の皆が動揺しています。オルカの好き放題にさせたら、皆の労働意欲に多大なる影響が出てしまいます」
「おっと、そうだった。その件は任せなさい。ラザルスは絶対にクビにさせないし、オルカ君にも少し罰を与える必要がありそうだ。……これは私が招いた事態なのだろうな。監督官としてもっと威厳を保つべきであった」
ロベール様の視線には強い決意の光が浮かんでいる。初めて会った時の穏健派代表みたいな表情はない。これは戦う男の表情だ。
さて、俺の仕事はこれで終わり。
小物は大物を焚き付ける。それだけで良いというか、それが一番良い。
ロベール様が動き出したので、俺は船着き場に戻り凱旋だ。
自信満々に、やってやったぜって表情で歩けば、みんな自然と俺の周りに集まりだす。
「ハチ」
「ハチ」
「ハチ!」
とぞろぞろと集まって来たところで、ラザルスさんを慕う面々が、何があったのかとまくしたてるように尋ねて来る。
「オルカの件はどうなったんだ? ラザルスさんはこの船着き場でまだ働けるよな? なっ、ハチ!?」
俺は慌てない。平静さを保ち、歩みも止めない。
満を持して、ようやく仕草で示す。
自らの首をシュッと横に斬るようなジェスチャー。
「え、やっぱりラザルスさんはクビなのか!?」
違う、違う。
無言でかっこよく示したかったが、言葉が必要そうだ。格好つけるのもそろそろ限界っぽいしな。
「首が飛ぶのはラザルスさんじゃない。……オルカの方だ」
「えっ!? マジか!?」
「なんでそんなことに!?」
「ハチ、お前すげーな!!」
全然俺の手柄じゃないというか、俺の力じゃないのに、全部俺がやってやりましたよと言わんばかりにイキリ顔で手柄を総取りする。悪いな、ロベール様。動くのはあんた。名誉は俺のもの。
「オルカの舐めた態度は許されない。本日、あの小僧に罰を加える!」
ロベール様がね。俺? いや、俺は何もしないよ? 見てるだけ。
「うおおおおお。みんな、ハチがやってくれたみたいだ!」
「ラザルスさん、あんた大丈夫らしいぞ!」
歓喜に満たされる船着き場。
「ハチ、本当なのか? 俺ぁ、この港で30年働いて来たんだ。今更ここを追い出されてどこに行けばいいかと……ううっ」
「大丈夫。全部大丈夫だから」
詳しく何があったのかと掘り下げられると困るので、俺はとっとと仕事に戻る。
誰よりも働く重要戦力だということは周知の事実なので、俺の手を止めてまで話を聞こうという者はいなかった。
ラザルスさんは嬉しさに涙していた。仲間たちもその姿を囲んで喜ぶ。まあ、ちょっとは俺も役に立ったんじゃないだろうか。
そうして2時間も働いていると、機運が高まってくる。
船着き場にロベール様と、おそらく呼び出されたまっ黄色モンスター……じゃない、オルカが登場した。
港で最も権力を持った二人がただならぬ雰囲気で向き合っていれば、馬鹿でも大きな衝突があると理解できる。
「なんだ、ロベール。僕は王族の接待で忙しいというのに、それ以上の用事があるとでもいうのか! ……くっ、この黄色い塗料が全然取れない。あの野郎、絶対に許さないからな」
「君はあの方に嫌われたはずだが、まだ付きまとっているのか? そのうち逆鱗に触れても知らんぞ」
「構うな。現状に甘んじている人間に、僕の野望なんて理解できないさ」
「構うさ。あのお方の逆鱗に触れる前に、私の逆鱗に触れてしまったからな」
「は?」
皆が固唾を飲んで見守る。
権力者たちによる港の決戦! 見守る俺たち小物! ドキドキワクワク。
やれやれ! という野次馬根性もひょっこり顔を出します。
「君に、一体何の権限があってラザルスをクビにしたのだ?」
「なんの権限だと? 僕はこの港の監督官代理だ。碌に仕事も出来ない人材を追放するのは僕の職権の範囲内だ。ロベール殿の発言こそ、私の職権を侵害していないだろうか?」
「それは随分と私と意見の相違があるようだ。私を初め、この職場の全員がラザルスの貢献を知っている。君以外は、彼を不要だとは誰も考えていない」
「どいつもこいつも正常な判断が出来ない愚か者だということだ」
二人はどちらも一歩も引かない。
しかし、やはりというか、当然勝敗は既に決まっている。
書類を取り出し、ロベール監督官がそれを突きつける。
「君の考え次第ではこれ以外の方法もあり得たのだが、もう限界だな。本日付で、オルカ・デュフォールを監督官代理より罷免する。これは正式決定であり、覆ることは無い。これより君はこの港にてなんの権限も持たない、ただの若者だ」
「なっ!? 馬鹿なことを!? 僕を罷免だと! お前、王立魔法学園に盾突く気か! 僕はあの学園から送られてきた人物だぞ。このことをグラン学長が知れば一体どういうことになると思っている!」
「当然グラン・アルデミラン学長にも報告するつもりだ。あの方が私の判断を間違いだとするのならば、処罰は甘んじて受け入れよう。とにかく、私の決定は覆らない。オルカ君、ここはメルメル領が管理する公的な港だ。関係者でない君には、即刻の立ち退きを要求する」
勝敗決する。あまりの圧勝劇。
膝から崩れ落ちるオルカ。
オルカは学園のインターンシップ先としてここに赴任しているはず。俺も少し覚えているのだが、赴任先でトラブルと起こすと確か……単位を貰えないんだよね。相当自分に非が無い限りこれは覆らないので、オルカは進級に必要な単位に問題が生じて来るはずだ。その先に待つ未来は……彼自身が最も価値を置いている学園からの、退学という名の追放。
「あっ……! がっ……!」
脳裏にその未来がチラついたのだろう。言葉にならない呻き声がオルカから漏れる。既に立ち上がる気力もない。
悪いな。小物歴の浅いガキが、小物界の大物に喧嘩を売るとどうなるか、その身をもって知れ。あばよ。
決着はついたかと思われた。
「誰か、肩を貸してやってくれ。オルカ君の宿までの道のりを補助してやって欲しい」
昨日までというか、おそらくついさっきまで取り巻きたちが指紋認証の危うくなるレベルでもみ手していたはずなのに、彼から権力が失われた途端、そういった連中は手を貸すことすらしようとしなかった。
まっ、世の中そんなものだよ。いい勉強になったんじゃないかな。人生は長い。オルカは今のうちにこういうことを知れて良かったんじゃないかと個人的には思っている。
誰も動こうとしないので、仕方なしに俺が歩み寄ろうとした途端、怒号が飛んだ。
「哀れみは結構だ!! どいつもこいつもふざけやがって!!」
おっと……。
異変を感じ取ったのは、俺だけじゃなかった。
ロベール監督官もすぐさま事態に気づいた。
「……オルカ君、その魔力を仕舞いなさい。どういうつもりかは知らないが、この場に相応しいものではないはずだ」
「うるさい! お前のせいで、僕の人生めちゃくちゃだ。王立魔法学園を卒業し、王族の庇護を受けて、大臣になり、いずれはハーレムを作る僕の夢が!」
めちゃくちゃ欲まみれだな。小物は得てしてそういう野望を持ちがちだが、この俺がドン引きするくらいの欲にまみれた人間だ。お前も上手く行けば、小物界の大物になれる器だぞ。
「クソがああああああ。全部めちゃくちゃにしてやる!」
暴走する魔力。
先日ロベール監督官から聞いていた。彼のスキルは戦闘向けのものらしい。
船着き場のみんなはろくに身体強化も使えない人たちだ。
そして対処できそうなロベール監督官は、戦闘向けのスキルではないらしい。
身体強化を終えたオルカが、常人からすると化け物的なスピードを持ってしてロベール監督官に迫る。
ロベール監督官は身体強化が完了しておらず、しかもオルカのスピードを目で終えていなかった。スキルも戦闘向けじゃないし、実線の勘も鈍っているという訳か。
……仕方ない。
悪目立ちはごめんだったが、俺が対処する他ないだろう。





