130話 書籍発売記念 閑話『倹者の書』のすすめ
本日書籍1巻発売となっております!よろしくお願いいたします!買ってくれるとハッピーハッピーハッピー!
王立魔法学園のとある生徒視点
「お前、卒業したらどうすんの?」
同級生からこの類の質問をされるのは良くあることだ。
王立魔法学園に入学してもう3年以上も経つ。来年も試験を突破すれば無事に卒業を迎えることが出来る。自然と将来のことを考え始め、生徒の間で話題にあがるのも当然だった。
「俺? 実家の方に戻るよ。俺んちはさ、ヘンダー伯爵家の庇護下にあるから、当然俺もヘンダー伯爵に尽くすよ。ここを卒業出来たら試験無しで、あの『盾持ち』舞台に入隊できる。これ以上無い就職先だし、当然そこに入らせて貰う予定だ」
「良いなぁ、目標が定まってて。俺も盾持ちに入りたいが、あそこは名誉の大きさと同じくらいきつさも膨大って噂だしな」
同じ釜の飯を食って、勉学や実習でも助け合って来た学友と一緒に盾持ちに入れたら最高だったのだが、盾持ちのきつさは本当だ。嘘でも「楽です」とは言えない厳しさがある。
「それに俺はこの学園じゃ珍しい『豊饒』のスキルタイプだ。盾持ちじゃ足を引っ張っちまう」
励ましたかったが、現在の盾持ちを見ても全員がスキルタイプ戦闘のエリートたちである。学友の紋章はあまり戦闘職には向いていない。この学園で生き残れただけでもかなり凄いと評価していた。
けれど、ふと昔聞いた噂話を思い出した。なんで忘れてたんだろうってくらい、興味深い話だったのに。
「待ってくれ。諦めるのは少し早いかもしれない。数年前に史上最年少で盾持ちへ招待された人物の話を知っているか?」
「聞いたことは……ある気がする。けれど、あれってデマだろ? 盾持ちが、部隊の厳しすぎるイメージを嫌って流した嘘って聞いたが」
「いや、俺の地元じゃ信憑性の高い話ってことになっている。当時10歳の少年が盾持ちに加わって神の攻撃を防いだという伝説だ」
怪しい。怪しすぎる話。俺だって初めて聞いたときは信じられなかった。
けれど、この話の出所を追った人がいて、出所が盾持ちの副官アトスさんだったらしいのだ。
アトスさんが嘘をつくはずも無いし、その後に噂への注意喚起などもなかったことから、この話は一時期かなり信憑性がある話として一気に広まったものだ。地元じゃ誰もが一度はこの話題を耳にしている。
当時、俺は9歳だったから随分とその人物に憧れたものだ。まだ幼い俺にとって、盾持ちに入るなんて夢のまた夢だった。それなのに、急に夢がぐっと近づいてきたような感覚。あの時の憧れや喜びの感情を鮮明に思い出してきた。
あの時のワクワク感が今の体に戻るようだ。
「世の中には凄い人物がいるものだ。ワレンジャール姉妹以外にも本物の天才っているんだな。けれどその話に、俺と何の関係が?」
「それが、その少年……豊饒の紋章を持っていたらしい」
「は?」
友人の表情からは、明確な不信感が読み取れた。
無理もない、俺だって初めて聞いたときはそんな表情をみせたものだ。
けれど、この情報もやはり出所が副官のアトスさんらしい……。
「豊饒の紋章で一体どうやって盾持ちになるのさ。普通に無理だろ! 俺はスキルタイプ戦闘のやつらの圧倒的な力の前に、何度も辛酸をなめさせられて来た。だからこそ、やつらの凄さを心底思い知らされている」
それはそうだ。
この学園でも成績優秀者はほとんどがスキルタイプ戦闘の生徒たち。
それは上級生も下級生も同じ傾向である。
けれど、無視できない話があったので、親友とも呼べる彼には教えておくことにした。
「少し危ない話だからお前にも伏せておこうと思ったんだが、実は面白い書物がある」
「なんで俺にまで伏せるんだ。俺たちの仲なのに」
随分と不満げだが、ちゃんと理由はある。何も自分で情報を独占して得しようって訳じゃない。
「『倹者の書』って知っているか? 巷でかなり高額な価格で取引されている書物で、原書の他に、その知識を活かして書かれた応用書も10冊ほど出版されている」
「それは全く聞いたことがない。なんで黙ってたのさ」
「大物貴族がにらみをきかせているからだよ」
辺りを気にしながら、声を潜めて説明する。二人してぐっと顔を近づけた。
「『倹者の書』。原書の執筆者は不明とされており、そこには豊饒の紋章の新しい育成方法だけでなく、この世界のスキルの常識を覆す程の知識が記されているらしい」
「なんでそんな偉大なものが秘匿されている。『賢者の書』が本当に役にたつなら、王立魔法学園の生徒たちにも読ませるべきだ」
それはそうだとは思うが、人と言うのはいつだって変化を恐れるものだ。新しすぎるものには、相応に高い壁が立ちはだかる。時には変化への恐れが故に、他人を迫害する輩すら出るほどに。
「賢者の書の知識が受け入れられたら、王立魔法学園だけでも教育の方針が大きく変わることだろう。世界的に見たらどれほどの影響があるか。現在の体制で得している人間たちは、変化によって損するんじゃないかって不安で仕方ないのさ。だから、領地によっちゃ賢者の書は完全に禁書扱いを受けている。読んだだけで牢獄送りって話もあるくらいだ」
「げっ。もしかして、こうして噂を広めるのも罪にあたるのか?」
「王都じゃ大丈夫だが、土地によっちゃアウトだな」
「そんな話聞かせるなよー」
なんてことをしてくれたんだと弱音を吐かれる。この学園にも大物貴族が何名もいる。彼らにもしも禁書に興味を持ったことが発覚したら、個人的な嫌がらせを受けるかもしれない。大物貴族の私刑は時として、公式の罰より重かったりするものだ。
「ここで話は盾持ちに戻る。もしもさ、賢者の書の知識を読んでお前……盾持ちに入れる可能性が出たらどうする? 禁書だからって、素直に諦められるか? あの書物にはお前の可能性を広げる知識が眠っているかもしれない」
結論はこれだ。お前、禁書で豊饒の紋章の可能性を開けるならどうするよって話。
もう3年近い付き合いだ。返事はわかりきっていた。
「……とりあえず、読んでみたい」
「よし、来た。禁書をこっそり扱う書店を知っている。今度の週末、一緒に行ってみよう」
「うっひょー。どこの賢者様か知らんが、素晴らしいものをありがとうよー」
「おい、声が大きいぞ」
「おっと。すまん、すまん」
とある小物が周りの協力を得て残した『倹者の書』。それが今、若き才能を芽吹かせようとしていた。





