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8.タマちゃんの成長

 画面の中の大豆さんは、左右にフェイントをかけて、身体を揺らしながら前進していく。敵の女性3型B号は、少し慌てながらも迎え撃つためのパンチを何発か繰り出す。大豆さんはそれらを的確に捌きながら、敵の懐近くまで到達する。


・・今だ!


 大豆さんの広背筋に電気信号をレベル6で送り込む。彼女の腕が、加速をつけて3型B号のみぞおちに吸い込まれる。続けざまに彼女の左大腿部と左臀部に電気信号を送り込む。今度はレベル8だ。

 薬剤はAMep剤という人工筋肉を活性化する薬を、30秒前から投与し続けている。薬剤の効果が彼女の肉体の限界を開放しているはずだ。


「行け!!」


 僕の叫びとともに、彼女の左足からハイキックがすさまじい勢いで放たれる。3型B号の頭部が大きく揺れ、膝から崩れ落ちるように倒れていく。


「うーん、まあまあかな・・・」


 中芋さんがつまらなそうにコメントをつぶやく。なんだかここ2,3日面白くなさそうだ。

 僕がシュミレーションの中で敵を倒せるようになっていき、電気ショックや鞭打ちを与えられないので、欲求不満になっているに違いない。とはいえ前よりも小さなミスでも、電撃を加えてくるようになったので、中芋さんなりにモチベーション維持に必死なのだろう。


 訓練が始まって1週間でだんだん要領がわかってきた。それとともに電撃の回数も、開始当初よりだいぶ減ったので、ボールギャグははずされた。今日でこの訓練も12日が経過している。地獄のような生活にも、人間馴染んでくるものだ。

 最近はシュミレーションで敵を倒すことができると、満足感のようなものを得られるようになってきている。


「タマちゃんは、思ったよりも筋がよさそうじゃない。かなりタイミングとかよくなってきているわね。ご褒美をあげなくちゃね」


「あ、ありがとうございます」


「ご褒美に足の指とか舐めてみる?いいわよ」


「け、けっこうです!!」


 シュミレーションをするようになって、僕は大豆さんの見方が大きく変わった。ガールズ・ファイトクラブはあまりにも過酷な競技だ。いや、競技というよりも喧嘩とか殺し合いに近い。

 何本もの過去の試合をシュミレーションした。大豆さんが過去にした試合もあれば、全く別の人の試合もある。試合の中には対戦相手が死んだのではないかと思えるような場面がいくつもあった。

 

 大豆さんの試合も何度も見た。大豆さんの攻撃はスピード重視で、敵の攻撃をかわしながら、距離を保ちつつクリティカルな打撃を積み重ねていくことが多い。打撃面では蹴り技が中心になっている。体格的に打撃自体はあまり威力がないので、急所に的確にヒットさせて、敵を倒している。

 

 大豆さん自身が、ブラックアウトしたと思われる試合もあった。

 試合開始1分ほどでパワー系のファイターの打撃をくらい、意識が飛んでしまったようだ。逆に意識が飛んだことで、続行不可能となり、試合が終了したので助かったのかもしれない。あのまま意識が残っていたら、死んでいた可能性もある。


 大豆さんは、ひょうひょうとしていて、ハチャメチャな性格だ。おそらく学校も行っていないし、集団行動の経験がないのかもしれない。いい人なのかと聞かれれば、よくわからない。いやいい人ではないか。

 

 けれど、僕が経験したことのない、そんな試合を幾度も乗り越えて、今ここにいるのだ。それは、すごいことだと思う。


 僕が忙しいだけの怠惰な日常を送っていたことすら、申し訳ないと思ってしまう。僕は生まれて初めて、真剣に没頭して練習に取り組んだ。

 口に出して本人に伝えるつもりはないけれど、大豆さんがこんな世界に身を置いているのは絶対に間違っていると思う。


「ところでタマちゃんはガールズ・ファイトクラブを生で見たことがある?」


「いや、ありませんね・・・。動画配信とかしていないんですか?」


「うーん、していることはしているみたいだけど、本当にお金持ちの屑野郎しか会員はいないわね。あれならタマちゃんみたいに、触手とかが出てくる変態アニメをみているほうがよっぽどましね」


「な、何を言ってるんです・・・!!!」


「あら、嘘ではないはずよ。経歴に書いてあったわ」


 確かに嘘ではない・・・。嘘ではないからこそ、隠したいのが男心なんだけど・・・。

 僕が反論できずに、魚釣りゲームの魚のように口をパクパクさせていると、

僕のことなど全く気にせず、大豆さんは話を続けた。


「次の日曜にガールズ・ファイトクラブのエキシビジョンマッチが開催されるわ。タマちゃんも雰囲気を体験しておいた方がいいでしょう?前みたいに本番で勃たなくって、初体験に2時間かけました、みたいなのはよくないでしょ」


「どこまで、僕の情報を調べているんですか・・!?」


「まあ、タマちゃんの初体験の話はどぶに捨てておくとして、雰囲気は味わっておいた方がよいわ。中芋さんが二人分のチケットを手に入れてくれたの。タマちゃんも一度見学しておきましょう」


「ぼ、僕もはいれるんですか?」


「ふふふ、ちょっとしたデートみたいね。帰りに高級フランス料理店のフルコースディナーとか予約しておいてもいいわよ」


 殺し合いのような試合の後で、そんなディナーを食べたいとは全く思いませんが・・。あんな殺し合いをしておきながら、このつかみどころのない性格はいったい何なんだろうか・・・?














敵の

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