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44.目覚め

 目が覚めて、暗闇の向こうに見えたのは、見慣れたダイズ・メディカルセンターの天井だった。たぶん夜なのだろう。部屋の中は夢ではない現実の暗さに満ちている。目が慣れるていくにともない、長い迷宮から戻ってくるように、ゆっくりと頭が覚醒していく。

 ぼくが眠るベッドの隣に、もうひとつベッドが並んでいる。ベッドの上には色とりどりのコードが繋がったヘルメットのようなものが置かれている。


・・・・なんだろうこれは?


 コードをたどっていくと、僕のベッドの枕元に伸びている。頭に手をやると、どうやら僕の頭にも同じものが被せられているようだ。

 あごひもをとると簡単にそれは外せた。ヘルメットを脱ぎ、半身を起こしてみる。隣のベッドは薄い布団がめくれ、枕が頭の形に凹んでいる。

 

 それを見た瞬間、僕は夢の出来事を鮮明に思い出す。抱きしめた大豆さんの感触。感情が零れ落ちた大豆さんの泣き顔。


・・・・大豆さん!!!


 暗闇の中、ベッドの上で僕は、慌てて部屋中を見渡し、大豆さんの姿を探す。




「・・・ただいま、・・タマちゃん・・・」


 窓際に月明かりを浴びて、少し恥ずかしそうな声が聞こえる。ずっとずっと聞きたかった、この世界にいて欲しかった、かけがえのない人の声だ。


「大豆さん・・・・」


 窓から漏れている光に照らされ、逆光で顔がよく見えない。けれどそのシルエットを見間違うことはない。頭の中で記憶を手繰り、ずっと思い描き続けていたのだ。


「おかえりなさい・・・。おかえりなさい。大豆さん」


 涙がまた溢れてくる。嬉しくて、たまらなく嬉しくて流れる涙は、とても暖かい。

 

 立ち上がった僕は、大豆さんの傍に立ち、その顔をじっと見つめる。ぼくと同じように大豆さんの頬にも涙が光っている。伏せた瞳は潤んでいて、月明かりにきらきらと輝く。

 夢の中でもそうしたように、僕は大豆さんをぎゅっと抱きしめる。二度とこの世界から大豆さんが消えてしまわないように。強く強く。


 病室の中に伸びた重なった影。時が止まったようにいつまでも、その影は重なっていた。

 






 「だーーーから、ぜーーーんぶ計算通りだったわけだ!うん。お前たちはもっともっとアズキちゃんに感謝した方がいーはずだぞ?」


 翌日の朝、僕と大豆さんはアズキ第1研究室に呼ばれていた。相変わらず高級そうなダイニングセットの皮張りのソファにDr.アズキは足を組んで座り、その向かい側、ガラステーブルの前で僕たちは直立不動で立たされている。Dr.アズキはメガネをクイっと押し上げると、さも得意げに種明かしをし始めた。


「タマオみたいなスットコドッコイには私の真意がわからなかっただろう?ん?レイアちゃんの人格を消すぞなんて言うDr.アズキはひどい人だ、なんて思ってたんだろう?ああいう風に言えば、タマオみたいな夢見る童貞もどきは、必死こいて向こうでレイアちゃんを見つけて、連れて来ると思ってわざとああいう言い方をしたわけだよ」


 鼻の穴をふくらましながら、自分の作戦を披露するDr.アズキはなんだかんだ言って嬉しそうだ。ちゃんと大豆さんのことを考えていてくれたのだ。


「で、タマオに麻酔をかけて、ふたりの脳と脳を電気信号でドッキングしたわけだ。あの精神世界でシンクロすることができるヘルメットもメイド・バイ・アズキちゃんだからね。まあ、人体で試したのは今回が初だけどね。結果見事にシンクロして、タマオがレイアちゃんの精神体を連れて戻ってきたわけだから芸術的な計算だろう?いやーーーここまで予想できるのは世界でアズキちゃんだけだね。間違いない。で、ふたりはどうやってこのご恩を返してくれるのかなーーー???」


「が、頑張って仕事で返させてもらいます!」


「ふーーーん。まぁ、スットコドッコイは馬車馬のように働くしかなさそーね。一生かけて頑張んなさい。さて・・・・レイアちゃんは何で返してくれるのかなーー?」


 Dr.アズキはにやついた表情で大豆さんの前まで歩いてくると、おもむろに顔を近づけて、下から耳にフーっと息を吹きかける。


「ひゃっ・・!」


「いい反応ねーー。うん、レイアちゃんはいろいろな返し方がありそーねー。ちなみにアズキちゃんは両方、オッケーな人だからね。ウフフ。一緒に働くの

楽しみねー」


 Dr.アズキは相変わらずセクハラ全開だ。確か大豆さんはまたDr.アズキの警護をやることになっているはずだが、大丈夫だろうか。警護が必要なのは大豆さんのほうな感じもしてしまうが・・・。

 どうも大豆さんの周りにはセクハラ好きの男女が集まってくるらしい。


「とはいっても退院したあとすぐに働かせるほど、アズキちゃんは鬼じゃないわ。むしろ天使だからね。1か月お休みをあげるわ。たぶんそのあいだにレイアちゃんはいろいろ手続きがあるはずよ。ガールズ・ファイトクラブの事務局と連絡をとった方がいいわね」


 僕と大豆さんは予想外の優しさに思わず顔を見合わせる。正直なところ、すぐにでもこき使われると思っていた。


「まあ、ふたりでせいぜいのんびり、イチャイチャ楽しんできなさい。そのあとは泣くほどこき使ってあげるから。一応毎週月曜だけ検査に来てもらうけどね」


 そこまで言って、Dr.アズキは珍しく優しく微笑みながら、大豆さんの前に右手を差し出した。


「ふたりともガールズ・ファイトクラブ優勝おめでとう。そして、レイアちゃんがちゃんとこの世界に戻ってくれてよかったわ。これからもよろしくね」


 大豆さんとDr.アズキが握手をする。

 僕とDr.アズキも握手をする。


 誰かに支えられ、多くの人に支えられ、僕たちはこの世界にいる。手をとりあうことで進める未来がある。


 変わった人だけど、今はDr.アズキと出会えたことに感謝だ。







 


 





 






 


 

 

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