懺悔室
「懺悔室。
対話付きの独白が許される場。
「独白、独白、独白」
私は思うのだ。独白は貴方の其処では許されない
貴方の小さなアパート、部屋。
貴方の場、もう何処にもない
どこそこ 視線が拡散さる
ほら、貴方の前でコップが笑う。」
私の大学には、奇妙な貼り紙がある。
懺悔室がこの学校にあると聞いたのは、数ヵ月前だった。
場所は図書館の裏口であるらしいことしか知らずにいました。
大学から帰途したある時 小粒の好奇が私を絡めとった。
唯それだけの理由でした。
片隅にあった、懺悔の紙片が私を駆り立てたのです。
それだけのために、たったそれだけで私は、大学に急ぎました。
図書館の片隅、それは佇んでいた。
自然を食わない、それでいて自立的に
侵入した後は、もうそれは強いられたようで、導かれたように
そこには、ふたつの椅子と暗示的な空間のみがドアノブの奥にありました。
そこには、懺悔には好ましくないほどの後光が
仄めかされていました。
それと後、隙間がありました。隙間です。
二つの椅子を盗み聞きする、とある隙間。
それを見つけた後は もうそれは強いられたように 導かれたようで
私の身体の各部は アリの大群が一斉に 砂糖に寄りつくような
あの群としたあり方で あの隙間に入っていったのです。
そこへ 二通りの足音が 空間に響きました
Aさん
「私はあの空気が嫌なんです。あの空気の各粒子に重さがあるんです。重さがある。重さとは何か分かりますか。重さが」
Bさん
「将来、将来、将来。この響き、耳鳴りとノイズの隙間に入り込むんです。」
Cさん
「彼といるために、私は私をやめました。」
Dさん
「私は、画面の前のジェノサイドと私の目の前の欠損、
この二つ、この二つの事項に対する
善なる天秤が傾かないんです。それが怖いんです。」
Eさん
「断片の集積が思考でないことは分かりますよね。」
Fさん
「人生に強迫されてるようなんです。あいつは私を脅迫するんです、選択するように。あいつは間違ってることを私に許さないんです。間違いなんてないと嘲笑うんです。間違いがないなんておかしいじゃないですか。僕らが2元律を取り逃したが最後、世界は斜めにも、横にもなるんですよ。北も東もなくなるんですよ。それなのに、選択させる。もうすでにしてる状態に犯すのです。」
Gさん
「私があの子と違うらしいのです。私はあの違うが分からない。」
Hさん
「太陽なんです、私が怖いのは
あのこうこうと放つ彼の瞳であるのです
私は意味の意味が分かったんです。
私が例えられるのは、意味の意味が気流のようなものだということです。
意味はいくつもの糸の気流なんです。その石とあそこの女性を絡めるようなそんな奇跡が意味だということに気づいてるんです。
だけど、思考がほどくことを覚えるといつしか世界が真っ白になるときがあるですよ。
」
Iさん
「おとことおんなとおんこ、3つが私の中にあります。3つあるんです。絶対に3つなんです。この事実、先生は怖いですか。」
Jさん
「センスって言葉知ってますよね先生は。私はセンスを切り売りしてるんです。センスは分かりますよね。この響き、この三文字、ヒトは好き勝手手垢をつけますよね。センスが見えるんです。」
Kさん
「ソクラテスと始めようと思うんです。私は彼を愛しています。出会いはこの大学でした。学舎の横に彼の銅像があるじゃないですか
」
Lさん
「ある文豪がいたんです。かれは現実よりも現実を作れるヒト、それが彼です。彼は重さを作れるんです。色付きの重さです。そう貴方が持ってるそのコップ。重さがありますよね。忌々しい重力のやつがあるかも分からないのに。私は思うのです。ニュートンがあの文豪を歪めたんです。これが私の今持ってる最大の発明品なんです。あの文豪が費やしたのは、事物の濃淡だったんです。確かにあの文豪は掴んでいた色付きの重さをです。」
私はこれを聴いてるとき、震えていました。
確かに震えです。あの震えは、まさに彼がいうような色付きのものです。微弱な振動が8にも9もなのです。彼女の発明は、本物だと確信しました。
Mさん
「私は今日、独白を可能にしました。それは神の発見と関係があります。今日は先生と神様について論議したく参りました。私の神と、先生の神、同じではないことは分かりますか。シュライエルマッハーをご存じですよね。そうですあの神学者です。あの天なる神様を心の牢獄にとじこめたあの彼です。私は近代神学史に弱いので、」
Nさん
「先生と神様の話をしに来ました。私は文法から論じることが私の目的です。マックス・ウェーバーって方がいたんです。そうそう。あの彼です。彼がいうところの神奉仕って言葉があるじゃないですか。私はすこぶる気に入ってしまったのです。あの言葉に。かれはいうんですね、強制と奉仕の違いを。それを私なりに文法ということからいいますと、✕✕に主語も述語も当てはめられないということです。つまり私はもう祈りと因果の果でしか
神様を取り込むことができないのです。」
Oさん
「毛細血管とやらが鎖に感じるんです。
私は鼓動の拍動に期待するときがあります。いつかこの鎖を放ってくれるのではないかと。」
私は
懺悔室の下にいる。
私は未だにそこにいる。 まだそこに在る。
この白文も意味にひれ伏されることでしょう。きっとそうです。いつになったら気づくのでしょうか。この白文の無意味に。そして私もまた無意味を意味させる。