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小物貴族が性に合うようです  作者: スパ郎


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129話 王立魔法学園の生徒

 あかん。路銀が足らなさすぎる。


 実家とローズマル子爵の領地を目指す旅路、俺は大きな壁にぶつかっていた。

 路銀が底をついたのだ。


 砂漠を抜けてからの旅は、日払いや困っている人たちの手助けでなんとか食い繋いできた。けれど、その幸運は長く続かず、三日ほど人に遭遇しない日もあったし、仕事の募集してないわよってことも多々あった。


 これ以上お腹が空いてしまうと気がどうにかなってしまいそうなので、辿り着いた港町でがっつりと働くことにする。

 メルメル領アサギリの街。清潔で活気のある街だ。旅行なら長居したくなるような開放的な雰囲気がある。癒し!


 2週間くらい働けばそこそこ貯蓄もできよう。時間を浪費しているようだが、結局はこれが最速の旅路になりそうな気もしている。まさに急がば回れってやつだ。


 さっそく港町で聞き込みをしていると、住み込みで働ける仕事を見つけた。

 船場の荷物運びの人員だ。かなり体力が必要だが、お前の細さで大丈夫か? と心配された。そこは無限身体強化があるので、一切の問題なし。人の倍は働くと豪語したら笑って雇って貰えた。仕事は明日からなので、今日は自由にしていて良いと告げられている。


 巨大な船が多く行き交う発展した港町。朝から稼働しているようで、多くの人が行きかう。石造りの桟橋は何列にも伸び、その先ごとに異なる大きさの船が横付けされている。二本マストの商船、船腹に鉄板を貼った輸送船、帆を畳んだまま待機する小型艇。いずれも船底は海水で黒く濡れ、長く旅してきたのだと教えてくれる。


 荷揚げ用の滑車が一定の間隔で設置され、木箱や麻袋が上下に移動している。おそらく明日から俺が運ぶのは、あれで降ろされたものになるのだろう。


 舟の修理を行っている場所もあり、近くの海面には油膜と泡が浮き、潮の流れに沿ってゆっくりと広がっていく。


 海って好きなんだよなぁ。大きいから。小さな悩みとか、俺がしがみついている小さい拘りごと洗い流してくれそうなパワーを感じる。臨時で得た仕事にしては、良い仕事と土地だなと自分の幸運に少し喜んだ。


 俺が割り当てられた住み込み部屋は、船着き場正面にある巨大倉庫の二階。一階は荷物置き場で、天井まで積まれた木箱が部屋の区切り壁代わりになっている。


 室内は四畳ほど。床は厚い板張りで、隙間から海風が入り込む。風がつめて。けれど、寝られる場所があるだけありがたい。この旅ですっかり野宿が得意になったから、屋根と壁の有難さをひしひしと感じている。


 特にやることも無いので、姉さん達から受け取ったノエルの手紙を読んでいく。ノエルの日常、そして俺を気遣う内容が書かれていた。情景が思い浮かぶような丁寧な書き方で、ノエルらしいと思えた。嬉しくなって、なんども同じ手紙を読む。全部読んで返事も書かなきゃなのに、こんなペースだと何年越しに目標達成になるのだろう。


 手紙のおかげだろうか、それとも久々の室内だからだろうか、日が暮れる時間に目を閉じるとすーと眠りに付けた。


 朝になると、下の倉庫から荷車の音が響く。

 木箱を引きずる音、滑車の軋み、血の気の多い男たちの怒鳴り声が床板を通して伝わってくる。おっ、やってんなー。いかにも港町の音って感じだ。


 倉庫裏の共同井戸にて顔を洗い、口もゆすぐ。そうしたらすっきりサッパリ気分爽快だ。

「おっ、おめーさん新入りだろう。朝食もあるからこっち来な」

 と髭面の気の良いおっちゃんに呼ばれたので、軽い足取りで付いていく。ただ飯ひゃっほーい!! って感じだ。


 大きな鍋を囲んで男たちが立っていた。巨大な竈門もあり、そこから焼き立てのパンが次々に運び出される。


「具沢山の魚と海藻スープに焼き立てパンだ。しっかり食って、しっかり働きな!」

 調理場の支配者だと思われるおばちゃんの声が良く響く。

 俺も当然頭が上がるはずもないので、ははあーと敬意を示してパンとスープを頂く。


 いつも通り秒で食べたので、おかわりを貰いに行く。

「あんた細いのに、よく食べるね。働きにも期待できそうかい?」

「うっす!」

「イキのいい奴は好きだよ。パン後何個食べられそうだい?」

「スープは5杯、パンは10本ほど」

「ああん!?」

 随分と驚かれたが、仕方ない。

 ここ数日まともに食べていなかったんだ。


 しかも要求したものを簡単にぺろりと平らげたものだから、おばちゃんを初め、俺をここに呼んでくれた気の良い髭面のおっちゃんまでみんな、ポカーンと口を開けていた。

 ふぅ、腹八分ってところかな。もう少し食べられそうだが、健康のためにはこのくらいにしておかなくちゃ。


 炊き場を出ると、そのまま船着き場へ向かった。さっそく仕事だ。今日は荷降ろし側に回された。舟の中に積まれた大量の木箱たちを倉庫まで運び入れる。


 一辺およそ一メートルの企画で作られた木箱たち。鉄製の帯で四隅が補強され、側面には注意書きと重量表示が焼き印で刻まれている。箱の底は船倉の湿気で黒く変色していた。


 滑車を利用して舟から次々に木箱が桟橋へと降ろされる。もたもたしていると桟橋が荷物で溢れてしまうので、俺たちが急いで倉庫へと運び入れる必要があった。


 運び入れの合図が出ると、二人一組で箱の縁に手を掛ける。中身も重たさそうなので、結構な力作業なのだが、俺は一人で箱を二つ持ち上げる。


「ああん!?」

 煙草をくわえていた髭面のおっちゃんが、またあんぐりと口を開けて俺のことを凝視する。吸いかけの煙草が地面に落ちて転がっていた。


「お、おいっ! 新入り、ハチって言ったか?」

「うっす!」

「おめー、とんでもねーバカ力だな! そのペースで午後まで持つのか!?」

「うっす!」

「だっははは! こりゃすげー新人が入っちまったな。みんな、ハチに負けねーようにしっかり働くぞ!」

「「「「うっす!!」」」」


 船着き場はより一層活気づいた。

 中身は金属の塊。運ぶ際に振動で箱の内部がわずかに鳴る。肩に担ぐとずっしりとした重さが体に圧し掛かる。

 俺も身体強化していなければ、こんなもの気軽に運ぶことなどできない。


 この場で働く人たちは、貴族や王立魔法学園の生徒のように身体強化を上手に使いこなせない。使えても1分が限度といったものが多い。そんな短時間では、荷物運びに役立てるのは難しい。


 よって、この場で無限身体強化を発揮できる俺は信じられない程の仕事の成果を発揮するのだった。

 昼過ぎまでかかると思われていた巨大船の荷降ろしだが、1時間くらいで終えた。


「こりゃすごい……随分と手が空いちまったなぁ。ハチ、よそも手伝っちゃくれねーか? おめーさん程の男がいれば、他も随分と助かることだろうよ」

「うっす!」

「だっははは、全然疲れが見えねーな。みんな恩には報いるタイプだ。昼飯と夕飯には期待しな。ハチ、食べるのが好きだろう?」

「うっす!」


 うっす! だけで会話が成立するので、なんとも気が楽だ。

 荷運びに集中できる点も良い。


 なんかすげー働く新入りがいるらしいぞ、と瞬く間に評判となり、そこら中からこっちの船も手伝ってくれと頼まれた。

 全然疲れないし、後でいろいろ貰えそうなので、こちらも喜んで手伝う。


 なんとも順調な2週間になりそうだなと思った時、やはりそうは問屋が卸さなかった。


「おっと、おい! 新入り、仕事を止めな」

「うっす?」

 なぜ? という戸惑った表情を向ける。仕事を止めて誰が助かるのか? と困惑していると、手をスリスリもみもみ、大勢のゴマすり隊を引き連れた若者が船着き場へとやってきていた。


 社長出勤か?


「皆、良い心がけである。今後も僕が来た際には、そのむさ苦しさを隠すように」

 え?

 本物の社長令息?


 戸惑っていると、先ほどまで一緒に働いていた荷運び仲間が耳打ちしてくれた。

「王立魔法学園の生徒さんだよ。職場体験か何かでうちに来てるんだ。ここにやって来る王立魔法学園の生徒は厄介なのが多くてな、今年はここ10年でも最悪なのが来た」

 ははーん。

 学園ではもうそんな時期か。


 俺もやったなー。

 辺境調査隊に珍味の鍋目当てで行ったんだよなぁ。そしたら、とんでもないものが待っていたんだよね。魔獣が。


 成績優秀な生徒は国の中枢に行こうとする。港町に来る者は、本当の船好きか、もしくは落伍者というわけか。

「これいつまで続くんですか? 早く仕事を再開したいのですが」

「そう言ったってなぁ。俺たちにはどうしようもねーよ、ハチ」


 王立魔法学園の生徒って称号は外の世界じゃかなりの価値があるらしい。それに彼の雰囲気から育ちの良さも感じられる。たぶん実家は貴族なのだろうね。


「おい、そこ! 何を勝手に話している!」

「やべっ」


 俺に耳打ちして情報を教えてくれた先輩が目を付けられた。俺のせいなので、彼を庇うように前に進み出る。


「お前だ! 何を堂々と僕のことを見ている! 自分の立場を理解していないのか?」

 目の前まで歩いてきて、少し見上げる形で俺の目を睨みつけてくる王立魔法学園の生徒。ふふっ、身長、俺の方が上だね。ちょっとだけ嬉しい。


 俺は2年半眠り、砂の一族の元でも数か月滞在していた。王立魔法学園に順調に通っていれば、今頃4年生の半分くらいというところか。この少年はまだピカピカの1年生。当然身長はまだ俺より低かった。身長マウント、完了。


「何を得意げにしている。クビにしてやってもいいんだぞ、小物が!」

 小物!?

 なぜ俺が小物だと!?


「すっすみません! そいつぁ今日入ったばかりの新入りでして、王立魔法学園の生徒さんについてまだ良く理解してないんでさあ。今夜しっかり教え込んでおくので、どうか勘弁して貰えないですか!?」

 駆け付けてくれたのは、髭面のおっちゃんだった。どこまで人が良いのか。こんな面倒ごとにも首を突っ込んで俺を守ってくれた。


 横目でおっちゃんを一瞥し、少年はふんっと鼻を鳴らした。

 めっちゃ偉そうやんけ!


「なるほど、ただの世間知らずか。許すのは今日だけだ。いいか? 僕はただの王立魔法学園の生徒に非ず。あのクラウス・ヘンダー様の派閥に属する大物だ。その意味、よくよく考えて、今日のおのれの愚かさと、偶然助かった幸運を噛みしめるんだな」

「うっす!」

「幸運なやつだ。僕の機嫌が良くて助かったな。さて、引き続き視察を続ける。将来、僕はこの船着き場の監督官になるかもしれないからね」

 そうなったらこの港も終わりっすね! とは心の中だけに止めておいた。

 それにしても、こんな港町でその名を聞くことになろうとは。


 クラウス・ヘンダー。


 クラウス、お前順調に4年生になったんだな。補習ギリギリな成績って風の噂で聞いてたから、俺は一安心だよ。


 クラウスとはこれでもかなりの腐れ縁だ。全然仲が良いとかじゃないが、彼が元気に暮らしていると知って、不思議と嬉しかった。


 迷惑の種が視察というか、殿様行列の行進を終えて船着き場を去るとようやく仕事が再開された。

 おっちゃんが駆け寄って来て、俺に心配の声をかけてくれる。


「大丈夫だったか? 初日から大変な目に遭ったな」

「うっす!」

「あれは少し厄介だが、すぐに居なくなるから耐えてくれ。といっても、ハチも2週間だけしかいないんだったか?」

「うっす!」

「あれが監督官になったら世も末だが、そんなことにはならない。王国はまだまだ健全な国だ。現在の監督官様も王立魔法学園出身だが、ちゃんと立派なお方だ。今度ハチが良く働くって知らせとくよ。ボーナスが出るかもな」

「うっす!!」


 ここの職場は素晴らしい。働いた分だけ報われる健全な場所だ。

 少しあれな……異端物質がいたのだが、それ以外は完璧。

 その後もしっかりと、日が暮れるまで荷物を運び続けたのだった。この日、港はかつてない程順調に諸事上手く回ったらしい。何よりである。



 ◇◇



「今日はやけに港が騒がしいな。全く……やつら、上品さとはかけ離れた存在だ。なぜ僕がこんなところに来なければならなかったのか。本当にむさ苦しい思いをさせられる」

 王立魔法学園の生徒、オルカは用意された監督官代理室内にて愚痴を述べていた。椅子に深く腰掛け、足を組み、傍付きに扇で風を送って貰っている。碌に働きもしていないのだが、テーブルの上には氷がたっぷり入ったアイスコーヒー、上にホイップクリームを添えて。


 太鼓持ちたちが傍で必死にオルカの機嫌を取る。オルカの実家はそこそこの貴族家であり、将来この地の監督官になる可能性だってある。媚びを売るにはもってこいの人物であった。

 自らの出世のため、率先して一人が外の状況を説明する。


「先ほどの愚か者ですが、随分と働き者のようです。皆がその働きっぷりに刺激されて、今日は普段よりも活気づいているみたいですな」

「活気づいているのではない。愚か者たちがただ吠えているだけだ。活気づいているというのは、僕がこの街に来た際に受けた歓迎パーティー。あれを活気づいているというのだ。これはただ野良犬たちが騒いでいるだけの、汚らしいものだ」

「ははぁ、確かにその通りでございますね。では、後程もう少し静かに仕事をするように伝えて参ります」

「そうしろ。それにしても……あの馬鹿力の男、名前をなんて言ったか?」

「ハチのことでしょうか? 今日から入った新入りですが」

「そうそう、ハチだ」


 ハチ、ハチ、ハチ……と口ずさむ。

 なにか気になることでも? と尋ねられるが、オルカはいまいち自分でも、なぜその名を気にしているのか理解できていなかった。

 しかし、確かに何か引っかかっている。何を気にしている?


「いや、どこかで聞いた名だなと思って。クラウス様から聞いたんだったかな? かつて王立魔法学園にいた伝説の生徒の名前、それが……何て言っていたか思い出せないのだ」

「王立魔法学園の伝説といえば、ワレンジャール姉妹でしょうか?」

「ワレンジャール姉妹は確かに伝説だが、もう卒業している。今の4年生、我が派閥のリーダーであるクラウス様の代にも凄い人物がいたらしい」

「でもハチとその伝説に関係があるとは思えませんが……。あれはただの臨時の働き手ですので」

「ふんっ。それもそうか。僕ほどの大物が気に掛けることでもない。それに伝説は所詮伝説。クラウス様という巨大なバックがいる僕が恐れることもないか」


 今の4年生153期は王立魔法学園の黄金世代と呼ばれる程優秀な生徒が多い。クラウス様だけではない。10名を超える天才たちが名を連ねる世代だ。


 その世代にはかつて、天才と呼ばれる10名を超えるもう一人の人物がいたらしい。しかし、噂では事故で死んだのだとか。

 結局死んでしまっては意味がないと思う。それにこういうのは大抵話に尾ひれがついて回るものだ。


 しかし、一つだけ強く気になることがある。

 普段、めったに人を褒めないクラウス様からこの話を聞いたという点だ。聞いた先が他なら大して気にもしなかっただろうが、あのクラウス様が認める程の男か……。それにしても、なぜそのことを今? 


 やはり気になる。王都の同級生に問い合わせてみるとするか。速達便の手紙を送るとしよう。

 例の伝説の男、名をなんというのか、と。


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― 新着の感想 ―
クラウス、少しはマトモな漢になったかと思いたいけど、取り巻きがコレじゃあ期待薄かな…
なんて事、ハチより小物がいるわ
>クラウス様という巨大なバックがいる僕 おいハチ!小物レベル負けてるぞ!!
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