第三部:追跡と真相
夕張の冬は容赦なく、街全体を深い雪で覆い尽くしていた。凍てつく寒さの中、佐藤恭介は夕張警察署の一室で、田村浩介の死亡に関する資料を改めて見返していた。警察の公式見解は、雪道での事故死。しかし、佐藤の胸中には拭いきれない違和感が渦巻いていた。
田村の遺体に見られたわずかな不審な点、そして何よりも、高額な生命保険金の受取人が田村の元恋人である高村理絵だったという事実。それらは全て、佐藤の中で一つの疑念へと繋がっていた。これは事故ではない、計画的な殺人ではないか。
佐藤は、夕張署の刑事たちに再捜査を依頼したが、彼らは佐藤の言葉に耳を傾けようとはしなかった。雪国の冬は事故が多発する時期であり、特に不審な点が見当たらない以上、再捜査を行う理由がないというのが彼らの言い分だった。
「東京から来たあんたには、この土地の事情は分からんだろう。冬の道は怖いんだ。それだけのことだ」
ベテラン刑事は、煙草の煙を吐き出しながらそう言った。佐藤は反論しようとしたが、彼らの表情を見て、言葉を飲み込んだ。彼らにとって、この事件は日常の業務の一つに過ぎない。しかし、佐藤にとって、これは見過ごすことのできない重大な事件だった。
佐藤は、独自に調査を進めることを決意した。まず手始めに、高村理絵について詳しく調べることにした。彼女の過去、交友関係、そして経済状況。あらゆる情報を集める中で、佐藤は驚くべき事実を発見する。理絵は過去にも、不審な事故で夫を亡くし、多額の保険金を受け取っていたのだ。
その事実に辿り着いた時、佐藤の中で全てのピースが繋がった。田村の死は、過去の事件と酷似している。これは偶然ではない。理絵は、保険金目当てに殺人を繰り返しているのだ。
佐藤は、理絵を容疑者としてマークし、行動を監視することにした。しかし、理絵は想像以上に狡猾だった。彼女は常に冷静沈着で、周囲に疑われるような行動は一切取らなかった。まるで、完璧な仮面を被っているかのようだった。
一方、理絵は佐藤の動きを察知していた。彼女は、佐藤が自分の過去に辿り着いたことを知り、内心焦りを感じていた。しかし、表面上は平静を装い、次の行動を考えていた。
理絵は、佐藤を陥れることを考えた。彼女は、佐藤を誘い出すための罠を仕掛け始めた。それは、過去の事件の関係者を装い、佐藤に接触するというものだった。
ある夜、佐藤の携帯電話に見知らぬ番号から電話がかかってきた。電話の相手は、過去の事件について何か知っているようだった。佐藤は警戒しながらも、相手の言葉に耳を傾けた。
「高村理絵…彼女は、あなたが思っている以上に危険な女よ」
電話の相手は、低い声でそう言った。佐藤は、相手の言葉に緊張感を覚えた。
「あなたは一体誰だ?」
佐藤が尋ねると、電話の相手は意味深な言葉を残して電話を切った。
「真実を知りたければ、明日、夕張川の河川敷に来なさい」
佐藤は、指定された場所へと向かうことにした。それは、理絵の仕掛けた罠とも知らずに…。
翌日、佐藤は約束の場所である夕張川の河川敷へと向かった。あたりは一面雪に覆われ、静寂に包まれていた。佐藤は、周囲を警戒しながら、電話の相手を待った。
しばらくすると、遠くから一台の車が近づいてくるのが見えた。車は佐藤の近くで停止し、中から一人の女性が現れた。その女性こそ、高村理絵だった。
理絵は、冷たい笑みを浮かべながら佐藤に近づいてきた。
「まさか、本当に来るとは思わなかったわ」
理絵の言葉に、佐藤は警戒心を強めた。
「あなたは何を知っている?」
佐藤が尋ねると、理絵はゆっくりと口を開いた。
「全てよ。私が何をしてきたのか、全て知っているわ」
理絵の言葉に、佐藤は息を呑んだ。彼女は、全てを認めたのだ。
理絵は、過去の事件について語り始めた。それは、佐藤が想像していた以上に残酷なものだった。彼女は、金のためならば、人を殺すことを厭わない。まさに、悪魔のような女だった。
理絵の話を聞き終えた佐藤は、静かに言った。
「あなたは、自分が犯した罪を償わなければならない」
佐藤の言葉に、理絵は狂ったように笑い出した。
「償う?私が?冗談でしょう?私は、誰にも捕まらないわ」
理絵は、そう言うと、懐から拳銃を取り出した。佐藤は、咄嗟に身をかわしたが、腕に銃弾を受けてしまった。
理絵は、さらに佐藤を追い詰めようとしたが、その時、背後から複数の警察官が現れた。佐藤が事前に警察に連絡していたのだ。
理絵は、絶望的な表情を浮かべながら、警察官たちに囲まれた。彼女の計画は、完全に失敗に終わったのだ。