100話 痛みは記憶の中に
選抜試験が迫る中、なかなか寮や共用エリアの居場所がないため、入学以来あまり踏み入れていなかった場所へと向かう。
メインダイニングの東側にある『記憶の図書館』
一次はガリ勉になって先生方からの点数稼ぎをしようとしていたのだが、この学園もとい、この世界ではスキルの優秀さが評価されやすいため、ガリ勉ロードは回避することとなった。
人目を避けて、壁沿いを忍び歩くことに、すっかり慣れてしまった。もともと小物なので、こういう忍び行動は得意ではあるが、少し泥棒っぽいなと自虐気味に思う。
ーーカーン!
……はい、鉄バケツ踏んだ。なんでこんなところにあるんだよ。こういう静かにしたい時こそ、謎のトラブルってあるよね。しかも作りが良いのか、やたらと響くし。
隠れて移動している中、音のせいで他の生徒に余裕でバレた。1年生もいたが、特に暴言を言われることもない。
寮内は凄く雰囲気が悪くて、たまに試験対策用にみんなが話し合っていたりもする。
俺は今、ナイフで刺されてもおかしくない立場なのだが、意外にもすれ違った1年生は普通だった……。まあ、それならそれでいいか。
辿り着いたのは、『記憶の図書館』
静謐の極みみたいなこの場所は、王立魔法学園の奥の地、深い並木通りを通った先の奥まった場所にひっそりと存在している。
大きな石造りの城のような建物の正面に、 一見、ただの古い木扉の入り口がある。
魔力の反応もなければ、警告もない。けれど、どこか厳格な印象がその扉から伝わってくる。
ここの存在は当然知っていた。問題児と天才がよく入り浸るって噂。
“本が記憶を持っている”とか、“勝手に記憶を覗かれる”とか、“気づいたら泣いてる”とか。変な噂が多い。まあ、全部オカルト寄りの話だと思って気にかけていなかった。
けれど、扉を開けた瞬間その印象が変わる。
重い蝶番が音を立て、静かに開かれた扉の向こう。
広大な書架の森。冷たい石畳。漂う古い紙と魔力を使った技術の匂い。
まるで時間が止まったかのような空間の真ん中に、保存用の魔力を帯びた書物たちが静かに眠っていた。
光が不思議だった。差し込むわけでも灯るわけでもなく、空気そのものが、うっすらと淡く光っていた。
本棚はどこまでも高く、どこまでも続いているように見えた。奥行きも高さも、現実感がなくて……どこか夢の中に足を踏み入れたようだった。
不思議と居心地が悪くなかった。
「身を隠して忍び込むのなら、黒いローブを着るべきですわね」
背後から、冷静で少し気の抜けた声が届いた。
びくっとなって振り返ると、ラベンダー色の髪をゆるく結った少女が、書架の影から現れる。整った横顔と、どこか俯瞰するような眼差し。
「クラリス・クリマージュ=ラヴァンドール」
その名を口にする。
男子寮ではギヨム王子、レ家のテオドール、伯爵家クラウス、平民の王ニックンと四天王体制が出来ているが、女子たちの事情はまた違う。
現国王の妹の一人娘、クラリスが絶対的な立場にいる。
将来の公爵家を約束された、正真正銘の大物。
まさか、彼女がここにいようとは。
「あなたが……なぜここに?」
「わたくしはここが大好きなので」
そういうことじゃなかった。
明日には選抜試験だ。みんな対策で必死だし、対策してなくても不安で閉じこもっていたりする。
いつも通り振舞っていることこそがおかしい状況なのだ。
「でも明日には選抜試験が。下手したら退学しますよ?」
もちろんそうならないためにいろいろ計画して動いているのだが、彼女のそれはやはり皆とは違う。
自分が退学にならない自信があるって感じじゃない。
そもそもそんな出来事に興味がないって感じだ。
「気づいているようね。私にはあまり興味が無いの。昔からそうなのよ。あの日からずっと……」
寂しさを感じさせる言い方。事情は全く知らない。
実はこうしてまじまじとそのお綺麗な顔を見るのも初めてだった。
「初めてなら、ご案内しますわハチ君。今のあなた、きっとこの図書館に選ばれた存在ですから」
「選ばれた存在?」
「記憶の図書館は、不思議とそういう場所なのです。何かを欲してくるんじゃない。必要になった時に、ここに来るようになるのですよ」
……全然わかんない。
サブダイニングが閉まるギリギリに行くと、その日余った材料でお菓子や総菜とか作ってくれて分けて貰えたりする。俺はメインダイニングとサブダイニングを知りつくしているため、そういう裏技を知っている。
記憶の図書館に入り浸っている上級者様の言うことは素直に信じよう。きっとその方がお得だ。図書館限定クッキーとか貰えるかもしれない。
奥へと歩いていくクラリス。彼女は、図書館にまったく違和感なく存在していた。深紅のスカーフを軽く揺らして、足音すら音楽のようなリズムで響く。立ち振る舞い、声の調子、そして物腰すべてに、“いずれ公爵”という実感のなさそうな重みがにじんでいる。
「図書館では走らないでくださいね。転んで怪我をしても誰も助けてくれませんので」
「うん、走らないよ。確かに今の俺の立場じゃ誰も助けてくれないかもな」
もしくは、何かいわくつきなのか? この学園には不思議なものが多くあるが、この図書館もそうだったりするのだろうか。
「いいえ、単純に広すぎるのと複雑すぎるのが原因です」
物理的な理由だった!!
クラリスの足取りは一定で、迷いがなかった。
彼女に導かれるまま、奥の方へと進んでいくと、突然――
バサッ!
「――っわ!? 本が飛んできた!?」
いや、投げつけられたのか?
頭上から、一冊の本がふわりと、羽根のように落ちてくる。
俺が反射的にのけぞる中、クラリスは一切慌てず、まるで花を受け取るかのように、優雅にその本を手のひらで受け止めた。
「不思議な場所でしょう? この図書館自体が、神が遺した魔道具……いいえ、アーティファクトなの」
「図書館全体が?」
「詳しくは知らないの。でも使い方は知りつくている。……これは、わたくしに与えられた必要な記憶ですね」
そう言って本を撫でる彼女の顔は、さっきまでの飄々とした態度とは違っていた。
少しだけ、遠くを見るような、さみしそうな表情。2度目だ。
図書館を移動している間、彼女は花畑にいるかのようにご機嫌なのに、途端に影がさす。
「それ、どんな記憶なんだ……?」
恐ろしかったが気になった。とんでもない爆弾があるかもしれないのに、人は秘密を沈黙は出来ないらしい。
「……母に関するものですわ。わたくしが五歳の頃に亡くなりましたの。“聖女”を守って、命を落としたのだと聞かされています」
聖女――それはこの世界で、最も尊い存在のひとつ。
魔力の奔流のような存在、神を生む人である。あの膨大な魔力を体に持ち、国を作った激情の神カナタ様もかつては人である聖女から生まれている。
その名に関わる死というのは、名誉と、重荷の両方を背負っているのだろう。
俺は何も言えなかった。
けれどクラリスは、それ以上言葉を続けず、微笑を浮かべてくれた。
「さあ、進みましょう。あなたの棚も、きっとあなたを見てますわ」
そのまま奥へ、奥へ。
沈黙が静けさに変わるあたりで――
バサァッ!!
「うおっ!? また!? 本当に、俺にも!?」
天井のどこかから、まるで待ち伏せしていたかのように、分厚い本が降ってきた。
受け止める余裕なんてない。背中に直撃しそうになって、床に転がる。
「あっぶなっ」
状況が状況なので、記憶の図書館じゃなければ誰かの強烈な嫌がらせにも見えるぞ。
転がった表紙を見ると、タイトルはなかった。
恐る恐る本を開いてみると、『食べられる魔物 魔草』
……閉じた。
「どうしました?」
「いや、なんか違う本だったみたい」
そこまで食い意地張ってない。
それに、ここは記憶の図書館じゃなかったのか?
普通に便利系の本だったんだけど……。
興味を失うと、本は自ずと手かは離れて行って、書架へと戻って行った。
……不思議だ。本当に不思議な場所だ。
もう少し進む。
バサァッ!!
今度こそ、俺へと向けられた本物の本が届く。両手に優しく収まる分厚い本。
表紙にはタイトルがない。
なのに、背表紙が妙に熱を持っていて、まるで誰かの手のひらがそこにあったみたいだった。
俺がそれを拾い上げると、クラリスが静かに口を開く。
「それは……“記憶の本”ですわ」
さっき、クラリスの元に落ちて来た本と同じもの。
そして、この図書館の本質的な本。
「うん、なんとなくそんな気はした」
「正確には、あなたと関係のある、誰かの強烈な記憶。開けば、直接繋がります」
繋がる、ってなんだ。
……Wi-Fiか? Bluetooth?
そんな馬鹿なことを考えて、少しでも気を紛らわせたくなるくらい、その本からは重たくて深い何かが滲んでいた。
心臓がひとつ、余分にできたみたいに、胸がどくどくする。
クラリスは、少しだけ目を伏せてから言った。
「あなたが選んだのではなく、ただ選ばれたのです。だから、別に見なくてもいい。これを見るかどうかはあなたの決断次第」
分かってる。けれど、ここまで来てみないのは無いだろう。普通に気になる。
俺は息を吸い込んだ。
そして、そっと本を開いた。
――ページが、風もないのにめくれる。
インクが浮かび上がるように、言葉が、音が、世界が、目の前に染み込んでくる。
そして、足元の床が、すうっと沈んだ。
えっ?
視界が歪む。耳鳴りが遠のく。重力が逆さまになる感覚。
何もしてないのに、本に飲まれていく。いや、引っ張られている。
「ちょっ……まって……!? ちょっと!?!」
視界が白に弾けた。
記憶の書が静かに閉じられた。
まるでその役目を終えたと言わんばかりに、魔力の光が本からすっと消えていく。
ハチの姿は、そこにはなかった。
彼は、今まさに“記憶の内側”へと繋がっている。
クラリスは両手を組み、静かに目を閉じた。
「……彼は、何を見てくるのでしょうね」
その声音は、淡々としていながら、どこか期待を孕んでいた。
――。
足元に硬い土を踏む感触が返ってきたとき、俺はもう、“そこ”に立っていた。
風が乾いていた。
どこまでも赤茶けた平地。岩と砕けた建材が転がり、何かが燃えた跡が黒く地を焦がしている。
地面には、焼け焦げた背丈ほどの木札が並んでいた。番号と、名前。試験者のものだろうか。
どこかで鐘が鳴っていた。
ずっと昔に止まったはずの鐘が、記憶の中でだけ、時を告げている。
……ここは、どこだ?
答えはなかった。けれど、視界の向こうに二人の青年が見えた。
一人は、まだ若さの残る痩身の男。大きな鷲鼻が印象的だ。
軍服のような制服の裾を引きずりながら、膝をつき、両手で顔を覆っていた。
その手の指の間から、どす黒い血が垂れている。
もう一人。
まるで火のような勢いで立ち上がり、そいつに詰め寄る巨漢の青年。
額に傷があり、目は灼けるほど鋭い。怒りと痛みの入り混じった叫びが、空気を裂く。
「――なぜ、仲間に手を出した!! 約束したはずだ。俺たちで、絶対に退学者を出さないって!!」
その声が、鼓膜に直接叩きつけられる。
幻なのに、痛いほど、熱かった。
「なぜだ……ディゴール」
手に血をつけた青年――ディゴールは、何も言わなかった。
反論も、弁解も、釈明も。
ただ顔を伏せたまま、立ち上がって、グランの方を一度も見ずに、走り去った。
「……っ、まてよ!」
俺は反射的に、そいつの背中を追った。わけもわからず、体が動いた。
ディゴール……だと!?
あの外務大臣ディゴールと同じ名を持った青年。
なぜ彼がここに? なんだ、その若い姿は。
……いいや、ここは記憶の図書館。そうか、俺は記憶の中にいる!
走って行く彼の背中を追う。
その背中を見ていると、胸の奥が妙にざわついた。
ディゴールが受けているこの試験って……。まさか!? 確証はない。けれど、先ほどの大柄の青年のセリフと状況的に。
もう一人の青年ってまさか……グラン学長?
「っ……待てって!」
声を張り上げながら、俺は必死にその背中を追った。
昔のディゴール。走り去るその姿に、逃げる者の卑しさはなかった。
むしろ、あまりにも痛そうで、胸が苦しくなった。
岩陰の向こうで、ようやく彼は足を止めた。
しゃがみ込むように、胸元を押さえて、息を吐いていた。
その手から、一枚の紙片が、ひらりと落ちた。
……紙?
拾い上げた瞬間、背筋が冷たくなった。
紙には、手書きの地図と、簡単な戦術図、そして計画者の名前が数名。
タイトルは、殴り書きされた赤インクでこう記されていた。
『対象:グラン・アルデミラン。排除予定。試験最終日。』
「……これ」
信じられなかった。
いや、信じたくなかった。
ディゴールの肩が、細かく震えていた。
背中で、嗚咽を押し殺す音が聞こえた。
「グラン……すまない。……すまない。約束を守れなかった。けれど、仕方ないだろう。この試験にはそもそも救いなど無い。俺たちを排除するためだけに作られた試験なんだ……」
その声は、グラン学長に向けた言い訳でも、弁解でもなかった。
ただ、自分に言い聞かせるように、擦り切れた声でそう言っているように聞こえる。
計画書の中に、ディゴールの名はない。
おそらく彼はこの計画書を手に入れて……グラン学長を裏切ることとなった。
「あんた……もしかして、グラン学……グランを……守ったのか?」
口に出した瞬間、自分でも驚いた。
俺、記憶へと介入してもいいのか? って。けれど、ここは過去じゃない。記憶の中だ。特に問題ない気もしてきた。
それに、俺の存在って近くされているのだろうか? という疑問も同時に湧いて来る。
「違う。俺はあいつの信念を裏切ったんだ」
首を大きく振って、俺の言葉を否定するディゴール。
会話が成り立っている。
「伝えなきゃ……」
思わず、俺は言っていた。
「グランに……伝えなきゃダメだろ、お前が何をしたか。お前が……誰を、どう守ろうとしたか」
ディゴールは顔を上げなかった。
でも、肩がわずかに動いた。
「こんなの……俺がやりたかったことじゃない。けれど、これ以外にはなにも思いつかなかった。俺が引き金を……引いてしまった。ああっ、争いが始まる……俺が初めてしまったんだ」
深い後悔の色。自分を責める毒が、全身も回って、恐怖へと変わっている。
俺は走り出していた。
今すぐに、この事実をグラン学長に伝えなきゃならなかった。
グラン学長は誤解している。ディゴールは確かに約束を破ったのかもしれない。けれど、彼は学長を裏切ってなんかいなかった。
おそらく俺たちに与えられたハンティングゲームと同じ試験が昔にも行われた。そこで起きた悲劇。
そんなのって、あんまりだよ!
焦げた風を切って、足を動かす。
地面は歪み、視界はぼやけているのに、進むべき方向だけははっきりしていた。
胸の奥で、誰かの痛みが鳴り響いていた。
そして、遠くに見えた。
崩れた木札のそばに、ひとり立ち尽くす青年。
赤い髪。うつむき、影をまとったまま、拳を握りしめている。……学長がまだ髪の毛ふっさふさ時代だなこりゃ。あんなイケメンだったんだ。
「おいッ! 聞いてくれ、誤解なんだ! あいつは、お前を――」
その瞬間だった。
何かが、足首を掴んだ。
「……えっ?」
見下ろすと、地面から伸びた“影”が、俺の足を絡め取っていた。
まるで生きているかのように、ぬるりと絡み、ぎゅっと締めつけてくる。
これはディゴールのスキル!?
「やめろ……! まだ、伝えてないんだ……! 離せよっ!!」
叫びもがく俺の目の前で、グランは静かに顔を上げる。
その瞳には、何も映っていなかった。声が届いていない。
そう思ったときには、視界が闇に染まり、音も、温度も、全部、消えた。
――。
「っ――!」
がばっと身体を起こす。
視界に光が戻り、冷たい空気が肌を撫でた。
息が荒い。喉が焼ける。手が震えている。
目の前には、クラリス・クリマージュ=ラヴァンドールがいた。
深く静かな目で、じっとこちらを見ている。
「グランを……」
口から言葉が漏れる。
「グランを見なかったか!? この辺にいなかったか!? なあ、今の……! 伝えなきゃ、時間がないんだ! 悲劇が起きる前に!」
思わず詰め寄ると、クラリスはほんの少し目を見開いて、それからふっと微笑んだ。
「落ち着きなさい、ハチ君。ここは記憶の中じゃない。現実よ」
はあ、はあ、と呼吸が乱れる。
ここが現実?
目の前にはクラリスがいて、確かに図書館の中だ。けれど、先ほどの世界から抜け出した感じがしない。
まるで、今もあの感覚が続いているみたいに、強烈にイメージに残っている。
「安心して。初めての人はみんなそうなるから。だって、記憶はいつだってその人にとって重要な記憶なのだから」
だから、取り乱すのは無理ないという優しい言葉。
座るように促され、そこで呼吸を整えるようにクラリスのゆったりした呼吸を真似ながらなんとか、現実感を取り戻して落ち着くことができた。
「何を見たか、話せる?」
ううん、と首を横に振った。
話せないというよりは、クラリスに話してもって感じだった。
グラン学長とディゴールが同級生だったとは意外だ。
外務大臣って聞いていたから、てっきり40代くらいのおっさんがバリバリとこなしているのかと思っていた。
グラン学長と同級生ってなると、ディゴールも100歳越えになるぞ……。
この世界の爺さんどもはどうなってやがる。それとも、あの二人だけが異常なのか? 多分後者だろうな。
「話さなくても大丈夫よ。気にしないで。けれど、苦しくなったらいつでも話して。きっとそれがあなたを楽にするから」
確かに、話せば少しは気持ちが落ち着きそうだ。けれど、落ち込むような話でもないので、やはり大丈夫だと伝える。
むしろ、俺はクラリスの方が心配になった。
彼女の記憶の本は、聖女を守って死んだ母に関するもの。
あのリアルさを体験して、動揺しまくった俺への理解からするに、彼女も過去に大きく取り乱したはず。
「……クラリス。ありがとう。もしもさ……あんたが記憶に関することで、独りで抱えきれなくなったら、その時は相談して。今日世話になった恩返しだ」
「……ふふっ。それはどうも」
俺は立ち上がった。
明日の試験に向けて、元気が出て来た。
「もう大丈夫そうね。私は立ち直るのに、1週間は要したというのに」
「俺のは自分に関するものじゃなかったからね」
とにかく、やはり答えを得た。
「クラリス。明日の試験だけど、不安に思わなくていい。やはりこの試験には明確な正解がある。今日の記憶を見て、俺はそれを確信した」
きょとんとするクラリス。
そういえば、彼女はもともと不安だなんて思っていなかった。
「んじゃ、明日は早いから俺戻るよ!」
勢いよく駆け出して、振り返ってクラリスに手を振る。
「あっ、ハチ君!」
呼びかけられたが、返事はしなかった。
……それから、迷った!
4時間後。
クラリスに見つけて貰い、半泣きで記憶の図書館を後にした。